1話
身体に深々と突き刺さる魔剣が俺の体温と魔力、血液を吸っている事はすぐに分かった。
身体から力が抜けていき、それでも魔王に対して致命的な一撃を与えた事は間違いない。
ガラガラと崩れていく魔王の姿を見、俺は間違いなくこの『物語』をハッピーエンドへと導く事が出来た事に安堵する。
主人公も、ヒロインも、誰一人欠けることなくここまで辿りつけた。
正直俺がチートオリ主であっても結構危ない場面はたくさんあったが、しかしそれでもこの『物語』はここで終わる。
ああ、だから。
アーサー、主人公。
そんな風に、泣くなよ。
「が、ゥ。けほっ」
血の混じった咳払い。
それから俺は震える手で彼の涙を拭き取ろうとしたが、しかし自身の血で彼の頬を汚してしまう。
ああ、ごめん。
そんなつもりはなかったんだ。
「アーサー、これで貴方の物語はおしまい。ハッピーエンドだよ、頑張ったね」
彼は涙を流しながら、それでも無言で首を横に振った。
「お前がいない世界に、価値なんてないよ」
「そんな、事……言わないで。貴方には、ふ、ふぅ。たくさんの仲間がいるん、だから」
この世界に来てから沢山の思い出ができた。
彼とどれほどの新鮮な感動を味わっただろうか?
キラキラと綺羅星のように輝く記憶。
きっとそれらはここでなくなってしまうけど、だけど俺は、それらを抱いて逝ける。
だから、嗚呼。
うん、辛くない。
だって、こんなに沢山の宝物を彼から貰ったんだから。
だから俺は悲しくない。
彼がこれからもこの世界で生きて、それで幸せになってくれればそれで良い。
俺は、彼の笑顔が━━
「ああ……」
そっか、そうなんだ。
俺は、彼の事がいつの間にか好きになっていたんだ。
彼の純真でどこまでもまっすぐなその心に、俺はいつの間にか惚れ込んでいた。
だけど、でも。
この気持ちは彼には告げられない。
だって俺はここでいなくなるのだから、だからこの気持ちはあの世まで持っていく。
そう思うと、辛いなぁ。
彼に、この気持ちを伝えたいなぁ。
「死にたくないなぁ」
でも、俺はもうダメみたいだ。
意識を保っていられるのが急に難しくなり、頑張ってなんとか踏ん張ろうとしたがそれも叶わず━━
♪
何度目の死だろう。
最初は彼女の死を目撃して世界に絶望して、それで自ら命を絶った。
それが『トリガー』である事を知った時から、俺の物語は本当の意味で始まったのだ。
幼馴染の彼女━━ステラ。
彼女の笑顔を守るためならば、俺は何度だって……
「うおー、生のアーサーだぁ!」
そんな、底なしの笑顔と元気溌剌な言葉で、また再び俺達の物語は、再開される。
ステラ俺は、お前の事が━━