第351話:日常的魔境
頷きつつ続けるオニオンさん。
「さすがはユーラシアさん。感服いたしました。他、ワタクシ達が知っておいた方がいいことはあるでしょうか?」
「帝国には秘密兵器があるらしいんだよ。その完成を待って、ドーラに侵攻してくるんだろうってパラキアスさんは言ってた。けど、正体が何なのかわかんないんだよね。試作機があと二〇日くらいで完成ってことだけ。空の敵に注意っていう断片的な情報があるけど、これは秘密兵器のことかどうか確認が取れてない」
「了解です。つまりドーラ独立戦争にはレイノス砲撃戦、西域でのゲリラ戦、秘密兵器での強襲、三つの側面があるということですね?」
「オニオンさん賢いねえ。奇麗にまとめてくれたから、何か簡単な気がしてきたよ!」
「いやいやいや」
照れてるのかな?
照れ顔はおっぱいさんがいる時だけにしときなよ。
おそらく将来ドーラ独立戦争と呼ばれるようになる戦いが近い。
レイノス砲撃戦、西域でのゲリラ戦、秘密兵器での強襲の三つの側面以外に、最も重要な独立に関する帝国との交渉がある。
交渉はパラキアスさんやオルムスさんのお仕事だからあたしは知らんけど、戦闘で結果を出せば交渉も有利に運べるだろうからな。
せいぜい頑張ろうじゃないか。
あたしに都合のいいドーラにするために。
「で、今日ユーラシアさんが魔境に来られたのは?」
「あんまり難しいこと考えてると頭がぷしゅーってなるから、気分転換に来たんだ。魔宝玉ゲットを兼ねて」
「ハハハ、行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってくる!」
ユーラシア隊出撃。
◇
「今日はどうしやす?」
方針を聞いてくるのは大体アトムの役目だ。
「そうだね、目先は魔宝玉クエストの完遂が重要だから、北辺の人形系レアが固まってるところ行こうか」
「ユー様、海の女王が『逆鱗』は欲しいとおっしゃってましたが」
「急ぎじゃないし、素材はあたし達も欲しいからなあ」
いずれ海の王国と素材も融通し合いたいけど、わざわざあたしの入手した素材じゃなくてもいいような。
「『逆鱗』と同じ価格分のコモンの素材と、交換を持ちかけてはいかがです?」
「あっ、クララ賢い! 偉い!」
「えへへー」
それなら交換ポイント分得できるな。
「ダンテ、明日魔境の天気はどうなんだっけ?」
「曇りね」
「よーし、今日は時間結構あるから、藍珠一〇個と透輝珠五個をノルマとして稼げるだけ稼ごう」
「「「了解!」」」
どんどん北進、手当たり次第に魔物を倒してゆく。
といってもドーラ一のパーティーに向かってくる無謀なやつだけね?
「レッサーデーモン倒したの初めてだねえ」
「ほとんど見たこともなかったでやすね」
『悪魔の尻尾』をゲット。
まあそんなに珍しい素材じゃないらしいけど。
コモンの素材でも、あんまり見たことないやつがあるのだ。
クエスト先で出遭わなかった魔物からドロップするやつは、まだ持ってないのもある。
「あ、『逆鱗』がいる」
サンダードラゴンだ。
ドラゴンも初めて倒した時(一ヶ月も経ってない)は強いと思ったけどなあ。
今では素材名で呼ばれる存在に成り下がってしまったか。
「雑魚は往ねっ!」
まあ一発なんですけれども。
「ドラゴンってレアドロップなさそうだねえ?」
「魔物の本には書いてなかったですね」
おとぎ話には竜が宝玉を守るみたいな話はあるんだけどなー。
「もしかしてイビルドラゴンは何か魔宝玉を落とすのかもしれませんよ」
「おいおい、クララが幼女のクセに誘惑するよ?」
笑いながらお昼に持ってきたふかしイモと茹で肉を食べる。
食後にさらに北へ。
北辺の人形系レア多発ゾーンの最外殻、ブロークンドールとクレイジーパペットのエリアだ。
ブロークンドールは魔境では北辺にしかいないんだよな。
「こいつらじゃないと藍珠落とさないからなー。先にノルマ片付けとかないとね」
「「「了解!」」」
藍珠と透輝珠を必要分確保した後、ウィッカーマンとデカダンスを交互に倒す。
まあデカダンス戦でマジックポイント自動回復してるわけですけれども。
「今日はかなりの戦果じゃない?」
「そうでやすね」
魔宝玉クエストの対象となるもので、黄金皇珠一八個、羽仙泡珠六個、鳳凰双眸珠三個を得た。
「働いた気がするよ。やったぜ!」
「ボス、アイスドラゴン二体ね」
「よし、狩っていこう」
二体出るのは珍しいが、北辺ではたまにあるな。
まあ『雑魚は往ね』の敵ではない。
『逆鱗』二枚ゲット。
「女王は『逆鱗』をどれくらい欲しがるかなあ?」
「何に使うかによりますね。簡単な護符にする程度ならさほど必要ありません。でも例えばドラゴンシールドでも作るつもりなら、盾全面に貼り付けなければいけませんから、たくさん必要でしょう」
「じゃもうちょっと狩っていこうか。不必要ならアルアさんとこ持っていけばいいし」
「「「了解!」」」
◇
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
ベースキャンプに帰還した。
ホッと一息。
「今日は働いたよー」
「お持ちなのは『逆鱗』ですね? そんなにまとまった数、見たことないですけれども」
「何枚だろ? ちょうど一〇枚だ」
「一〇体ドラゴン倒したんですか?」
オニオンさんが呆れてる。
「あはは、ドラゴンはついでだってば。メインは魔宝玉クエストだから。でも海の女王が『逆鱗』欲しいって言ってたんだよね。だからドラゴンも多めに倒してきたんだ」
「ドラゴンがザコ扱いですねえ」
笑い合う。
「中央部のイビルドラゴンとかは倒さないんですか?」
「興味はあるけど今は今月末締め切りのクエストが重要じゃん? 魔宝玉の数をとにかく稼がなきゃいけないから、このクエスト終わったらチャレンジしてみようかなと思ってる」
オニオンさんが顎を撫でながら言う。
「……以前パラキアスさんがイビルドラゴンを倒した際、魔宝玉を落としたという話がありますよ。種類はわかりませんが。またリッチーも光るものが好きだとの噂が」
「うそっ!」
「いずれも不確かで、情報と言えないレベルですけれども」
いやいや、あたしの物欲センサーが反応してるよ?
「オニオンさんありがとう。今度来た時、倒してみるよ」
「いえ、ユーラシアさんがもたらす魔境の情報は貴重ですから」
楽しみが増えたぞー。
「今日は帰るね。さようなら」
「またのおいでをお待ちしております」
お笑い感知器とか物欲センサーとか言い換えてるけど、要はカンだ。
あたしのカンはよく当たる。




