徒手格闘、空手の若かりし達人(2)
父の仕事も終わり、喫茶店に迎えに来る、ゆりさんが、父にいつの間にか連絡を入れておいたようだ。
「ゆり義姉さん、すみません、一刀は迷惑かけませんでしたか?あと、例の件のお願いは、どうなりました?」
話しつつ、ウェイトレスの方に目線をずらす。
「秀には、了解とりましたよ、最後まで女の子と勘違いして、口説こうとしてましたし」
「そうそう終始、ニヤニヤしてましたし、俺の嫁にとか言っていたし」
おい、余計なことを言っているぞ、このふたり。
「そういえば、妹にできないかな~とか言ってなかった?」
ゆりさんは、ウェイトレスのお姉さんに、話しかける。
「え~と、それはそれで、そんだけ一刀くんが可愛い訳でって、ゆり!そんなに言うのひどくない?
稽古つけられるように協力したし、一刀君が男の子か女の子かもおしえてくれなかったし・・・
あんなに、中性的な顔立ちじゃわからなかったわよ」
困り顔で唇を少し噛みながら、一刀に抱きつく、ウェイトレスのお姉さん。
一刀の顔が、お姉さんの胸に押し付けられる。
「くるしいよ」
やっとの思いで、胸から脱出する。
ゆりさんは、楽しそうに一刀を見ながら、
「そう言えば、ウェイトレスのお姉さんのことは、名前も教えてなかったわね、この子の名前は、美咲って言って、短大の時の親友なのよ、胸のサイズなんか、Eカップもあって。あと、弟の秀くんには・・・まさか短大時代に親友の弟に告白されるとは思ってなかったけど、そんな腐れ縁かな。秀君、まさか、夫の部下になるとは思ってもみなかったなぁ」
なんかすごいこと、言ってないゆりさん。
「そうだよね、秀の奴、ゆりを家に呼んだ時、挨拶に来たと思ったら、一目ぼれです、付き合ってくださいだもんね。でもゆりだって、間髪入れずに、ごめんなさいだもんね」
唇をかんでいた美咲さんは、笑顔になって「、話し出す。
父まで笑い転げている。
秀さんごめんね、酒のつまみになっているよ。
「あしたは、お母さんと、図書館に行くのだろう。もうこんな時間だ。お母さんも心配しているかもしれん。ゆり義姉さんと美咲さん、ありがとうございます」
頭を深々と下げる父を見て、あわてておじぎをする。
挨拶をかわし、車に向かう。
車を置いてある駐車場に向かう際に、今日の出来事を振り返る。
美咲さん、なんか怖そうな雰囲気を持ってたけど、話をしているうちに温かい人だったのが解ってきた。
つり目で、金髪、周囲に人を寄せ付けそうもない美人だったな・・ツンデレみたいだけど。
秀さんは、稽古で会えるけど、美咲さんにも会いたいと思う一刀であった。
車の中で父は
「一刀、今日、ゆり義姉さんと美咲さんの会話は、勇義兄さんには、ぜっっったい、絶対に言うなよ。
血の雨が降るからな」
「お母さんには、言っても平気?今日の事、絶対聞かれるよ?」
少し黙り込む父だが
「稽古は付けて貰えること、教えてくれる人に会ったことだけにしとけ」
「じゃあ、ゆりおねえさんが告白されたこと以外なら、話してもいいんだね」
「そうだな」
うなずく父。
何も考えていないのだろう。
「でも、ゆりお姉さんってなんだ?なんで、ゆり伯母さんって呼ばないんだ?」
「お父さんは乙女心が、まったく解ってないんだね」
「そうなのか?お母さんを愛してることは、伝わっているし、乙女心も解っていると思うのだが」
しかしなんだか、今日は、悪戯したい気分なのだ。
母に報告する事で、父を困らせる悪戯をしてやろう。
もちろん、父と約束した義姉が秀に告白されたことがあることは、言わない。
乙女心を馬鹿にした父に天誅を!
