第2264話:邪魔な丘
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが?」
「そう、ヴォルヴァヘイムの近く」
イシュトバーンさん家で昼食をいただいてから、ヤヨイちゃんと新聞記者トリオを帝都に送り届け、ルーネとヴィルを連れて『ヴォルヴァヘイム』の転送先にやって来た。
どうしてルーネを連れてきたかって?
だって来たいってゆーんだもん。
「聖風樹植えるだけだから、面白いことなんかないのに」
「ユーラシアさんの面白くないは信用できないです」
「信用できないぬよ?」
「ええ? 何故かあたしの信用問題に」
アハハと笑い合う。
しかしヴィルまで何なんだ。
あたしは笑いの神様に寵愛されているから、面白いことがイレギュラーに飛び込んできちゃうだけだわ。
「聖風樹は一〇本植えるんですか?」
「うん。これ発根するのに魔力濃度が必要でさ。うちの畑番の精霊でも、いっぺんに一〇本苗作るのが限界なんだよね」
ま、うちでは凄草栽培がメインだから、試験栽培用の聖風樹にあんまり魔力を回せないとゆー事情がある。
「あれ? 今日門のところにサムさんがいないな」
「サムさんというのは?」
「ヴォルヴァヘイムの守衛さんだよ。面白半分で柵の中に入ろうとする人がいるらしくてさ。そーゆーのをお断りする人員」
「私も中に入りたいです」
「危ないからダメだとゆーのに」
どうせルーネは中へ行きたいって言うから、今日はうちの子達を連れてこなかったんだとゆーのに。
実はあたしもちょっと中に入りたい気がするから、押されると断れないしな。
今日まだ時間あるし、ぴー子のところにエサ持ってってやらないといけないし。
でもあたしは魔境ほどヴォルヴァヘイムの内部を知らない。
中の方ほど強い魔物が出るのは魔境と同じだが、魔境よりその加減にかなりバラつきがある印象がある。
周辺部に近いところでも、案外強い魔物が出ちゃうんだよな。
知らなくて強くて嫌らしい攻撃してくる魔物は怖い。
さすがにルーネをそーゆー危険に晒せない。
何度も言うけどあたしは慎重派だから。
「あっちに大勢いるぬよ?」
「ん? そうだね」
役人っぽいな。
こんなところにスーツ姿の人が多いってどういうことだろ?
街道だから気にしてなかったけど、動いてないみたいだし。
何の話してるんだろ?
「気になるな。行ってみようか」
「はい!」
『遊歩』のパワーカードを起動してびゅーん。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ウルトラチャーミングスプラスワンがやってまいりましたよ」
「ユーラシア殿! ルーネロッテ様!」
驚いて声をかけてきたこのひょろ長い男は知ってる。
どこかで見たことある。
けど誰だったっけ?
「アーダルベルト様。お久しぶりです」
「そーだ、国土大臣さんだ。あースッキリした」
「忘れられていたとはひどいですな」
「かなりひどいぬ!」
アハハと笑い合う。
守衛のサムさんもここにいたのか。
「ユーラシア殿は聖風樹を植えに来たんだな?」
「そうそう、いつものやつ。物好きなことに見たいっていうから、ルーネも連れて」
「アーダルベルト大臣は調査にいらしたんだ」
「へー。何の?」
「聖風樹林を育てるために、街道の位置を変えるということで」
おおう、プリンスルキウス陛下ったら、こっちは対応が早いな。
聖風樹が巨大魔物出現抑制に繋がるかは置いといて、聖風樹林を作って林業を興すことは確定らしい。
昔の聖風樹林と巨大魔物出現の位置を記した地図を広げる。
「今の街道が通ってる位置が、昔の聖風樹林の真ん中なんだよね。聖風樹は土の中の魔力濃度が高いとこじゃないと育たないから、聖風樹を植える場所を動かすわけにいかない。となると街道をこっちに通したいかな。聖風樹の都合からはね」
台地から張り出してる急な丘がある。
トンネルなりを掘れれば昔の聖風樹林をほぼ再現できるだけじゃなく、街道自体も短くできてメリット大きそうだが?
ひょろ長大臣が言う。
「ふむ、しかしこの丘が難物なのです」
「難しいんだ?」
「かなり硬い岩で構成されておりまして、並みの方法ではどうにもならぬと思われます。であるがため、この丘を避けて街道が作られたのかと」
なるほどの理由だが、こんな丘があっても誰も得しないということじゃん。
つまりあたしの敵だ。
「邪魔な丘だな。ぶっ壊そう」
「「「えっ?」」」
「うちの子が世界最大最強の魔法を使えるんだ。ぶつければ多分壊せるな」
「何と……ではお任せしてよろしいですか」
「どーんと任せて。連れてくるから、丘の近くに誰かいないか、安全を確認しといてくれる?」
「わかりました!」
◇
「いやはや、驚いた」
「すごかったです!」
「土木工事に非常に有用な魔法ですな」
サムさんルーネひょろ長大臣それぞれの感想だ。
大臣のお供の文官は呆気に取られて見てるだけだけど。
結論から言うと邪魔な丘は綺麗に吹き飛んだ。
アトムに岩の強さを確認してもらい、クララの『フライ』で上空に舞い上がり、ダンテの究極魔法『デトネートストライク』を真上から撃ち下ろしたのだ。
近隣の住民で何事かと見に来た人もチラホラいる。
集落からは結構離れてるんだけどな。
「この魔法を上から下に撃ったの初めてだな。結構な威力だった」
「おかげで地面に大穴が開いてしまったぞ?」
「埋めるのは難しいことじゃないでしょ」
硬い岩は地中まで潜り込んでいたようで、大穴といっても大して深くはない。
どうにでもなるだろ。
溜池にしちゃってもいいかもしれない。
サムさんが呆れたように言う。
「こんな直接的な方法を取るとは思わなかったんだが」
「うちのパーティーは、立ち塞がる敵を全て実力で排除してきたんだよ」
「ユーラシアさん、格好いいです!」
「ハッハッハッ、溢れる魅力が聖女の器じゃ受けきれないなー」
ルーネが面白いものを見られて満足みたいな顔をしている。
いや、今日のはただの成り行きだぞ?
でも『デトネートストライク』を披露するのって、成り行きのことも多いな。
お手軽に使っちゃいかん魔法な気はするけど、必要な場面に当たっちゃうんだから仕方ない。
ひょろ長大臣が言う。
「ユーラシア殿、御協力を感謝します」
「うん、連発はできない魔法だけどね」
「施政館には事の次第を報告しておきますので」
「じゃ、あたし達は聖風樹植えて帰るよ」
また苗を作っておかないとな。
ルーネに『デトネートストライク』を見せたのは初めてだったかな。
このネタ魔法は、どーゆーわけか案外使える。