剣術指南 (2)
美月は少し不機嫌そうに話し出す。
「ちょっといいかな?」
早く稽古をしたかったのかもしれない。
「うん」
「うんじゃないよね、私の方が年が上なのだから、ハイって言ってね、先に入門したのは私なのだから、これからは、姉、弟、子、うーん、いい響き」
「ハイ、お姉ちゃん」
「姉弟子もしくは、美月姉ちゃんと呼んでも良いから、奥の部屋で稽古着に着替えたら、来なね」
「ハイ、美、美、、、美月お姉ちゃん」
「いい子は好きよ」
恥ずかしながら、そう返事をすると、美月は少しもじもじしながら、ほほを赤くし、顔をそむけた。
俺は、急いで奥の部屋に行く。
なんだか、美月に昔に逢ったことがある感じがする。
そんなはずはないのだが、懐かしい、、「中条流」なぜだか言葉が出た。
それにしても、とある事情とは、何を意味しているのだろう。
そのうち、美月か勇おじさんは、話てくれるのだろうか。
※中条流とは小太刀の扱いを得意とする流派であり、佐々木小次郎が収めたと考えられる流派の一つではあるが、小太刀より、物干し竿と呼ばれる長刀を使用していたので、長刀を小太刀のように振り回す力をもっていたかもしれません。
慌てて着替えようとするのだが、Tシャツやズボンを着替えることは出来ても、袴などは着た事もはいたこともない。
いくら過去の記憶があっても全てを思い出しているわけでもない。
朧気に、足を通していたりするうちに、絡まり、動けなくなってしまった。
10分経っても道場に稽古しに来ない一刀にしびれを切らし、美月が部屋に来る。
「どうかしたの?」
心配そうに部屋をのぞき込む。
「うーーーーーん」
ちゃんと着付けの出来ていない、俺を見て、犬や猫がじゃれているかのようにみえた美月は
「くぁいい」と呂律の回らない言葉を無意識に出している。
「助けて、美月姉ちゃん」
「助けてください、美月おねえさまっでしょう?」
まさに、ツンデレ?小悪魔?
可愛い笑顔で、すぐさま稽古着をほどき始める。
「稽古着は、初めてだったの?教えてくれれば、着せてあげたのに」
結局着せてもらうことになり、裸を見られてしまった。
「ありがとうございます、美月姉ちゃん、ちょっと恥ずかしかった」
心の声まで出ている。
「じゃあ、稽古をしに行くわよ」腕をつかまれ道場に向かう。
最初のうちは、美月が指導するらしいのだが、美月は、初めに演武を見せてくれた。
美月は流れるように型を繰り出していく、まるで舞踊するような流れで、実践向きでは無いにしろ、見入ってしまう。
一挙手、一挙手、ピシッと型の説明をし、教えてくれるのだが、他の人に教わるより判りやすいと思う。
「初手としての型を先ずは覚えることになる型を今から教えるから」
上段から始まり刀を後ろに引き下段へ、、、、、最後に上段より力を籠め振り下ろす、最後に刀を納め正座をし、礼をする流れである。
「これを、1日にまずは20セットやっていこうね」と言うと美月は、自分の稽古に励むのであった。
稽古が終わるころを見計らうように、父と勇おじさんは、道場に戻ってきた。
勇おじさんは「龍美も2児の母になるのか、男の子か女の子か?」上機嫌に話す。
「息子にも内緒なのに答えられるわけないだろう」
「じゃあ、どっちが生まれるのかわかっているのか?」
「100パーセントでなんか解るわけない、医療技術の発達した現代でも、お腹にエコー(超音波検査)
をあてることにより、お腹の中を見て、男の大事な部分が付いてるかを確認するぐらいで、付いてなさそうだと女の子の可能性が高いらしい」と力説する父。
「力説することじゃない」と苦笑いを勇おじさん。
「だから内緒だし、どちらが生まれても嬉しいよ」
「良い報告と、お前の笑顔が見れてよかった」
道場に戻ってきた父は、美月にお礼を言い「一刀、御礼はいったのか?」と俺の頭を優しく叩く。
「御礼は、父さんや勇おじさんが帰ってくる前にもうしたよ」口をとがらせながら、答える。
「じゃあいい、車に乗ってろ、家に帰るぞ」
しばらくすると、父が車に乗り込む。
少し間を開け、父から話しかけてきた。
「おじさん夫婦には、子供がいない。だけどな昔、災害救助に出動時、、、、義姉さんは、子供と一緒に無事を祈るため、神社にお参りに行った帰り、かどわかしに合って、子供を亡くしている」
「うん」と細い声でうなずく。
「でも、おじさんは、子供たちを大事に思ってくれる人だから、大事な息子のお前を預けられるんだ」
「うん」と答えながら少しの考えが生まれた。
確証はない、神や仏に善悪はあるのだろうか?
かどわかし、神隠し、転移、転生、なにか、つながるものを感じた。
5歳の体でも、78歳の過去の記憶が少しは戻っている。
たしかに俺も、神人に転生を持ち掛けられた。
その提案を受けたのは俺自身だ。
では、神人は、この世界の神なのか?仏なのか?善なのか?悪なのか?解らない、答えは出ない。
出来ることから、やっていこう。
「わかったか、一刀」
父から聞き返される。
ハッとしながら「うん、美月お姉ちゃん、美人で優しいし、おじさんも優しいし、頑張れる」
話が終わりかけたころに、家に着く。
家に着くなり母は俺に抱き着きながら
「一刀、大丈夫だった?ケガはない、傷はない、ほかには、ほかには・・・・・」
心配性すぎる、ケガや傷があるようなものなら、父は、母に、どうにかされてしまうかもしれない。
「傷もないしケガもないけど、汗だらけ、ベトベトする」
「そう、よかったお風呂沸いてるからお父さんと入ってきなさい、出るころには、ごはんもできるから」
こうして、長い長い1日が過ぎて行った。