第55話:参道のユーレイ
参道をずんずん進む。
しかしこれ、道の真っ直ぐ前は見通しがいいけど、左右の森の中は全く見えない。
どこから魔物が飛び出してくるかまるでわからんな。
自分が不意打ちするのは好きだけど、されるのは好みじゃないんだが。
「いいかな? あたしが先頭を行くから、アトムは右、ダンテは左、クララは後ろを警戒して」
「ようがす」「ラジャー」「はい」
いきなり出たっ!
前方右から魔物だ!
ふわふわして影が薄く、なるほど確かにユーレイっぽい。
「壊れ死霊とフォレストゴーストです。特殊な攻撃はありません」
「正体がわかると途端に神秘性が薄れるな」
「魔物に神秘性はいらないでやすぜ」
「インポータントなのは、アイテムをドロップするかとケーケンチがメニーかどうかね」
「おおう、現実的な感覚が頼もしいね。『雑魚は往ね』でいくよっ!」
レッツファイッ!
ユーレイどもの攻撃を全てアトムで受ける。大丈夫だ、ユーレイどもの攻撃力は強くない。雑魚は往ねで全体攻撃! よーし、問題なく通用する。
「このまま行ってみよう。あ、素材は回収っと」
現れるユーレイを蹴散らしながらどんどん前へ進む。
魔物の強さも適度で戦いやすいな。
経験値稼ぎによさそう。
「ユー様、ここ薬草が結構多いです」
「稼ぎどころだな。でも道外れると見通し利かないから、魔物にはよーく注意してね」
「はい」
素材や薬草を多く拾える点ではナイスだ。
魔物も手頃だし、割といいところじゃね?
さらに進むと門のようなものが現れた。
向こう側が何故か見通せない。
どうなってるんだろうな?
「ストロングな魔力を感じるね」
「潜るよ」
門を通ると、同じ参道が続いてる?
「ユー様、後ろが!」
振り向くと、門の向こうに村が見える。
ということは、参道突き当りの魔力の門は、参道入り口の門と繋がってループしている?
「ぜんたーい止まれ!」
「ボス、メイビー、ジスイズループね」
「空間がおかしくなってるようだね。バックして本当に村なのか確認するよ」
戻って門を潜るとやはり村だった。
帰れなくなる恐れはないわけだ。
もっともあたし達には転移の玉があるので、その手の心配はあまりしていないが。
「お腹減ったな。いい時間だからお昼御飯食べていこうか」
「「「賛成」」」
参拝客を相手にするのだろう、茶屋だか軽食屋だかがあったので、そこで小腹を満たす。
「本日前半のまとめでーす。どう思う?」
「どうってことないでやすぜ」
「ベリーイージーね」
「おうおう、ビビってたやつらがえらそーに」
「今のところ、参道の方は問題ないと思います。ただあの女の子に繋がるものが何もないですよね?」
「マーシャか。確かに」
「そこが気になると言えば気になります」
クララの言う通り、あの髪を剃られた巨大な魔力の少女に何も関わってこない。
このクエストは二段構えなんだろうか?
まあいい、ユーレイと御神体の方を進めてしまおう。
「よーし、続き行くぞー」
再び参道へ、するとあのどこからともなく聞こえる声が。
こよい もうじゃが はねまわる
じゅうにと やっつ たわむれよ
さすれば わらわも はいだそう
「あれ? これひょっとして、もう一度戦闘勝利二〇回のカウントやり直し?」
「みたいですねえ」
しまった、やらかしたか。
まあいいや、素材集めの効率はいいし。
「姐御、今日はここまでにして帰る手もありやすぜ」
「まあね。でも稼げるからもう少し働こうか」
ユーレイ達を駆逐する内にレベルが上がった。
あたしとクララとアトムがレベル一一、ダンテが一〇となる。
クララが戦闘不能者を回復させる白魔法『レイズ』を、ダンテが火・氷・雷に対するレジスト魔法である『三属性バリア』を覚えた。
より強力なクララの『精霊のヴェール』があるので、『三属性バリア』の出番は少なそうではある。
だがクララ曰く、『三属性バリア』のマジックポイント消費は少なく、『精霊のヴェール』との重ねがけでより効果が高くなるそうだ。
強敵との対戦で使えるか?
さらに先へ行く。
「ところでユーレイと精霊は違うの?」
「大体同じでさあ」
「大体同じね」
「簡潔な結論かつテンポが非常によろしい。しかも被せてくるのはかなりポイント高いね。でも圧倒的に情報量が足りてないんだなあ」
「ユー様。植物や物体、現象などに魂が宿るのが精霊、動物が肉体を失って魂のみの状態になるのが幽霊です。動物の中で最も精神力の強いのが人間ですから、幽霊は人間由来のものが多いのです。さらに言うと精霊は仮の実体を作っていますが、幽霊はそういうことがないので、見かけはぼやけていますね」
「ありがとう、クララ。とてもわかりやすかったよ」
「えへへー」
さすがクララ。
フニャっとした笑顔を晒していても、うちのパーティーの知性だけのことはある。
クララが知性だとすると、アトムは頑丈、ダンテは俊敏だろうか。
あたし? 美貌か良心か仁愛か徳望か正義だな。
どれにしようかな、神様の言う通り。
どんどん歩を進める。
途中、経験値君こと踊る人形を倒す嬉しいボーナスもあった。
随分魔物倒してきたと思うけど?
「今ので二〇回の戦闘終わりました」
あたし渾身の『雑魚は往ね』の後、クララが告げる。
これで何かが起きるのか?
「……光の差し込むディレクションがビミョーに変わったね」
ほう? 散光の精霊ダンテが言うからには正しいのだろう。
先を急ぎ、門のところまで来た。
「もう魔力を感じねえでやすぜ、門からは」
以前のように門の向こう側が見通せないということはなく、少し離れた場所にほこらの入り口が見える。
「ほこらの中からは狂ったように魔力が溢れてるぜ!」
「行くよ!」
ほこらに踏み込むと、中央に何かいる。
あれが御神体か?
ハッキリわかるくらい魔力の流れが異常だ。
パチパチと火花を発し、時折雷魔法らしき光と音が響く。
「……デンジャラス、暴走しかかってるね!」
「悪霊化寸前です! もうあの子には、話は通じないと思いますが。ユー様、どうしましょう?」
ダンテもクララも焦りを滲ませる。
「ここで引いたんじゃ、村人もこの子も誰も救われない。戦うから腹くくって! クララは『精霊のヴェール』張ってその後回復で! アトムとダンテは全力攻撃で! 行くよっ!」
「はい!」「ようがす!」「イエス、ボス!」
レッツファイッ!
ゴーストはゴーストだなあ。
精霊は精霊だし。
大体同じ言われても全然違うわ。
「ユー様、人間とウサギは大体同じでしょう?」
全然違うわ!
食う者と食われる者だわ!




