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第6話:華麗に黒色炭化物を生成

 ――――――――――二日目。


「『人生を変える転送魔法陣かと思ったら汚部屋の片付けでした』か。うーん……」

「ユー様、何ですかそれ?」

「昨日の話だよ。あたしの一代記『精霊使いユーラシアのサーガ』のサブタイトルとしては、えらく締まらないなーと思って」


 チュートリアルルームを訪れた翌日、日課の畑仕事を終えたあとのひと時だ。

 クララは苦笑するが、昨日は何故片付けなんてことになったのか、マジで意味不明だわ。

 あたしほどの美少女がかなりの覚悟をもって転送魔法陣に臨んだんだぞ?

 もっとドラマチックな展開を期待するのが人情とゆーものだろうが。

 まあ報酬は良かったからいいけど。


「いただいた転移の玉の信頼性はどうでしょうか?」

「報酬の価値をしっかり把握するのは商人の基本だね。調べてくるよ」


 あたしは商人じゃないけれども。

 家を飛び出す。


          ◇


「クララ、すごいぞ転移の玉! 家の入り口真横の特定の地点に狂いなく飛べる。続けて使用しても安定してるし」


 ひたすら転移の玉で移動実験を行った使用感だ。

 一瞬で帰れるなら、単純に考えて行動半径は倍になる。

 魔物に出くわしても、気付かれさえしなければ逃げられるだろう。

 イコールすんばらしく実用的なお宝じゃないか。


「スーパーアイテムですね」


 うむ、まさにスーパーアイテムと言うに相応しい。


 あたし達の故郷の村の族長がドーラ大陸一の転移術師で、自分や対象物をかなり自由に転移転送できるって話だ。

 でも固定魔法陣を遠隔で設置するなんてマネができるはずがない。

 ここまでの魔道技術は、たとえドーラの宗主国であるカル帝国の宮廷魔道士の集う研究所にだってないんじゃなかろうか。


 転送魔法陣、チュートリアルルーム、そして転移の玉。

 バエちゃんの属する一族だか国だかは、あたし達よりはるかに進んだ技術を所持しているのだろう、という点でクララとあたしは意見を同じくしている。


「転移の玉ですか。ユー様の思い描いていた自由な未来が、努力次第で手に入るのではないですか?」

「面白くなってきたねえ。きっと普段の心掛けがいいからだな。神様ありがとう!」


 まだ魔物をどうにかする算段がついたわけじゃない。

 でも『アトラスの冒険者』だぞ?

 冒険者なら魔物と戦える手段があるだろ。


「今日はどうしましょう?」

「もう一度チュートリアルルームへ行こう。転移の玉が使えなくなる条件だけはしっかり確認しておかないと」

「そうですねえ」

「ところでクララは『アトラスの冒険者』について、何か知ってる? 特別な冒険者なんだよね?」


 読書好きだから何か掴んでないか?

 しかし首を振るクララ。


「書物に断片的に『アトラスの冒険者』が出てくることはあります。あちこち旅をする冒険者らしいですが、詳しいことは……」

「本に出てくるなら、全然知られてない存在ってわけじゃないな」


 頷くクララ。

 どうやら『アトラスの冒険者』が、まるで信頼性のないものではなさそう。

 ちょっと安心。


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。

 今日もまたチュートリアルルームにやって来た。


「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」

「え? また硬い口調なん? 普通に喋ってよ」

「わかったわ、ユーちゃん」


 よしよし、まずは距離を縮めるところからだ。


「これお土産だよ。貝と海藻と野草のスープ」

「あっ、ありがとう! 卵落として食べよーっと」


 あれ、昨日の汚部屋からして、料理なんか全く縁がなさそうなのにな?

 鶏卵はあるのか。


「ちなみに普段、卵はどうやって食べてるの?」

「生で」

「マジかよ。野蛮人だなー」


 バエちゃんが慌てて首を振る。


「違うの! こっちの世界では卵は清潔で、生で食べてもお腹を壊したりしないの!」


 ふーん、『こっちの世界』ね?

 クララとチラッと視線を合わせる。

 やはりあたし達の世界とは全然別の、ずっと文化の進んだ世界と理解した。


「仮に生で食べられるとしても、生と目玉焼きにするの、どっちが女子力高いと思ってんの? 一生結婚できなく……」

「いやあああああ、ほんとやめてええええええ!!!」


 結婚願望は強いらしい。


「うーん、ちょっと目玉焼き作ってみそ?」

「え? ええ」


 習ったことはあるらしいけど、華麗に黒色炭化物を生成するバエちゃん。

 予想通り過ぎて笑いが込み上げてくる。

 涙目になってこっち見てくるが、悲観することはないんだよ。


「作り方確認するよ? 最初に鉄板を強火で熱します。温まったら食用油を引いて火を一旦止めます。で、卵を割り入れて再着火、中火にします。パチパチ音が鳴り始めたらとろ火にします。焼けたらでき上がり」


 バエちゃんメモしてるけど必要ないだろ。

 火加減自在のこのコンロ、すげー便利だな。

 クララも注目しとるわ。


「卵は特に火加減が難しいの。逆に卵を焼けるなら、お肉や野菜を炒めることは簡単だから」

「うん。もう一度やってみるわ」


 今度は上手に焼けた。

 よしよし、グッジョブ。

 よほど嬉しかったんだろう、復習と言いながらあたしとクララの分も焼いてくれた。


 バエちゃんの世界の料理本を見ながら、目玉焼きをいただく。

 世界が違うらしいというのは秘密じゃないのかしらん?


「この『けちゃっぷ』というのは?」

「トマトを煮潰して塩を混ぜたような調味料よ。焼き物揚げ物の味付けに使ったり、炒め物に混ぜたりするの。あ、目玉焼きにかける人もいるから、やってみる?」

「もちろん挑戦を受けようじゃないか」


 これはおいしいな。

 トマトは生で食べるものと決めつけてたけど、けちゃっぷにすれば保存が利く。

 来年はトマトもうちで作ってみるか。


「『まよねえず』って何かな?」

「酢と卵の黄身と油を混ぜた調味料よ。サラダに合うけど、焼いたものや揚げものにかける人もいるわ。ケチャップと相性がいいから、同時に使うことも多いの」

「酢かー」


 ドーラにもあるけど、高いし手に入りにくいんだよな。

 残念ながらまよねえずは保留だ。


「ごちそーさま。ありがとう、おいしかったよ」

「いえいえ、こちらこそ大変お世話になりました」


 転移の玉を起動し帰宅する。

 おいしい調味料も教わったし、今日は有意義だったな。


 ……『アトラスの冒険者』のことを聞き忘れたわ。

 転移の玉の使用条件もだ。

 とゆーかバエちゃん説明するって言ってなかったっけ?


 ま、 明日も遊びに行く理由ができた。

黒色炭化物=ダークマター。

火が強過ぎるのだ。

半面を黒焦げにして、慌ててひっくり返してもう半面も焦がした時は本当に笑った。

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