第2287話:誕生日のプレゼント
『薙ぎ払い』でどんどん魔物を狩る。
偵察のヴィルからも連絡はない。
掃討作戦は順調に進行していると考えていいな。
ルーネが言う。
「私は魔法剣士寄りかなと考えていたんですよ」
「うんうん、気持ちはわかる」
うちのパーティー&ルーネは、南北ジグザグに魔物を駆逐しながら全体としては東に歩を進めている。
クー川から西に向かってる冒険者達と合流するには、まだ時間がかかるだろう。
「ルーネは風魔法の使い手だもんねえ」
「魔法剣士は難しいでしょうか?」
「やれることが多いのはいいことなんだ。でも冒険者としては難しい」
「どういうことでしょう?」
「元『アトラスの冒険者』の昼寝イモムシって人がいてさ」
「昼寝イモムシ?」
「その正体は最年少『アトラスの冒険者』ノブ君の兄ちゃん」
「ノブさんの? 兄弟で『アトラスの冒険者』だったんですか?」
ルーネも大分ギルドに馴染んで、多くの人と面識ができたようだ。
実によきことかな。
「違うんだ。昼寝イモムシはルーネと同じ『風魔法』の固有能力持ちで、しかもレベル一の時から魔法を使えるエリートだった」
「すごいですね。私と大違いです」
「ルーネと大違いなのはその通りだけど、ルーネが思ってる意味ともまた大違いだぞ? 昼寝イモムシは『風魔法』が強く発現してはいた。ところが魔法力も最大マジックポイントも低くて、クエストを進められなかったんだ。ルーネならどうする?」
「魔法以外のダメージソースが必要ですよね? それこそ剣術とか」
「オーケー。昼寝イモムシは物理アタッカーとしての素質はそこそこあったから、風魔法も使える剣士でよかった。でも結局サボリグセがあって諦めちゃったんだ。だから『アトラスの冒険者』の権利を、やる気も才能もある弟のノブ君に移した」
「『アトラスの冒険者』の権利を移す……。昼寝イモムシさんはもったいなかったですね」
特殊なケースだよ。
やる気のないやつは面倒みる分ムダだとゆー教訓をあたしに与えてくれた、貴重な機会だった。
しかしそんな機会は全然ありがたくない。
「昼寝イモムシと違ってルーネはステータスが全体的に高い。確かに魔法剣士でもやっていけるよ。でも効率ってやつがあるじゃん」
「効率……ですか?」
「持ちマジックポイントをどう使えば効率的に魔物を倒せるか。どういうパワーカードを装備すれば効率がいいのか。効率は大事」
「なるほど、そうですね」
「となると魔法使いは消費マジックポイントの関係で難しくなっちゃう。後衛の魔法使いはゼロコストの魔法や自動回復をうまく使って、いざという時のために大技を持つってのが探索の基本になる。もちろん仲間に前衛がいてだけど」
「私の場合は前衛でも戦えるから?」
「前衛でも戦えるとゆーか、ルーネはバリバリの剣術使いじゃん。それこそアタッカー全振りでいい。風魔法は飛行魔法が使える、風属性に弱い魔物に遭った時に『ウインドエンチャント』使う、くらいのスタンスでいいんじゃないかな」
普通の魔法剣士は遠い間合いで攻撃魔法なんだろうが、ルーネは『スナイプ』を装備してるから間合いが広い。
攻撃魔法使う機会なんて極めて限定的だ。
攻撃力も魔法力もって欲張ると、装備がどっちつかずになっちゃう。
パワーカードは七枚しか同時に装備できないんだから。
「魔法使いは数が少ないからなんて考えはポイしちゃっていいわ」
「であれば私はやはりアタッカーですね?」
「冒険者としてはね。一方で、効率オンリーで考えちゃいけない場面もあるじゃん? 手札が多い方が有利な時。ルーネは皇女様であって、冒険者だけやってりゃいいわけじゃないから」
武器持ち込み不可な場面も多そう。
となれば魔法は強力な切り札になる。
「ルーネにプレゼントしたパワーカード七枚は、汎用性を重視したものだよ。冒険者として効率がいいわけじゃないから、追々考えていこうね」
「はい!」
「食獣植物一体か。ルーネに任せた」
「わかりました!」
魔物駆除は続く。
◇
「『アンリミテッド』はいいパワーカードですよね」
『アンリミテッド』は衝波属性つきのアタッカー用カードだ。
耐性を持てないのがいいな。
人形系の魔物を倒すのに大変便利。
「塔の村のコルム兄が作ってくれるよ。ただし『逆鱗』とかのレア素材をいくつか持込まないといけないから、メッチャ道のりが大変」
「つまりドラゴンを倒せるくらいでないと、『アンリミテッド』を持つには早いと」
「ってことはないな。早くから持ってるほど有用だわ」
通常攻撃で踊る人形を倒せるんだもんな。
「例えばあたしの場合は順番が逆だった。『アンリミテッド』を手に入れた日にデカダンスやクレイジーパペットを倒しまくってレベルを二〇くらい上げて、初めてドラゴンを倒したの」
「どうやって『アンリミテッド』を作ってもらったんです?」
「コルム兄に貸しを押しつけて、人形系を簡単に倒すカード作れないかって相談したんだ。そしたら研究したことあるからできるって」
「ということは、ユーラシアさんが『アンリミテッド』の使用者第一号なんですか?」
「うん」
ただしあの頃はまだあんまり『アンリミテッド』の有用性が知られていなかった。
パワーカード自体の知名度が低いってのもあったし、たまにしか出遭えない人形系魔物を狙って倒すという考え方がなかったから。
あたしだって魔境に人形系魔物が多いって気付いてからだもんなあ。
「私も『アンリミテッド』が欲しいです」
「頑張れ」
「私、一五歳になったんですよ」
「そー来たか」
プレゼントを寄越せってことか。
段々ルーネが悪い子になるなあ。
いいぞいいぞ。
「お昼御飯食べたら塔の村行こうか。あたしもちょうど用があるし。『アンリミテッド』作ってもらおう」
「はい、ありがとうございます!」
「わかってると思うけど、一人で魔境行っちゃダメだぞ? それから『アンリミテッド』装備前提なら、何のスキルを買うかもう一度検討し直さなきゃいけないな。あっ?」
他所事考えてたから、単体で現れた突進熊の首を刎ねてしまった。
ルーネに任せりゃよかったのに、つい反射で。
ルーネならもう、遠距離から突進熊の首を刎ねることはできるかも。
随分上達してるだろうに、腕を見たかったなあ。
まあいい、東へ。
適性とゆーもんがあってさ。
血を見るのがムリみたいな人も世の中にはいるわけだ。
これはやる気とは別の問題。
ルーネは冒険者適性ある。




