第2277話:ロリと口ヒゲダンディズム
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
ダールグリュン家邸の応接間に通された。
高価なものなんだろうけど落ち着いた調度だ。
これ見よがしじゃなくて圧迫感もない。
いい趣味だなー。
「ようこそ。当家の主オズワルドです」
「美少女精霊使いユーラシアだよ。悪魔ヴィル、ルーネロッテ皇女に絵師のイシュトバーンさん、新聞記者トリオね」
「クリームヒルト叔母様、お久しぶりです」
「まあルーネロッテ。大きくなったわね。前に会った時はこんなに小さかったのに」
親指と人差し指で合図するクリームヒルトさん。
そんなに小さいわけないわ。
お茶目な人ってのは本当だな。
ややクセのある薄い髪色のロングヘアに青い瞳。
美人っちゃ美人だが、しかし?
イシュトバーンさんがつついてくる。
「おい」
「あたしも知らなかったんだってば」
思ってたんと違う。
若き未亡人という響きから想像するのとかけ離れた、ぺたんこロリキャラやんけ。
ルーネの三つ下の妹って言われるとしっくりくる。
こんなんで子供を産んでるのか。
人体の神秘だな。
こんな目立つ特徴を何で誰も言わなかったんだろ?
とゆーか隠す意思があったのならあたしが気付かんわけないしな?
誰かが言ってるだろってことでスルーされちゃってたっぽい。
不思議なことって起きるもんだなー。
綺麗に整えられた口ヒゲがダンディズムなオズワルドさんが言う。
「本日はクリームヒルトの絵を描きたいとのことだそうで」
「そーなんですよ」
躊躇してるな。
あたしがどこまで把握してるかわからないからだろう。
駆け引きするつもりはないが、あたしがここで押すと圧迫感が強過ぎる気がする。
向こうの出方を待った方がいいか。
「でも叔母様、心配事がおありなのでしょう?」
「そうなのよ」
「愁いを帯びた女もいいもんだ。が……」
イシュトバーンさんの言いたいことはわかる。
そりゃ憂愁を湛えた未亡人なんてイシュトバーンさんの大好物だろうけど、クリームヒルトさんロリだもん。
困り顔のロリには食指が動かないんだろう。
とゆーことは問題解決が先ってことだな?
口ヒゲダンディズムオズワルドさんが覚悟を決めたようだ。
「ユーラシア殿の御存じのことを教えていただけますか?」
「おお、ストレートに来たね。言っちゃっていいのかな?」
チラッとクリームヒルトさんに視線を走らせる。
頷くオズワルドさんクリームヒルトさん。
やはりラインハルトさん毒殺については、クリームヒルトさんも聞いてるんだな。
「じゃ、ここから先は他言無用だよ。皆わかったね?」
ルーネイシュトバーンさん新聞記者トリオが頷く。
「オズワルドさんの息子でクリームヒルトさんの旦那さんであるラインハルトさんが、帝国政府に対して不遜な事件を起こそうとしました。オズワルドさんはそれを察知、先帝陛下ドミティウス主席執政官クンツ軍務大臣と相談の上、ラインハルトさんをポアしました」
「相違ないです」
オズワルドさんとクリームヒルトさんが項垂れる。
ルーネイシュトバーンさん新聞記者トリオが驚いた顔してるけど。
「で、問題はここから」
「ここからなのかよ。既に大問題じゃねえか」
「いや、ラインハルトさんの件は終わったことだからいいじゃん。時間とともに風化するわ。でもこの先のことは多分帝国政府も知らないことなんだ」
「やはりユーラシア殿はそこまで……」
「クリームヒルトさんには、ラインハルトさんとの間にシシーちゃんっていう娘がいる」
「「「「えっ?」」」」
ルーネと新聞記者トリオは驚いてるけど、イシュトバーンさんは今までの展開で予想してたみたいだな。
エンタメのハードルが高いわ。
「あたしが知ってるのはそこまでなんだ」
「シシーについては家内の者以外は誰も知らない、厳重な秘密でした。どこでお聞きに?」
「悪魔からだよ。ヴィルじゃない子だけど。魔道結界を張る前のダールグリュン家をたまたまチェックしてたみたい」
「そうでしたか……」
「シシー、こちらへいらっしゃい」
ドアが開き、トラのぬいぐるみを抱えた幼女が侍女に連れられて部屋に入ってくる。
深刻な雰囲気だからか、表情が曇ってる。
この雰囲気はヴィルにとってもよろしくないんだよな。
「おかあさま……」
「メッチャ可愛いやんけ」
「あなたはだあれ?」
「あたしはドーラの美少女聖女ユーラシアだよ」
「びしょうじょせいじょ?」
「そこにいきなり引っかかるとはやるね。ツッコミの才能があるのかもしれないな。将来有望」
アハハと笑い合う。
不安そうな顔をしていたシシーちゃんも笑顔になった。
よかったね。
「シシーちゃん。こっちのお姉ちゃんは、シシーちゃんの従姉妹なんだよ」
「いとこ?」
「そう。クリームヒルトさんのお兄さんの娘だよ。お母さんとルーネに遊んでもらおうね」
「わあい!」
嬉しそうなシシーちゃんに釣られて、少し離れたところで遊び始める三人。
微笑ましいね。
さてと。
「おい、どうするんだよ」
「イシュトバーンさんはせっかちだな。今後の対応を今から決めるんじゃないか。オズワルドさん、息子さんの件ではオズワルドさん自身が通報したこともあって見逃してもらったけど、謀反人の子供であるシシーちゃんは見逃してもらえるかわからない、とゆー不安を抱いているってことでいいのかな?」
「は、はい。その通りです」
「おかしいじゃねえか」
「そうですよ。シシー嬢に罪はないはずです」
「罪を作れる状況なんだとゆーのに。帝国政府側に都合があるんじゃないの? お金持ちのダールグリュン家を潰して財産を国庫に組み入れたいとか。あるいはダールグリュン家の経営立て直し能力を継ぐ者がいないから軽視され始めてるとか」
微妙な表情になるオズワルドさん。
何かあるっぽい。
「ヴィル、施政館のプリンスルキウス陛下のとこ行ってくれる?」
「わかったぬ!」
掻き消えるヴィル。
「まさか直接陛下に?」
「オズワルドさんもあとになるほど印象悪くなることはわかってるでしょ? 新帝即位御祝儀期間を逃したら、白状するタイミングがないんだって。状況は良くなる見込みがない」
「そ、そうですな」
「シシーちゃんはなかなかやる子だとわかった。気に入ったのであたしが全力で力になるよ」
オズワルドさんも覚悟決めてください。
ダンディな口ヒゲに気合を入れろ。
ダブルロリだった。
魔道結界以上の予想外。