第225話:じゃんじゃん売れるぬ!
――――――――――五四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
今日はうちの子達を連れて午前中からギルドだ。
ラルフ君のパーティーと共闘の予定だから。
ラルフ君とこにどんなクエスト、どんな転送先が配布されてるかってのにも興味あるしな。
もっと興味があるのはラルフ君の実家についてだが。
「やあ、おはよう。チャーミングなドラゴンスレイヤーさん」
角帽がトレードマークのギルド総合受付、ポロックさんだ。
大男ではあるが、にこやかな笑顔を絶やさない感じのいい人である。
そして最早あたしの代名詞とも言える接頭語『チャーミング』をいつも使ってくれる。
「おっはよー、ポロックさん」
「今日は朝からお仕事かい?」
「そうそう、働かされちゃう。美容と健康のために睡眠時間はしっかり取りたいんだけどねえ。弟子が許してくれないの」
「弟子ってラルフさんだろう? チャーミングな師匠で大いに結構なことだねえ」
アハハと笑い合う。
「御主人!」
先行させていたヴィルが飛びついてくる。
よしよし、いい子だね。
「ハハハ、ヴィルちゃんはすっかりギルドに馴染んだねえ」
「皆が可愛がってくれるんだよね」
「可愛がってくれるぬ!」
性格のいい悪魔だということが知れ渡ってきたので、ヴィルの頭を撫でてくれる人が増えた。
本当に喜ばしいことなのだ。
ヴィルが一人でギルドにいて問題がないなら、噂話とか拾ってきてくれるかもしれないしな。
ヴィルの行動に制約をなくしてやることは、ヴィルも嬉しいしあたしにも大きなメリットがあるのだ。
「ところでユーラシアさんに対して、『チャーミングなドラゴンスレイヤー』は失礼かな?」
「重要なのは『チャーミング』であって、『ドラゴンスレイヤー』じゃないんだなー。『チャーミング』がついてれば後ろは何でも」
「ハハハ、そうだったね」
「ラルフ君とこのパーティーってもう来てるかな? これから共闘する約束なんだ」
「ああ、つい先ほど来たよ」
「じゃあまた」
「バイバイぬ!」
ポロックさんに別れを告げ、ギルド内部へ足を踏み入れる。
師匠より先に来ているとはいい心がけだ。
「師匠、おはようございます」
「おっはよー!」
「おはようぬ!」
待ち合わせしていたラルフ君パーティーの面々だ。
やや緊張しているように見える。
美少女が颯爽と登場すると仕方ないのか。
決してラルフ君が魔境の恐怖をメンバーに吹聴しているからではないと思いたい。
「昨日、聞き損なったけど、ラルフ君の装備ってどうなってるんだっけ? パワーカードなんだよね?」
「はい。今はこうなっています」
ラルフ君が手持ちのパワーカードを見せてくる。
うわ、マジでもう七枚揃えてるんだな。
いやまあスキルコレクターよろしく、装備以前に複数スキル買いまくるよりは健全か。
「『スナイプ』『サイドワインダー』『ハードボード』『光の幕』『火の杖』『ホワイトベーシック』『ボトムアッパー』ね……」
「いかがでしょうか?」
魔法剣士っぽい編成だな。
ラルフ君のパーティーメンバーは前衛二人とアーチャーだ。
本来なら回復を受け持つラルフ君は、後衛で魔力重視のカード編成にすべきだろう。
が、ラルフ君とその他三人ではレベル差がある。
おそらく現在はラルフ君がパーティー内で最も物理火力が大きいはず。
ラルフ君が殴らない手はない。
「今はベストに近いんじゃない? メンバーが育ってきたら、後々ラルフ君は魔法特化にすべきだと思うけど」
「はい、いずれは」
合格点出したった。
ラルフ君満足そうだな。
「じゃあ武器・防具屋に寄ってこうか」
「はい?」
まー装備も揃ってるから何で? って思うだろうけど。
わけがわからぬままついてくるラルフ君パーティー。
「ベルさん、こんにちはー」
「おはようございます、ドラゴンスレイヤーユーラシアさん」
「何か皆そう言うけど、『ドラゴンスレイヤー』は語呂が悪いから止めてよ。ポロックさんみたいに『チャーミングな』ってつけてくれると嬉しいな」
アハハと笑いが起きる。
「本日はパワーカードの御入用ですか?」
「いや、あたしの用じゃないんだ。ラルフ君が本格的にパワーカード使いとしてやっていくみたいだからさ、武器・防具屋さんで入手・販売可能な全てのカードのリストを作って、ラルフ君に渡してやって欲しいんだ。それを頼みに来たの」
「かしこまりました。明日には必ず」
「どういうことです?」
ラルフ君は事情を呑み込めていないようだ。
「武器・防具屋さんで売ってるカードは、一部の売れ筋だけなんだよ。もっといろんなカードを取り寄せてもらうことが可能ってこと」
「えっ、そうなんですか?」
やはり知らなかったか。
ラルフ君はギルドに来てからパワーカードを知ったと言ってたし、アルアさんの工房にも行ったことはないだろうから。
「状況に応じてカードを組み替えるのが、パワーカードの醍醐味だよ。今後クエストやイベントで、予想もできないようなおかしなパワーカードを手に入れる機会もあるだろうけど、普通に買えるカードくらいは知っておかないとね。立てられる戦術が変わっちゃうからさ」
いや、あたしもアルアさんとこの交換レート表に載ってるパワーカードを全部覚えてるわけじゃないけれども。
たまにはえらそーなことも言ってみたいじゃないか。
仮にも師匠なんだから。
「師匠、ありがとうございます!」
ハッハッハッ、感謝されてしまったぞ?
尊敬される価値のあるあたし偉い!
「明日にはリスト作っといてくれるそうだから、忘れずに取りに来るんだよ」
「はい!」
ラルフ君パーティーが盛り上がってる内に、ベルさんとひそひそ言葉を交わす。
「……パワーカードはコレクション要素あるよね。リスト見てると欲しくなっちゃうんだよ。じゃんじゃん売れるんじゃないかな。ラルフ君お金持ちだから」
「助かります。販促ありがとうございます」
「いやいや、あたしもパワーカード売れてくれると嬉しいんだよね。職人が増えそうじゃん?」
「じゃんじゃん売れるぬ!」
こらヴィル。
それは大声で言っちゃダメなやつだ!
面白過ぎるだろ。
笑えてしまうわ。
「では師匠、行きましょうか」
「うん、じゃあヴィルは通常任務に戻っててね」
「了解だぬ!」
「ギルドカード出して」
フレンドで転移の玉を起動、ラルフ君家へ。
パワーカードはよく売れた方が、あたしにとって都合がいいな。
人気装備になると職人が増えるかもしれない。
密かに普及活動を進めよう。




