第98話:ユーラシアを励ます会
食堂に顔を出したら、たくさんの冒険者が集まっていた。
日の沈まない内からこんなに人が多いのは珍しいな。
普段見かけない獣人の冒険者ゲレゲレさんもいる。
会うの久しぶりだなあ。
皆が一斉にあたしに注目する。
「ようやく主役のお出ましだぜ」
ツンツンした銀髪の調子のいい男、ダンだ。
「昨日の西アルハーン平原魔物掃討戦における参加分配金をキャンセルされた悲劇の精霊使い、ユーラシアを励ます会を開催いたしまーす!」
あたしは驚いたふりをする。
「あたしのために? ありがとう!」
「君のパーティーがあの大型を仕留めてくれたおかげで、オレ達への分配金が二割ほど増えたんだ。ありがたいことにね」
「なのに殊勲者のあんたらがタダ働きなんだろう? どう考えてもあり得ないぜ」
「せめて精霊使いに感謝を示そうってことになったんだ。反対するやつはいなかったよ」
「精霊使いに乾杯!」
面識のなかった先輩冒険者達が次々と話しかけてきてくれる。
嬉しいなあ。
あ、ウサギの獣人ゲレゲレさんが耳を揺らしている。
機嫌良さそう。
上級冒険者は昨日の掃討戦関係なかったのに、可愛い後輩のあたしが活躍したからわざわざ来てくれたんだろうな。
「おいユーラシア、皆に挨拶しろよ!」
「じゃ、せっかくだから」
場が静まり、あたしに視線が集まる。
注目しちゃいやん。
「ただ今紹介に与かりました、精霊使いユーラシアでーす。本日はあたしのためにこのような会を催していただき、誠にありがとうございまーす」
案外まともな挨拶だなって顔するな、そこのツンツン頭。
あたしはいつだってまともだわ。
「家を出てギルドに来る前、ここにいる精霊クララが『御飯の用意どうしときましょう?』と問うので、いらないよと答えました。あたしを憐れんだ誰かが奢ってくれると思ったからです」
おっと、雰囲気がどよっとしてきたか?
「しかし、事態はあたしの想像を超えていました。何と皆さん全員があたしを慰労する会を開いてくれるというのです。こんな嬉しいことがあるでしょうか。皆いいやつだーっ! 最高だーっ! 今日は食うぞーっ!」
「あははは、食え食え!」
「食べる食べる、バリバリ食べる。遠慮なんかしてやらん」
「サイテーだ、面白かったぜ!」
「ありがとう! 今後のあたしの活躍にも期待してちょうだい」
「酒どうだ? イケる口か?」
「お酒はねえ。亡くなった母ちゃんが二〇歳になってからにしなさいって言ってたから、今はやめとく」
「おい、大将から大皿盛り合わせが奢りで来たぜ」
今日はいい日だなあ。
あちこちから話しかけられる。
ん、何ですか?
「あんた達が使ってる、パワーカードってやつにそそられるんだ。使い方にコツはあるかい?」
「あれ七枚までいっぺんに起動できるから、数が揃うとそんだけでかなり強いよ。でも伝説の勇者の装備みたいなデタラメに強いカードとかはないんで、レベル上がったら組み合わせの工夫で戦うことになると思う。魔物の弱点突いたり、逆に魔物の嫌らしい攻撃に対する耐性つけたり」
「前衛向きかい? 後衛向きかい?」
「オールラウンドだよ。でも序盤に手に入るカードにノーコストの魔法放ったり、沈黙無効のやつがあったりするから、初めは後衛楽なんじゃないかな」
「精霊って喋らないの?」
「極度の人見知りで、ごく一部の親和性の高い人にしか心開かないの。ほっといてあげてくれる?」
「あんたのあのスキル何だ? 一撃で魔物全滅させるやつ」
「『雑魚は往ね』っていうレアスキル。すごく強いけど、弱い敵にしか効かないとか、溜め技で必ず敵の攻撃食うとかの弱点が割と痛いよ」
「ペペさんから魔法買ったって聞いたぴょん。どうぴょん?」
「試し撃ちで死にかけたよ。威力が強過ぎてとても使えない」
「俺みたいな男はどうだい? タイプかい?」
「いやーんユーちゃんそーゆーのわかんなーい(棒)」
いやー楽しく食べた食べた。
お腹一杯でもう入らない。
お、ソル君パーティーが来たぞ。
「今日はこんな慰労会開いてくれてありがとうね」
「いえいえ、皆がユーラシアさんを認めてたからですよ」
「あ、忘れてた。新規の石板クエストの配給って、再開はいつになるのかな? 聞いてない?」
「正確な日付けはわかりませんが、数日かかるようです。張り紙ありましたよ」
本当だ、数日あるのかあ。
とすると掃討戦で上がったレベルに合わせて、新しいクエストをくれる可能性が高いな。
だったらあたしのやることは……。
「ユーラシアさんは新規のクエストが来るまでどうするんですか?」
「カラーズ内部のことなんだけどさ。昨日の戦後処理について、近隣の村と話し合うことがあるらしいんだ。灰の民の新族長に顔出せって言われてるんだよね」
「あっ、そうでしたか。お忙しいですね」
「昨日の赤毛三つ編みの熱血魔法使いの子いたでしょ? あの子、もう西へ行ったよ」
アンセリが驚く。
「「昨日の今日で?」」
「うん。まだ冒険者という名の鉱山労働者を受け入れられる状態じゃないから、ちょっと待てって言ったんだけどさ。待ちきれないらしくて、うちの元族長に連れられて転移してった。村造りの段階から参加するんだって」
一瞬会話が途切れる。
ソル君がポツっと言う。
「……バイタリティーありますね」
「あるねえ。ソル君達は明日からどうするの?」
「マウルスさんの転送先を使っての訓練と依頼所のクエストですかね、当面は」
「堅実ではあるね。アンとセリカはそれでいいの?」
予想外の質問だったようだ。
アンが問う。
「他に何かやっておくべきことがあるだろうか?」
「あんた達の故郷カトマスにソル君を案内するなら、このタイミング外すとしばらく行けないんじゃないかと思って」
アンセリの顔がパッと明るくなる。
西への街道の起点となる村カトマス。
冒険者稼業も普通に行われるというこの村へソル君が行ったら、色々得られる知見も多いんじゃないかな。
いや、あたしもいつか行ってみたい場所ではあるんだが、忙しいんで目先の優先順位は低い。
いつかカトマス行きの転送魔法陣が出ないだろーか?
「ソール様、行きましょう!」
「ぜひ、我が村へ! 案内いたします!」
「パーティーメンバーのルーツも知っといた方がいいと思うよ」
いつの間にか日は落ちたが、宴はまだ続く。
『アトラスの冒険者』じゃない人達が多かったぞ?
皆いいやつだ!
そして奢りは最高だ!




