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第289話:商売のお話

 ――――――――――六七日目。


「よーし、いい天気だ!」


 今日はラルフ君パパがカラーズへ訪れ、黄・黒・赤・青の民の各族長クラスと会談する日だ。

 オブザーバーとして灰の民の族長サイナスさん、仲介者としてあたしも参加する。

 白の民の族長も話を聞きに来るみたい。

 完全に無視なのは緑の民だけだな。

 ちなみにヴィル以外のうちの子達もついて来ている。


「根付いてますね」

「そう? 楽しみだねえ」


 灰の村への途中、クレソンを挿してあった湧き水のところだ。

 こっちでも繁殖してくれると食卓が豊かになる。


「おっはよー」


 灰の民の集落に到着、サイナスさんはもう準備を整えている。


「クララ達も連れてきたのかい」

「あたしは何を隠そう精霊使いだからね」

「隠してないじゃないか」


 レイノス郊外の商人、ラルフ君パパことヨハン・フィルフョーさんが今日の交渉相手だ。

 当然護衛その他の人員は連れてくるだろうし、あたしが外見負けすると思わぬ不覚を取る可能性もある。

 カラーズの将来がかかる場でそんな危険は冒せない。

 うちの子達にとって居心地のいい場所ではないのは百も承知だが、今日のあたしは精霊使いらしくあらねばならないのだ。


「ユーラシアは割と格好を考えるよなあ」

「サイナスさんが構わな過ぎなんだよ。見かけが与える印象って重要なんだぞ?」


 飄々としたヘタレがサイナスさんのキャラだ。

 変に格好に気を使ったところなんて見たくはないが。


「さて行くか」


 カラーズ緩衝地帯から黄の民の村、さらに族長宅へ。


「おお来たか、精霊使いユーラシアよ」


 黄の民族長代理フェイさんの声だ。

 皆の視線が集まるが、サイナスさんも来てるんだよ。

 完全にサイナスさんがお供になってるがな。


「フェイさん、おっはよー。商人さんは?」

「先触れがあった。二、三〇分で到着だろう」

「設定詰めとくよ。族長の皆さん集まって」


          ◇


「レイノス商人ヨハン・フィルフョー様のお着きです」

「お通りいただけ」


 ラルフ君パパと二人の随員が通されてくる。

 ようこそカラーズへ、いらっしゃーい。

 さすがにラルフ君パパは表情に出さないが、随員二人は屋敷の天井を見上げて高さに驚いているようだ。

 よしよし、計算通り。

 これなら田舎と侮れまい。


「商人ヨハン・フィルフョーめにございます……」


 型通りの挨拶と自己紹介が終わった後、黒の民の族長クロードさんが切り込む。


「で、商人殿は我らをどう儲けさせてくれるつもりなのかな?」

「商品次第でいかようにでも」

「ふ、つまらん答えだ」

「個々の商談はあとにしてくれ、クロード族長」


 クロード族長の先制攻撃で場に緊張が走る。

 ここまで打ち合わせ通りだ。

 ラルフ君からの報告がなされているなら、これで黒の民は金にうるさいというキャラ付けができたはず。


 いい芝居だよと心中褒めようとしたら、クロードさんの身体が揺れてやがる。

 興奮を態度に表すんじゃないよ。

 まあヨハンさんも初見じゃ見破れまいが。


「すまんなヨハン殿。カラーズと一括りにされても一枚岩ではない。金に汚い者、様子見の者、貴公の人間を見定めに来た者、精霊使いの顔を立てるために仕方なく参加している者、様々だ」


 謝っているようで極めて淡々と話すフェイさん。

 まともな者がいないではないかという、商人さんサイドの悲鳴が聞こえてくるようだ。

 よしよし、ヨハンさんに与えておくファーストインプレッションはこんなもんでいいだろ。

 次の段階だ。


「まあまあ、そー言っちゃうと先がないから、個別の商談に入ってはどーかな?」

「建設的であるな」


 顔合わせはお開きとなり、各部族との話し合いになる。

 まずは黒の民から。


「部族ごとの牽制もあるんでああいう物言いになったけど、実際にはどの村も多かれ少なかれレイノスとの商売を望んでるからね。気にしなくていいよ」

「は、はい」


 思ったより落胆しかけているラルフ君パパを勇気付けておく。

 実際にはカラーズ諸村はどこも交易に対して前のめりなんだよ。

 今は手綱を思いっきり引っ張ってるだけだから。


 黒の民から。

 メンバーはクロードさん、サフラン、ピンクマン。


「ここは全員、近々帝国と戦争になることを知っている面々だよ。そのつもりで」


 全員が頷く。


「黒の民は主力商品として調味料、特に酢を売りたい。……戦時には保存食需要が高まることが予想されるから、味に慣れさせる意味合いを含めて積極的に広めたいんだよ」

「帝国からレイノスの料理店に酢が入らなくなっています。代替品需要はありますが、品質はどうです?」


 サフランが酢と野菜の酢漬けを出す。

 口にしたヨハンさんニンマリ。


「安定してこのクオリティが出せるなら十分ですな。問題は価格ですが」


 ピンクマンが輸入酢の価格を探ってきている。

 輸送コストを考えに入れてもかなり安い価格を提示、ラルフ君パパを驚かせる。


「ほう、これでいけますか? 正直もう少し高くても……」


 いや、まあ十分儲けの出る価格なんだけど。


「クロード族長は、まず酢を広めることを優先しているんだよ。ドーラ国内では独占みたいなもんだから、広まりさえすれば量産効果もあって自然と儲けは大きくなると。販売価格には注意してね」

「は、はい」


 独占の販路を握ればあんたのところの儲けも大きくなる。

 下手打ったら任せるの止めるぞと、キメ顔を見せて脅しとく。


「酢はレイノスでも一部食堂しか用いられていないのです」

「販促が重要だね。これは酢のレシピというか、調味料としての応用の一つだよ。お試しに食べてみてくれる?」

「いただきます」


 まよねえずと生野菜、蒸し肉を出す。


「これは美味い! 驚くほど滑らかですな」

「でしょ? まよねえず、という異国の調味料だよ。酢を買ってくれた個人あるいは食堂には、まよねえずと酢漬けの製法を教えよう、ってのを今考えてるの」


 まよねえずの製造販売は、保存の問題や大量の白身が余ることから諦めた。

 ならばまよねえずの製法を酢の販促に利用する、という作戦だ。

 ヨハンさんが興奮気味に言う。


「価格と安さ、これは間違いなく売れます! ついては業務用の大きいサイズが欲しいということと、生産を拡大して欲しいということを……」


 しめしめ、やっぱり酢は増産って話になったか。

 計算通りだな。

 ついでに醤油も押しつけておく。

 こっちも売れるよ。

いよいよカラーズ~レイノス間の交易が実現しそう。

ものとおゼゼを積極的に動かすのだ。

そーすりゃ欲しいものを手に入れやすい世の中になる。

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