第47話:情報量が多い!
「通常、武器には一つないしそれ以上の属性が乗っている。例を挙げれば、剣には斬撃属性、メイスなら殴打属性だな。で、それぞれの属性について強い魔物もいたり弱い魔物もいる。ここまではいいかな?」
「はい、大丈夫でーす」
あたしらの所持しているパワーカードだと、『スラッシュ』や『サイドワインダー』には斬撃属性が、『ナックル』には殴打属性が乗っている。
『アンチスライム』には【スライム特攻】の表記があるが、あれも攻撃属性の一種だ。
「じゃあ、複数の属性を持っている場合。例えば炎の魔法剣だと火属性と斬撃属性が乗っているね? これで火に弱く、斬撃に耐性のある魔物と戦うとする。どうなると思う?」
「えっ?」
そんなややこしい状況は考えたことなかったな。
「ええっと、火でダメージは大きくなるけど斬撃には耐性あるから……相殺されちゃうのかな?」
「いや、火に弱いところだけ適用されて大きなダメージが入るんだ。つまり、武器の属性は多くつけた方が魔物の耐性をかいくぐりやすい」
へー、そうだったんだ。
メッチャためになるな。
クララも知らなかったようだ。
さすがに村の図書館にも武器の専門書はなかったからだろう。
「普通の武器だと、おいそれと攻撃属性をどうにかというのは考えられない。しかしパワーカードなら話は別だ。攻撃に複数属性を乗せやすいからね」
「わかる。あたし達はまだ手持ちのパワーカード少ないけど、攻撃属性の違うカードがいくつかあるもん」
「だろう? 特に物理アタッカーは攻撃属性をいくつか乗せることを考えた方がいい。パワーカード装備者なら容易だからだ。かといって攻撃に偏り過ぎて、守りや耐性がおろそかになるのはいただけないが」
「すっごい参考になったよ。ありがとう!」
「またおいでよ。お土産持ちなら特に歓迎するよ」
アハハと笑いながらヒゲおじさんの部屋を辞去する。
「ユー様、有意義な話でしたねえ」
「今この話が聞けたのはよかったですぜ。パワーカードをいかに揃えるかにもかかってきまさあ」
「ベリーラッキーね」
「うん。次の部屋行こうか」
――――――――――以下、『初心者の館』の他の部屋で聞いたこと。
「毒、暗闇、沈黙、激昂、混乱、麻痺、睡眠、スタンを、基本八状態異常と言うんだ。万能薬やキュアの魔法で治癒するのは、原則的にこの八つだけ。耐性を考えるときには、まずこの八つと即死攻撃について検討するといいよ」
「実はパワーカードは、一人が二枚同じものを装備することも可能なんだ。例えば刺突属性で攻撃力が増強される『ニードル』を二枚装備すると、刺突属性がダブることはないが攻撃力は二枚分増強されるぞ」
「もう経験的にわかっちょるかもしれないけんど、防御以外でコストのかからない行動方法を、特に後衛は持ってた方がいいべ。ノーコストの回復方法も世の中にはあるでよ」
「君達は字を読めるんだな? ここでは無料で文字の読み方講習会を行っているんだ。もし読み書きができなくて困っている冒険者を見かけたら、ここを勧めてくれたまえ」
「スタンは全く行動できなくなるが解けるのは早い。麻痺は敏捷性が極端に落ちて通常攻撃やバトルスキルが使えず、自然に解けるのは遅い。しかし魔法やアイテムは何とか使えるんだ。似て非なるものだから注意な」
「強草や体力草など、基礎ステータスを上げる薬草はほぼ市場に出回らない。また買取価格も高めだ。まあしかし冒険者ならなるべく売らずに、自分の強化に使いたいものだね。そうそう、ステータスアップ薬草の有効成分は、アルコールに溶けるんだよ。でもまるっと食べた方がいいけどね。成分がムダにならないから」
「武器に火属性や毒付与があったとしても、普通はスキルを使うとそういう特性は乗らない。ところが『ハヤブサ斬り』や『薙ぎ払い』など、一部のスキルには乗るんだよ。つまり即死付与武器を装備して『薙ぎ払い』すれば、イコール全体即死攻撃ってわけだ。また『薙ぎ払い』と似た『五月雨連撃』には、ステート付与は乗るけど属性は乗らないという違いがある。ただし『薙ぎ払い』と違って会心が出るから、会心率の高い装備のときはより多くの与ダメージを期待できるよ」
「おお、パワーカード装備者に会うのは久しぶりだな。パワーカードと通常の装備品、特にマジックアイテムの装備品の効果は干渉することがあるんだよ。併用するのはお勧めしないな」
「え? 一夜干しくれるの? メッチャおいしそうじゃない! いいわ~お酒が進みそうだわ~。お礼しなきゃね。これあげる、『経穴砕き』のスキルスクロール。えっ? もっといいのがよかった? ち、違うの。これはちょっと知恵のあるベテラン冒険者なら覚えてるの。一部のレアモンスターにすごく効果的だから!」
――――――――――以上、現場からお届けしました。
「メニーメニーインフォメーションね」
「それなー」
情報量が多い!
いやーいろんな豆知識が聞けたわ。
全体即死攻撃はそそるなー。
即死がつくパワーカードはあったかな?
麻痺や睡眠の全体攻撃でも十分強力か。
「頭がぷしゅーってなっちゃうわ」
「でも『初心者の館』ってのもわかりやすぜ。ルーキーの内に知っておくべきことでやした」
「アイシンクソー、トゥー」
「パワーカードの情報が多かったな。情報の整理はクララ先生にお任せするとして……」
おや、クララが何か考えてる?
「どうしたの?」
「ユー様。先ほどいただいた『経穴砕き』のスキルは、人形系のレア魔物に有効なんだと思います」
「人形系?」
「ええ、総じて素早くて逃げやすいという特徴のある、魔物の系統です。防御力がカンストしてるくらい高くて、攻撃魔法は無効。ただしヒットポイントは少ないそうです。ダメージを与える手段があれば倒せるとのこと」
「何それ? かなりウザいな。無視すればよくない?」
「経験値が非常に高くて、ドロップアイテムが確定で魔宝玉なんです。高値で売れますよ」
「冒険者として魔物を逃がすのは許されないことだね」
「さすがはユー様です。『経穴砕き』は防御力無視で確実に一ダメージを奪えるスキルですから」
あたしの変わり身の鮮やかさに、アトムとダンテが口あんぐりしている。
あんた達に足りないのは臨機応変さだぞ。
灰の民は皆読み書きを教わるけど、ドーラ全体だと読み書きできる人ってそんなに多くないと聞いたことがある。
でも依頼所の張り紙読むのだって必要だからなー。
無料で文字の読み方講習会を行ってるのは気が利いてると思う。
「人形系レア魔物は経験値とおゼゼが儲かるので絶対に倒す」
初心者の館ではこれだけ覚えた。
あとはクララ先生にお任せ。




