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第241話:ソル母さんが止まらない

「こんにちはー。ソール君の家はどこかな?」


 自由開拓民集落グームに入ったところで、近くにいたおっちゃんに話しかける。

 一応警戒してたんだけど、このおっちゃんからも緊張は感じられない。

 やっぱりグームの集落全体を巻き込んだ何かが起きているということはないな。

 ヴィルの報告通りだ。


「こりゃまた大勢だね。精霊もいる?」

「うん。冒険者仲間なんだよ。ソル君も含めて」

「おおそうかい。ソールはどうだい? しっかりやってるかい?」

「極めて勤勉だよ。優秀な後輩を持ってあたしも嬉しいの」

「ハハハ、真面目は真面目だわな。でも遊びは程々にしとけって言っといてくれよ」


 あれ、扱い軽いな。

 ソル君は未来の勇者だぞ?

 まー西域やアルハーン平原と違って、魔物の数もごく少ないエリアだ。

 冒険者に対する理解もあんまりないんだろ。


 おじさんが指差す。


「真直ぐ行って左側の家だぜ。見えるだろ? あの大きな木の生えてるところだ。イヌを飼ってるから注意な」

「ありがとう!」


 ソル君家へ。

 ん? アンセリどうした?


「ソール様は貴重な『スキルハッカー』の固有能力持ちなのに」

「面白くないです。バカにされているようで腹が立ちます」

「まあまあ。あんた達の故郷カトマスとは意識が違うんだって。この辺で仕事って言うと農業か商売だから」


 冒険者は遊びと思われてるんだな。

 わからんでもない。

 だってあたしも遊び感覚だし。


 さてと、ソル君家はここか。

 あ、結構大きなわんちゃんが駆け寄ってくる。

 そーいや以前ソル君が、イヌが『地図の石板』を咥えてくるって言ってたな。

 あれ、寝転がってお腹を出してるがな。


「仰向けになって尻尾振るって、変わった芸だねえ」


 ピンクマンが冷静に言う。


「恐怖すべき対象に遭遇した時の降参のポーズだ」

「そんなことないよねえ。よしよし」


 なすがまま、従順ないい子だ。

 ちょっと通らせてね。


「こんにちはー」


 一人の若者が出てくる。

 ソル君だ。


「ユーラシアさん! 皆!」


 よかった、ソル君元気そうじゃないか。


「ここんとこギルド来ないから心配だったんだぞ? 皆でお邪魔しちゃった」

「話は聞いているかと思いますが、近隣で五人組の盗賊が出たんです。すわ関連した事件かとも考えられましたので」

「すみません。母が倒れて看病してただけなんです」


 あっ、母ちゃんの具合が悪かったのか。

 あたしとしたことが、お土産まで気が回らなかったな。


「大勢で押しかけて、却って悪かったかな?」

「いえいえ、疲れが溜まっただけで大したことはないんです。そうだ、皆さんで見舞っていただけませんか? 外の話聞くと気も晴れるでしょうし。こちらへ」


 外から南へ案内される。

 割と広い、頑丈そうな家だ。

 陽の当たる縁側に腰掛けている女性がいる。

 あれがソル君の母ちゃんか。


「あらまあ、皆さんで。いらっしゃい」

「冒険者の仲間達なんだ。心配して来てくれた」

「あらあら、すいませんねえ」

「大人数でごめんなさい。お構いなく」


 特別どこがどうって風には見えないが?

 ソル母さんが話しかけてくる。


「ユーラシアさんというのは?」

「あたしだよ」


 興味を抑えられないといった感じでジロジロ見てくる。


「よく話に出てくるんですのよ。で、ソールのことどう思います?」

「母さん!」


 ははあ、今日はあれか。

 モテ日か。


「ソル君は若手のホープだよ。最も信頼する仲間の一人と思ってる」

「好きか嫌いかで言うと?」

「好き」

「うちにお嫁に来る気ない?」


 ほお? ソル君の母親とは思えぬ先制攻撃だな。

 背後の空気がとても面白いことになってるから、もっと面白くしてやる。


「ありがたい話だけど、ソル君にはもう嫁が二人もいるんだよ」

「!」


 ソル君混乱すんな。

 嫁一号二号を手招きして呼び寄せる。


「ソル君のパーティーメンバーだよ」

「アンです」

「セリカと申します」


 おーおー、二人ともアンの髪色くらい赤くなってんぞ。

 あたしは二歩下がって成り行きを見守ることにしたニヤニヤ。

 ダンがこそっと話しかけてくる。


「助演女優の出番はここまでかい?」

「主演男優の活躍に期待したいねえ」


 ソル母さんが止まらない。


「あらあら、可愛らしいお嬢さんが二人も」

「彼女達は大事なパーティーメンバーなんだ。邪推はやめてくれよ」


「……『大事な』はかなりポイント高いと思います。いかがですか解説のダンさん」

「……邪推せよと言わんばかりのセリフもなかなかだ。期待できるぜ」


 何やってんだって目で見てくるラルフ君パーティー。

 我関せずの佇まいを見せるピンクマン。

 せっかくの生メロドラマなんだから楽しめよ。


「パーティーのお嬢さん達については何も話してくれなかったのよ」

「母さんに話す必要ないだろ」


「……おおっと、これは判断に迷う発言だ!」

「……ユーラシアについては話してて、アンセリは話してないのか。穏やかじゃないぜ」


「で、どちらのお嬢さんがお嫁に来るの?」

「母さん!」

「両方でいいんじゃないかな? 広いお家だし」

「それもそうねっ!」

「「「「「「「「!」」」」」」」」


 いや、ラルフ君パーティーやピンクマンの目が点になってるけど、マジで二人嫁でいいと思ってるよ?

 アンセリも何か言えよ、せっかくの見せ場なのに。


「ああ、今日は楽しいわ~」

「よかったねえ」


 あんだけ暴走してりゃ楽しいだろうな。

 気持ちはわかる。


「ユーラシアさんもお嫁に来ない?」

「お母さん、仮病でしょ?」


 ソル母さんが悪戯っぽく笑う。


「あら、わかっちゃった?」

「まーあたしの診察力には定評あるんで」

「初めて聞いたぞ」


 初めて言ったからね。

 ただ最近体の調子とか見りゃわかるってのは本当。


「どういうことだよ、母さん」


 まあソル君が気色ばむのはムリもないが。


「寂しかったんだと思うよ」

「ユーラシアさん……」


 母一人子一人でやってきたのに、一枚の石板で運命が大きく変わる。

 『アトラスの冒険者』による大きな生活の変化。

 ソル君はともかく、ソル母さんは納得できていただろうか?

 必ず訪れる親離れ子離れの時期ではある。

 しかしこれほど唐突に来ると想像できていたか?


「コミュニケーションは大事だよ。よく話し合うことを推奨する」

「わかりました……ごめんよ母さん」


 ソル君も自覚はあったのかもしれないな。

 あたしもうちの子達とコミュニケーションは欠かさないようにしよう。

ソル君にああいうお茶目な母ちゃんがいるとは。

アンセリも親しみやすいと思うよニヤニヤ。

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