第54話:謎の幼女
「いきなり出たっ! 悪霊退散!」
「あくりょうちがうですよ」
テントもどきの中から現れたユーレイはもぞもぞ動き、横から顔を出した。
どうやら怪しげな布? を被った女の子だったようだ。
見た目五、六歳くらいだろうか。
メッチャ可愛いやないけ。
しかし、この魔力は……。
「ゆーしゃさまですか?」
「未来のね」
とっても見る目がある。
さすがわけのわからん魔力を撒き散らすだけあるなあ。
というか、ひょっとして大変な才能の持ち主なんじゃない?
大きな丸い目で真っ直ぐこちらを見てくる。
被っていた布が外れると、剃っているのか髪の毛がない。
よろしくない存在に拐かされぬよう、目を誤魔化すため髪を落とすとか。
あるいは生まれてから一度も鋏を入れてない髪を供物に捧げる、といった風習があると聞いたことがある。
その類だろうか?
大きな魔力持ちだから、迷信じみた心配が必要なのかもしれない。
「ゆーしゃさまにこれをあげます」
「ありがとう。くれるものは喜んでもらうのがモットーだよ。えっ? これパワーカードじゃん!」
『ボトムアッパー』のパワーカードだ。
すげーありがたいけれども、どーしてこんなもんが突然出てくる?
色々理解が追いつかないんだが。
「ゆーしゃさまがきたら、おわたしすることになっていたのです」
「つってもこれ、あたし達以外は使わないものだと思うんだけど」
「ゆーしゃさまいがいはつかわなくてよいですよ?」
「そりゃそーか。えっ?」
何これ?
謎のロジックが炸裂して丸め込まれたぞ?
えらい混乱するな。
「あんたは何者なの?」
「わたしはまーしゃです。りたとともだちになりたいうらないしです」
「マーシャ? リタ? 占い師?」
ヤベーな、何言ってるかまるでわからん。
しかし占い師というのが本当なら、あたし達が来ることを予想していた?
となるとパワーカードを用意してることも説明がつくか。
いや、つかねーよ!
どうやってあんな小さな子がパワーカードを手に入れるんだ。
「あんたがマーシャだね? リタとゆーのは誰?」
『アトラスの冒険者』がわけわからんのなんて今更だった。
パワーカードもらった分得したんだから、深く考えるのやめよ。
情報収集が先だわ。
「ほこらにいるこです」
「御神体のこと?」
「そうともいう」
村で聞いた話を思い出す。
御神体は少女の霊だって言ってたな。
あれ、この子の言ってることが核心に近いのか?
「御神体ってやっぱり女の子なんだね?」
マーシャは大きく頷く。
「かわいそうなおんなのこなの。かなしくてないている。でもまーしゃもかなしいの。みんなにきらわれ、かみのけがなくなってしまったから」
途端におかしな展開になってきたぞ?
こんなに小さな可愛い子が嫌われる?
どーゆーことだろう?
「あんたの髪の毛はどうしたの?」
「きられてしまったの。まーしゃがばかなまねをしたから」
寂しそうに眉を顰め、涙を浮かべながら話すマーシャ。
御神体である悲しき少女霊。
理由も知れず暴れる森のユーレイ。
こんな田舎村に相応しくない高魔力の少女。
問題の少女が何かをやらかし髪を切られ、こんな香の焚かれたところに押し込められている……。
……なるほどホラー風味だ。
あたしは笑いと力技が好物で、こーゆーの苦手なんだけどなあ。
「どう思う?」
うちの子達に相談する。
「ちんぷんかんぷんでさあ」
「かなり高ランクのウィッチの素質があるガールね」
「謎が多過ぎます。御神体について聞き出し、まずそっちを片付けましょう」
うん、優先順位からすると御神体とユーレイが先だな。
参道について何か知ってないかな?
「ねえマーシャ、リタのところに行くにはどうしたらいいか、知らない?」
「じゅうにとやっつはとしのかずなの。たしたかずだけしずめればよいです」
年の数というのはこれまたミステリーだが、一二と八を足した数、つまり二〇回鎮めればいい?
「鎮めるにはどうすればいいかな?」
「もりのまもののかずは、りたのかなしみのかず。ゆーしゃさまがかなしみをはらってください」
つまり二〇回ユーレイに勝てということか。
よし、戦闘なら多分何とかなる!
「わかった、行ってくる!」
「ゆーしゃさまのぜんとにさちあれっ!」
テントもどきを後にする。
「香りがキツかったから、鼻がバカになりそう」
「香草も魔除けに使われることがありますね」
「オカルトね?」
「雰囲気はプンプンだね」
参道に向かう途中に村長がいたので聞いてみた。
「マーシャという女の子に会ったんだけど」
村長は白い眉をピクっと引きつらせ、苦しげに声を出す。
「……マーシャのことは放っといてくだされ。それがあの子のため、もうすぐ穢れが消えるのです。であればあの子は元のように……」
マーシャが迫害されているという感じではない。
むしろマーシャの身を心から案じているような物言いだ。
『穢れ』の正体が何なのかはわからんけど、部外者には推し量れない深い事情があるのかなあ?
あるいはマーシャ自身の持つ、あの強大な魔力に起因するものなのか?
今はこれ以上触れない方がよさそう。
「参道に行ってきまーす」
村長はホッとしたように話す。
「お願いいたします。参道に入ると、どこからか声が聞こえるのです。御神体の声と言う者もおりますが、違うのかもしれません。その内容は何らかのヒントだと思われるのですが……」
声、か。
オカルトっぽいなあ。
村長と別れ、村の北の参道の入り口まで来る。
先ほど手に入れた『ボトムアッパー』はダンテに装備させた。
「行くぞお!」
参道の門を潜る。
ドキドキするなあ。
「神秘的ですねえ」
村の中とは打って変わって、木々の密度がかなり高い。
参道が真っ直ぐ伸び、時間帯の関係もあるのだろうが、陽の光が道のみしっかりと照らし、荘厳さを醸し出している。
まさに神域という感じだ。
人の住む域からほんの数歩進んだだけなのに全く様相が異なるのは、驚きと表現する以外にない。
不意にどこからか声が聞こえる。
こよい もうじゃが はねまわる
じゅうにと やっつ たわむれよ
さすれば わらわも はいだそう
「ま、マジでどこからだかわからねえ声だな」
「ミーこういうの好きじゃないね……」
「おいこら、ビクつくな!」
マーシャの言ってた通り、一二と八だ。
足した数である二〇回戦闘に勝利するぞ!
臆せず進め!
こんなに小さな子なのに占い師を自称してるぞ?
占い師になりたい、じゃなくて。
いずれにしてもヤベー子だ。




