第2272話:嫁が来る?
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとクララをぎゅっとする。
モイワチャッカとピラウチの会談が終わり、帝国とフェルペダからの参加者を送ってから、世界最大のダンジョンの中の試練にやって来た。
「さて、行こか」
「あっさりしてやすね?」
「まあね。盛り上がりどころが宝箱にしかないとゆーか。あたしのカンによると、今日で中の試練も終わりだと思う。のんびり行こうよ」
「トレジャーボックスはあるね?」
「これで宝箱ないなんてことがあたしの人生にあるのかなあ? マジでエンタメポイントがなくなるぞ?」
宝箱じゃなくても絶対に何かあるよ。
いいお宝だといいけど。
「ユー様、ライオンが出ましたよ」
「あ、ほんとだ」
メイン色が青と緑の二日酔いライオンだ。
メッチャ顔色悪そーに見えるのに動きは俊敏なので、決して油断はできない相手ではある。
が……。
「おいこらあんた、ちょっと聞きなさい」
「がう?」
「あたし達は肉食魔獣は好みじゃないんだ。不味いから。わっかるっかなー?」
「がうがう!」
わっかんねえみたいだなあ。
レッツファイッ!
「雑魚は往ねっ!」
バタリと倒れ伏す二日酔いライオン。
またつまらぬものを斬ってしまった。
どなたかのエサになって下さい。
「リフレッシュ! 倒れてるとさらにまずそーだね」
「ユー様、不味そうというのはライオンを食材として見ている証拠ですよ」
「あれっ? クララの言う通りだな」
食獣植物の亡骸見たって不味そうとは思わんもんな?
あたしもまだまだ未熟だった。
煩悩があるとゆーか。
「レッツゴーね」
「レッツゴーだぬ!」
「そーだね」
まだ見ぬ宝箱に思いを馳せて先へ。
◇
「この部屋が突き当たりでやす。どうも最後みたいでやすぜ」
「マジかー。でも小の試練と同じくらいの長さの洞窟だってとこは当たってたな」
「当たってないのはトレジャーボックスがナッシングなところね」
「それなー。あたしのクエストでダンジョンの奥まで来て宝箱ないなんてことある? 信じられないんだけど」
若干広くなった空間まで来たが、期待していた宝箱がない。
探してみたけど脇道もない。
「全ての希望が打ち砕かれた気分だよ」
「でもユー様。何かありますよ」
「んー、何だろ? 板?」
石板というか焼いた粘土板だな。
結構な数が積み重なっている。
雰囲気からすると、これが中の試練クリアでゲットできるお宝のようだ。
何か書いてあるが……。
「……ぐう」
「姐御、のんびり寝てる場合じゃありやせんぜ」
「はっ、エンタメな内容じゃないからつい。魔道についてみたいだね」
「魔道の基礎についてですね。すごくわかりやすいですよ」
「クララがわかりやすいって言うくらいか。じゃあ本にすれば読む人いるかな?」
「有益な内容だと思います。それ以上に疑問なのが……」
「これをライトしたのはフーね?」
「おそらく転移の間を作ったという古の大魔道士でやすぜ」
「そー考えると面白いものが手に入ったな。ひょっとして転移術についての記述もどこかにある?」
首をかしげるクララ。
「どうでしょう? 転移術は研究すると危ないという意識はあったでしょうから、あえて残していないかもしれません」
「あり得るね。でもこれが古の大魔道士の残したものってのは多分合ってると思うから、あたし達の知らない魔法やマジックアイテムについて書かれてるかもしれない」
「灰の民の村の図書室に置いておいて欲しいです」
「うん、そうしよう」
粘土板を次々とナップザックに放り込んでおく。
内容次第ではあるが、お宝と言っていいんじゃないかな。
アレクやエメリッヒさん、クララが調べてくれるといい。
「さて、少し不要なアイテムを売って、シンカン帝国のお金を手に入れておこうか。ヴィル、ダンジョン入り口の広場まで飛んでくれる?」
「わかったぬ!」
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとクララをぎゅっとする。
クララをハグするのも随分馴染んできた気がするな。
よしよし、いい子達だね。
「ユーラシア!」
「「「「姐さん!」」」」
ウタマロとその一味だ。
慌ててるみたいだけど何かあったのか?
「どーしたの? あたしがお嫁に行っちゃったかと心配した?」
「「「「「違う!」」」」」
アハハ、揃ったツッコミが入ると勝った気になるな。
あたし大勝利!
「で、何事? あたし達今日は転移の間の向こう、中の試練までクリアしたんだ」
「ほう?」
「転移の間を作った古の大魔道士ってのがいたらしいじゃん? どーも転移の間より向こうは、その魔道士の個人的な趣味嗜好みたいなのが強い気がするな」
とすると大の試練の最終地点には古の大魔道士の奥義とゆーか、研究の集大成みたいなものがお宝として置いてあったりするのか?
役に立つものとは限らないけど、楽しみではあるな。
「こっちも大変なんだ。皇帝陛下から使者が来る」
「へー。まあ世の中権限のある人と話さないと話が進まないもんだ。偉い人と知り合いになれそうで何よりじゃないか」
「というかどうやら拙に婚約者が送られてくるのではないかと」
「えっ?」
いきなりお嫁さん?
そーゆー展開も予想の範囲内ではあったけど、もう来ちゃうの?
早過ぎない?
「おめでとうございます。結婚は人生の墓場とも言いますがお幸せに」
「どんな口上だ!」
「いや、あたしがわからんわ。どういうことよ? 相手誰なん? 中央政府の有力者の娘さんが来るってこと? わかってることだけでも教えてよ」
全員が首を振る。
「それがサッパリ。先触れが縁談だということ、本人がおいでになるだろうとチラッと口にしただけで」
「都とは行き来するだけでも結構な距離なんだよね? じゃあマジで嫁さん送られてくることもありそうだな」
しかも断ることも難しそう。
とゆーか有無を言わせない身分の子を送り込んでくる?
面白くなってきたな。
ウタマロのやるべきことは……
「……情報収集すらできないのか。じゃあ自然体で使者迎えるしかないじゃん。来るのはいつなん?」
「三日後だ」
「ラッキー。あたし暇な日だわ。朝にこっち来るよ」
「本当か! 助かる!」
助かるのかな?
面白そうだから来るだけだ。
何の助けにもならんかもしれんよ?
「使者の件に関しては、とりあえずやることないな。アイテム売ってくよ」
ちょっと事態が動いた。
ウタマロに婚約者かー。
どんな子が送られてくるのやら。




