第80話:かれえらいすを食べながら
「でね、昨日の本の世界で決定的なこと教えてもらった。かれえ美味っ! お肉と合う!」
バエちゃんお勧めのかれえらいすをいただいている。
今日はたっぷりお肉が入っているので、旨みが溶け込んでかれえがうまーい!
また初めて食べたけど米がいい。
クセのないプレーンな味がかれえにピッタリ。
個人的な感想だが、とろみがあるかれえはパンより米に適している気がする。
「本の世界だから、いろんな知識があるのかしらね。お米どう? おいしいでしょ」
本の世界はバエちゃんの世界におそらく関係がある。
クエストだから最低限話すのは仕方ないにせよ、あまりバエちゃんに言いたくないのだ。
ナチュラルに話題が離れたから乗っておこ。
「うん、おいしい。米だけだと物足りない気がするけど、何にでも合いそうだね。これふっくら炊くの難しいんでしょ?」
「炊飯器があってね、水の量を間違えなければ上手に炊けるの」
「へー、魔道の装置? 便利アイテムがあるんだねえ」
「バエの姉貴! おかわりありやすか?」
「ごめーん、お米なくなっちゃった。カレーはあるからパンにつけて食べる?」
「それでお願えしやす!」
バエちゃんが戸棚からパンを出してくる。
クララとダンテは小食だからチマチマ食べてるけど、アトムは遠慮がないなー。
「目一杯炊いたのにな~」
「ごめんねえ、たくさん食べちゃって」
「え~それはいいのよ、もうちょっと大きい炊飯器にすればよかったかなって」
やーお腹膨れた膨れた。
米はいいなー。
何とかドーラでも稲を大量に栽培できないものか?
『大掃除』が成功してクー川の水と平野を利用可能になると、米作を視野に入れられるな。
頑張ろう。
「で、バエちゃんの上司のシスター・テレサがチュートリアルルームに来たんだね? どうだった? 大喜びしてたでしょ?」
バエちゃんの目が真ん丸になる。
「今日はもう、驚くの止めたんだった。ユーちゃんは私の何を知ってるの?」
「いや、シスター・テレサは、バエちゃんの私生活にはこれっぽっちも期待してなかったと思うんだよ。でも最近のバエちゃんはきちんとしてるでしょ? 部屋を綺麗にしてるし自炊もしてるし、ホームシックの様子もないし」
「驚かれたの! すごくちゃんとしてて偉い。あなたは勉強以外ダメな子だと思ってたって、オイオイ泣かれたの。そんなことないのに」
いや、そんなことあったぞ?
シスター・テレサの見立ては正しい。
「例のテストモンスターの特殊設定あったでしょう?」
「テストモンスターの特殊設定? ああ、あの殴る蹴る用の変態とばらんすぼおる?」
「ええ」
「バエちゃんみたいな引きこもりの運動用にはいいよね」
「あれに食いつかれてね、売り出すんだって」
「えっ?」
どゆことだってばよ?
バエちゃんの暇潰し&運動不足解消のために捻り出したアイデアだぞ?
売り出すとは?
「テストモンスターって、実用化するまでにかなり高額の開発費がかかってるんだって。でもあの技術、あんまり応用が効かないと思われてたから大赤字でね。シスターが変態とボールを見て閃いたみたい。ストレス&運動不足解消用に機能限定すれば安く作れるから売れるぞって」
ふーん、やるじゃないかシスター・テレサ。
あんなものがウケるとは。
「バエちゃんの世界の人は、あんまり外で身体動かしたりしないの?」
「人口密度が高いし移動手段も発達しているから、外ではあんまり。運動不足が社会問題化するくらいよ」
「マジか。よかったじゃん。バエちゃんの評価も上がるんじゃないの? ついでにお給料も」
「上がるといいな」
あ、そうだ。
確認しておかねば。
「『大掃除』の件で、新たな石板クエストの発給を止めてるって話じゃん? ソル君のギルド行きはどうなってるかな?」
「ええ、ギルド行きの石板は問題なく発行されているわ」
ギルドに人数を集めたいのに、ギルド行きの石板を止めるのはナンセンスだもんな。
よしよし、ソル君はアンセリと合流できているだろう。
ならば戦術にバリエーションが生まれ、飛躍できるはず。
「もうソル君はギルドへ行ったか。予定より早いねえ。あたしも頑張らないとな」
「ええ? ユーちゃんは生活の方が大事なんでしょ?」
おや、意外なことを言い出したぞ?
冒険者をこき使うほど、バエちゃんの成績は上がるんだろうに。
「バエちゃんものわかり良過ぎない?」
「うーん、でもユーちゃんは、面白そうだから冒険者やってるだけでしょ? 必ずしも天職と思ってるわけじゃなくて」
「まあ当たってるね。つまんなかったら冒険者なんかやってない」
「ムリはよくないと思うの。誰かが頑張ってるからじゃなくて、ユーちゃんがやりたいことをやって欲しいな。そうすれば自然と、冒険者として活躍する方向になるんじゃない? だってユーちゃんは向いてるから」
「何か悔しいけど、バエちゃんの言ってることが合ってそうだな。だってコブタ狩るの楽しいもん」
「あはは、何で悔しいの。でも冒険者は辞めないでね」
「辞めないよ」
バエちゃんが心配そうに聞いてくる。
「で、ミッションの方はどうなの? 参加する『アトラスの冒険者』の中では、多分ユーちゃんが最も情報持ってると思うけど」
「うん、占い師に大活躍だって言われたから心配ないかな」
「あははははははっ!」
何がおかしいんだか。
あ、お酒入ってる?
まあやるだけやるってばよ。
……ラッキーアイテムはスキルスクロールって、マーシャに言われたんだった。
何のスクロールか判明すれば、チュートリアルルームに買いに来ることになりそうだが?
さて、そろそろ時間か。
「ごちそーさま。おいしかった」
「どういたしまして」
「今度焼き肉やろうよ。コブタ肉は脂が乗ってるから、ただワイルドに焼くのが美味い気がするんだ」
「そうねえ。じゃあ私はこっちの肉用の調味料を色々用意しとくね」
「ありがとう、楽しみだな。塩だけじゃ物足りないと思ってたんだ」
けちゃっぷやまよねえずもそうだが、香辛料や調味料って大事だな。
豊かな食生活のために必要なのは食材だけじゃないってよくわかる。
「おやすみ、帰るね」
「うん、おやすみなさい。またね」
転移の玉を起動し帰宅する。
明日はクララの意見に従い、灰の民の村の様子を見てくる予定だ。
何か新しいことがわかればいいな。
米がおいしいことは理解した。
米作りに必要なのは水と広くて平らな土地とマンパワーか。
魔物掃討戦に精を出す理由が増えた。




