第52話:踊る人形
「雑魚は往ねっ!」
アルアさん家の外で、あたしの必殺技が魔物を一掃する。
やったぜ! 気分がいいなあ。
狙われ率向上効果のある『ルアー』のパワーカードを装備することで、アトムに敵の攻撃を集めることができるようになった。
そしてようやくあたしのバトルスキル『雑魚は往ね』が実用レベルに達したのだ。
「いやー、一振りで魔物を全滅させられるってのは実に気分がいいなー」
「そうでやすね」
「バット、必ずモンスターにアタックされるのはネックね。ビコーズ、溜め技だからね」
「考えにゃならん部分だなー。でもヒットポイント自動回復のパワーカード装備してれば、対応できそうな気がしない?」
この辺の魔物で怖いのは、食獣植物の全体睡眠技『眠りの花粉』だけだ。
こいつが出た時にうちの子達三人の集中攻撃で倒してしまえば、概ね『雑魚は往ね』が機能する。
カードの充実によってさらに使えるようになるかと思うと、笑いがこみ上げてきますな。
次々と魔物を倒せるんでレベルアップも早いだろう。
「クララ、『雑魚は往ね』が効かない魔物ってどんなやつかな?」
「ザコじゃない魔物です」
「そりゃそーだろうけれども」
気分がいいと真面目なクララからも軽口は出るもんだ。
「『雑魚は往ね』は超レアスキルですから、確実にわかってることも少ないんですよ」
「ボスには効かないってことだよね?」
「という話ですね。また魔物にもレベルがあって、術者とのレベル差で効く効かないが決まると言われています」
「つまりあたしのレベルが上がるほど『雑魚は往ね』は効くってことかー。先々楽しみだなー……ん?」
あそこにいる見覚えのない魔物は?
人型に見えるがキノコっぽくもあるな。
頭部が大きく、全体に青くぬめっとしている。
不思議な存在感のある魔物だ。
「……ユー様、踊る人形です」
「レア魔物の? 倒すと大儲けの?」
クララが頷く。
あれが踊る人形か。
確か魔宝玉をドロップして、経験値も高いとかいう話だったな。
一方で普通の攻撃や魔法が効かないというやつ。
ふっふっふっ、しかし我々には『初心者の館』で手に入れたあのスキルがある。
「ちなみに『雑魚は往ね』は効果ないはずです」
「オーケー。ダンテ、わかってるね? 出番だよ」
「イエス、ボス」
レッツファイッ!
踊る人形の先制攻撃! アトムがサンダーボルトを食らう。ダンテの経穴砕き! 踊る人形を倒した!
あれ、思ったよりあっけないな。
でもレベル上がった。
「ダンテナイス! こいつ、ヒットポイント一しかないんだ?」
「はい、いわゆる人形系の魔物の中では最も弱いですね」
「姐御、何かドロップしてやすぜ?」
「やたっ! 黄珠と墨珠だ!」
二つも魔宝玉を落とすのか。
売ると高いアイテムなので嬉しい。
経験値が普通の魔物の一〇倍以上入るのに加えておゼゼまで……。
「……『経穴砕き』、全員分欲しいね」
「グループでアピアーしても倒せるね?」
「そゆこと。こいつらを倒すのが、冒険者としての使命のような気がしてきたよ」
「姐御は欲張りだなあ」
アトムが笑う。
何を言うか。
経済観念が発達している上、機を見るに敏というのだ。
クララもまた笑って言う。
「今倒せたのはたまたまですよ。人形系の魔物は敏捷性が高く、すぐ逃げてしまうことも多いそうですから」
「運が良かったんだな。普段の心がけがいいからに違いない」
「より上位の人形系モンスターでも、ヒットポイントは二とか四とかのものもいます。全員が『経穴砕き』を習得していれば、倒せる確率はぐんと上がると思います」
「とゆーか、やつが攻撃に回ったときの魔法が痛いわ。群れで出現して逃げずに『サンダーボルト』を連打されたら、かなりヤバいよ。確実に一ターンで仕留めないと」
全員賛成する。
「ところで魔宝玉ドロップは絶対なの?」
「ええと踊る人形の場合、間違いなく黄珠はドロップします。墨珠は何分の一かの確率のレアドロップですけど。上位の人形系モンスターも、それなりの魔宝玉を落とします」
アトムが首を捻る。
「しかしレア魔物でしょっちゅう見かけるもんでもなし。焦って『経穴砕き』を買わなくてもいいと思いやすが?」
「アトムの言う通りだな。ギルドの武器・防具屋さんもパワーカード取り置いてくれるって言ってたし、パワーカードの数を揃える方が優先度高いわ。当面は踊る人形バスターはダンテに頼るよ」
「ラジャーね」
気になるのは……。
「人形系レア魔物がすげーたくさん出現する場所ってないのかな?」
「たくさんアピアーしたらレアって言えないね」
「レアは返上していいから」
こらあんた達、呆れた目で見るな。
可能性の追求は大事だぞ?
「明日は新クエストだから、もう少し闘っていこうか」
「はーい」「ようがーす」「イエース」
ちなみにさっきのレベルアップで、ダンテが全体氷攻撃魔法の『ブリザド』を覚えたよ。
◇
――――――――――一八日目。
翌日、海岸でのアイテム回収と日課の畑仕事を終え、皆で六番目の転送魔法陣の上に立つ。
もう六つか。
早いものだとは思うが、ぽこぽこ魔法陣が増えるのも最初だけだろう。
今後は簡単にこなせるクエストばかり出ないだろうしな。
フイィィーンという高い音、そして頭の中に声が響く。
『ほこら守りの村の怪に転送いたします。よろしいですか?』
「ほこら守りの村っていう場所のクエストなんだよね?」
転送魔法陣に尋ねる。
『そうです』
「怪が起きるんだ?」
『怪が起きるんです』
ひょっとしてこの転送魔法陣、面白いやつのような気がしてきた。
しかし怪異かー。
「怪でやすぜ。いいねえ、冒険らしくなってきた」
アトムが肩をぐるぐる回し始めた。
やる気あるじゃないか。
何でかな?
緊張感のありそうなクエストの気がするんだけど。
「あっ、アトムはホラーに強い方なんだ?」
「……強いことはないでやす」
「ダンテは?」
「……テリブルは苦手ね」
「おいこら、あんた達大丈夫かよ」
クララは整理された頭脳の持ち主である科学の子だ。
オカルトに対しては比較的割り切って見ていることは知っている。
あたしも同様だ。
あたしに怖がってもらいたいならおゼゼを寄越せ。
が、アトムダンテがこの有様では、クリアできるか不安な気がする。
まあ行ってみないと始まらないわけだが。
「転送よろしく」
踊る人形の名前の元ネタは当然シャーロック・ホームズです。




