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第281話:心ゆくまで鳴らす

 あまりの美味さに転げ回っていた海の女王が我に返った。

 

「はあはあ、これがワイバーンの卵か。地上には素晴らしいものがあるの!」

「マジで美味いな。いやこれ、料理人も上手なんだよ」


 海底には火加減の繊細な卵料理なんかないだろうに。

 やわこい魚卵に火を通すって、ちょっと考えられないしな。


「丸くて大きい」


 あっ、コケシ、やっと感想が出たかと思えば、そーゆーダブルミーニング攻撃やめろ!

 こっちチラチラ見てくんな。

 今日はヴィル連れてきてないんだぞ。


 自分の胸を触ってしょんぼりするエル。


「どうせ丸くも大きくもない……」

「見ればわかるけれども」

「一目瞭然ですね」

「火を見るよりも明らかだけれども」

「海が広いことよりも、夏が暑いことよりも、肉がおいしいことよりも明らかですね」


 しまった、ついツッコんでしまった。

 コケシはまたノリノリで応じてくるし。

 エルもどーしてナチュラルに振ってくるんだか。

 天性のツッコまれ体質のクセにツッコミ耐性がないのは厄介だ。


「え、エルさんは可愛いですよ?」

「どこのサイズが可愛いんだ!」


 ああ、賢いのにおバカさんなアレクよ。

 それダメなやつ。

 『言わなくてもわかれ、このナイチチが』のセリフを呑み込みつつ、どう収拾を図ろうか考える。

 コケシが目をキラキラさせながら、リターンプリーズって顔してるわ。

 サディスティック精霊は事態をかき回すだけで、着地点のことなんか丸っきり知ったこっちゃないんだろうなあ。


「クララ、エルをぎゅーしてやってくれる?」

「えっ? は、はい。ぎゅー」

「ああ、ボクはもう大丈夫……」


 あ、クララでも効果あるな。

 一応覚えとこ。


「今のは……芸として未完成じゃなかったか?」

「女王の御前だから、吐血させるのはどうかと思ったんだ。食事中だしね」


 芸とか言ってるし。

 コケシが不満げなのは構わないとして、女王が消化不良を感じるのはいただけないな。

 こんなところで芸を披露するつもりはなかったけれども。


 最後に炙りコブタ肉が運ばれてくる。


「これも美味い!」


 デス爺が感嘆の声を上げる。

 味付けがシンプルだと肉質の違いがよくわかるんだよね。

 フルーティーで軽めのコウモリ肉に対し、コブタ肉は脂が乗っていて重厚だ。

 同じお肉のジャンルでも、美味さのエントリー種目が違うのだ。


「喜んでくれるのは嬉しいんだけど、女王はもっと女王らしくしたらどーなの?」


 また女王があまりのおいしさに転げ回っている。

 そこだけ床がテカテカになってるよ?


「はあはあ、客人の前ですまんの」


 魚人の表情はあたし達から見るとわかりにくいんだが、嬉しい、おいしい、商売人の表情は理解した気がする。

 女王はお茶目だ。


「でさー、じっちゃん。塔の村にはまず魚を売りたいんだよ」

「魚か。好き嫌いがあるから難しいやも知れぬぞ?」


 ドーラは魚食文化圏じゃないもんな。

 デス爺が難色を示す理由もわかるが、以前一夜干しを配った時の感触からすると、魚がウケないとは思わない。

 要は慣れだけの問題だ。


「生臭さ磯臭さを廃した調理法なら食べてもらえるって」

「具体的には?」

「揚げ物から」


 冒険者は若者が多いから、フライなら絶対に食べてもらえる。

 でも女王がちょっとがっかりしてるっぽい。

 そりゃ海底だと新鮮な魚を生で食べるのが最高の食べ方かもしれないよ?

 けど今まで魚を食べたことのない人間に、生はハードル高いんだってばよ。

 輸送時間の問題でどれだけ新鮮なものを出せるかってのもあるしな。


「女王、海底と地上の揚げ物は違うよ」

「ほ、そうかの?」

「海底は魚油で揚げるでしょ? 地上では植物油で揚げるんだ。クセがなくサラッと揚がるから、白身魚は地上の揚げ方が美味いと思う」


 この前商店街で売ってるやつ見て思ったけど、海底は衣もつけないみたいだ。

 多分揚げ物といっても、海底と地上では全然違った仕上がりになる。

 女王にも地上の魚フライを食べてもらいたいものだ。

 まよねえずつけて食べたら気に入ると思うよ。


「エルは魚に抵抗ないんでしょ?」

「ああ。こっちは魚ほとんどないなとは思ってたくらい」

「エルが食べるなら、アレクも当然魚食べるでしょ?」

「え? あ、もちろん」

「ほら、じっちゃん。多数決だよ」


 デス爺が苦笑いする。


「まあええじゃろう。魚少量から取り引きを行おうではないか」

「うむ、よろしゅうお願いしよう」


 デス爺と女王が握手する。

 めでたし。


「商店街で少し魚買っていこう。捌き方わかんないでしょ? 塔の村の料理人にクララが教えるから」

「では、わらわが案内しようかの」


 五番回廊の先、魚人の商店街へ。


「これくらいのサイズのお魚がいいですねえ」

「もーこの段階でうまそーだわ。揚げたところが想像できるわ」

「アジだね。何尾必要だい?」

「二〇尾ください」

「あいよっ、精霊のお嬢ちゃん」


 魚屋さんに聞く。


「地上人はあんまり魚のこと知らないんだよ。まず揚げたのを食べてみようと思うんだけど、何か注意することある? 注文する時とかも」

「魚は季節によって成長度合いが違うから、いつも同じ種類が入るわけじゃねえんだ。魚種に拘らないなら用途と大きさを言ってくれれば、適した魚を用意するぜ。それからさっきのアジのサイズだったら三枚におろして身の部分を揚げるつもりなんだろうが、中の骨も時間かけてパリパリに揚げると美味いんだぜ」


 ほう、骨も食べられるのか。


「ありがとう。またねー」


 いやあ、今日はお肉も卵も美味かったし、いい関係を築けた。


「女王、ではワシらはおいとまさせていただく」

「うむ、今後ともよしなに」

「じっちゃん、エル、あとで行くから食堂で待ってて」


 頷いて転移で帰っていった。

 女王がこちらを向く。


「今日もおんしに世話になってしまったの」

「この前のゴーストの話も出なかったしね。後腐れなく解決して万々歳だ」

「何か礼をしたいが……」

「いいんだよ、友達でしょ? あっ、一つお願いがある!」

「何じゃろうか?」

「今日銅鑼鳴らしてないんだよ。あれメッチャ気持ちいい音がするからさあ。今から心ゆくまで鳴らしていいかな?」

「何じゃ、そんなことか。存分に鳴らすがよいぞ」


 ガンガン鳴らしてたら衛兵が全員飛び出してきてすげえ迷惑そうな顔してた。

 ごめんよ。

 女王に許可を得ているから、悪いとは思ってないけど。

ナイチチ→うがー→鎮静剤のパターンは、今後も何度か出てきそう。

エルに煽り耐性がつくことはなさそうだし、おっぱいが大きくなることはさらになさそう。

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― 新着の感想 ―
[一言] そのうち海底にもヴィル通信をつなげたいところですけどね >さらになさそう。 いやあ? アレクががんばれば多少は大きくなるんじゃないですかねぇ~?(セクのハラ)
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