車を走らせること20分、家の明かりが見えてきた、すると、父は、クラクションを鳴らす。
「プップーーー」
なんともかわいらしい音である。
安っぽい音だが、このクラクションの音が一刀は好きだ。
「一刀、そろそろ、カー用品店でクラクション変えていいか?ほかの奴にも、似合わないですよね、鬼の一騎2曹の車のクラクションの音とは‥‥と笑われているんだ」
「そんなこと言ってるけど、お母さんもこの音、かわいいから好きっていってたよ」
「そうなのか・・・そうか」
なんだか、寂しいのか、嬉しいのか、声が濁ったように聞こえる。
田舎で、家が近くに無いからこそ、クラクションを鳴らすことにより、家に着くことを母に教えているのである。
家に着くなり、母の声が聞こえる。
「お帰りなさい、一刀、一騎さんてっ言うか、ア・ナ・タ・・♡」
「ああ・・ただいま」
いま、流したのか?それとも恥ずかしかったのか?あっ顔が赤い・・うれしはずかしかったのか。
「お姉さんには会えた?一刀」
「ゆりお姉さんだったら、会えたし、徒手格闘と空手を教えてくれる人は、ゆりお姉さんの親友の弟だったんだよ。それに、勇おじさんの部下だったんだ」
目をキラキラさせて、話す一刀の話をさえ切り、母が質問をしてくる。
「お姉さんは、一刀に、なんでゆりおねえさんと呼ばせてるの?ゆり伯母さんじゃあ無いんだ」
ちょっと、助けて、お父さん・・目で合図を送る。
ちょっとは、身に染みたか一刀、お父さんはなにもできないと目で訴える。
しょうがない、しょうがないよね、ゆりお姉さん・・・
「あのね、お母さん、ゆりお姉さん・・ゆり伯母さんは、女性なんだよ。いつまでも若くいたいんだよ、伯母さんなんて、僕‥僕言えないよ」
「一刀、女心が解る子に育ったんだね。・・・・女たらしには、なってはいないよね」
慌てて父は何かを言おうとしてるが、考えがまとまらず何も言えない。
「一刀くらいの、いや、一刀の10分の位1くらい乙女心を理解できれば、もっと、女性にモテるのに」
少しのため息が聞こえる。
「女性は、龍美さえいればいいんだよ」
やっとのことで声を掛けることが出来た父。
拍手を送りたい。
しかし、母だけってなんなんだ。
いいたいことは、わかるけどさ、妹が生まれてきたら、どういう風に言うのよ。
もっと気の利いた事を行動しながら言わないと。
壁ドンしながらとか・・・古いか?
母から、耳元で、
「一刀、今日はお母さんと一緒に寝ようね♡ お父さんは、一人で寝て頂戴ね」
少し,とげのある口調で言う。
残念過ぎたね、おとうさん。
ご飯を食べたのち、一人寝室へ行く父。
「さあ、一緒に寝ましょうね、一刀」
久々に、母の胸の中で眠りに就く一刀であった。
母と二人、布団の中に入るなり、一刀に抱きつく母、これはなんか嫌な予感がする。
「一刀、おかあさんに言ってないことがあるでしょう」
鋭い、俺の顔に、出ていたか?そんなそぶりも、したつもりもない。
「おかあさん、なんでそんなこと聞くの」
母は、一刀の体のにおいを、クンクンと嗅ぎながら、ニヤニヤしている。
「なんか、女性のにおいがする、お姉さんのにおいとも違うし、抱き着く位の可愛い女の子でもいた?
お父さんと違って、一刀は、乙女心が解る子だもんね」
抱き着く力が強くなる。
「ちがうよ、ゆりお姉さんの友達に可愛いって言われて・・・・・ちょっと抱きしめられただけだよ」
「ふ~ん、それで?」
「あとは、ゆりお姉さんの友達の美咲さんの弟の秀さんに、あったの」
「それから?」
へ、何か気がついてる?僕は何も言ってないし、父も何も言わず、寝室に入っていった。
白状するしかないか。
「秀さんが、僕のこと、嫁にするとか、美咲さんと秀さんに妹にするとか言われて、大変だった」
「ふ~ん、(怒)一騎さんも勇さんも、お姉さんまで、ちゃんと、説明してなかったの?一刀が男って」
「してなかったから、こんな風になったんだよね?」
一刀は、泣きそうな声で話す。
「今度、3人には、謝ってもらいましょう、明日は早くから、図書館に行きたいのでしょう?
じゃあ、おやすみなさい」
部屋の電気を消して、寝に入る。