第2214話:今日ヴィルは偉かった
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
アンヘルモーセンで通貨単位統一の会談を終えたあと、コージモ大臣らをガリアに送り、帝国施政館に戻ってきた。
今日ヴィルは偉かった。
天使に囲まれてても嫌な顔一つ見せなかったしな。
ちょっと強めにぎゅっとしてやる。
プリンスルキウス陛下が言う。
「御苦労だったね」
「通貨単位統一は本当に楽しみだなあ。また一つあたしの夢が近付いたね」
「ニコラウス、どうだった?」
「ほぼ事前の予想通りの結果です、陛下。後ほど報告書を作成いたします」
「外洋諸国には我が帝国から通達し、参加を呼びかけることになるか?」
「そうなりますね。既に大まかな話が通っており、しかも東方貿易の要となるフェルペダは最初から理事国でいいのではないかとのことです」
「ではフェルペダには早急な連絡が必要だな」
「明日朝から閣下連れてフェルペダ行ってくるよ」
「ふむ、では東方はよし、と」
あれ、プリンスったら意味ありげにあたしを見てくるんだが。
いやん。
「ドーラはどうする?」
「軽くあたしの方から話しとくけど、詳しいことは正式な文書を作ってもらって、閣下かニコラウスさんに説明してもらえるといいかな。本部が置かれることになるし」
「兄上、任せてよろしいでしょうか?」
「はい、お任せを」
「ドーラの首脳を施政館に連れてくるのがいい? それとも向こうに行く?」
「ドーラに行く」
なるほど、閣下もドーラ首脳に会ってみたいのか。
特にパラキアスさんは帝国でも知られてるみたいだしな。
イシュトバーンさん家には行ったけど、レイノスの町も感じたいのかもしれない。
明日なら剣術道場がない日だから、ルーネも連れていけるな。
「明日午前中にフェルペダ、午後ドーラでいいかな?」
「ハハッ、強行軍だな。構わない」
「じゃ、ドーラ行政府にはそう言っとくね」
さて、昼食をどこで食べよう?
雰囲気としてビバちゃんも連れ回すことになりそーだな。
じゃあイシュトバーンさんところでごちそーになろう。
あとで連絡入れとこ。
閣下が言う。
「ドーラで外務を担当しているのは誰なんだい?」
「外務を担当? ……そんな人いないな」
「今後担当者がいないなんてことでは困るだろう?」
「うん、マジで困る。でもドーラには文官がすげえ少なくて」
いや、だって外務担当なんて植民地時代には必要なかったし、独立もいきなりだったもん。
おまけに植民地時代もレイノスしか押さえてなかったから、有能なオルムスさんがいれば十分だった。
今後は政治のわかる人や文官が必要だわ。
でもドーラにはおゼゼもないから、迂闊に人を増やせないという事情もあるんだよな。
足りないものだらけだなあ。
プリンスも思い当たることがあるようだ。
「そういえば、ドーラ政府はオルムス知事とパラキアス氏、オリオン船団長の三人で動かしているのだろう?」
「実質その三人だね。オリオン・カーツは普段ドーラにいないから、オルムスさんとパラキアスさんで回してるようなもん」
閣下が疑問に思ったみたい。
「オリオン・カーツ氏だけフルネームなんだな。名は知っているが」
「あたしの父ちゃんなんだ」
「「「えっ?」」」
事情を知ってるプリンス以外はビックリ。
「ユーラシア君、御父君が存命だったのか?」
「あたしも知らなかったんだけど、五ヶ月くらい前にドーラ行政府でオリオン・カーツがあたしの父ちゃんってことがわかって。その感動の場面にはプリンスもいたんだよ。あ、でもその後は父ちゃんと全然会えてないな? 縁がないのかもしれない」
「寂しいだろうに」
「寂しくはないよ。皆がいるからね」
あれ、お父ちゃん閣下がウルウルしてるがな。
ルーネと会えないことを想像したか。
……しめしめ、チャンスだな。
「今度『アトラスの冒険者』の組織が変わるんだ。メンバー選定に少し融通が利くようになった』
「ほう?」
「ルーネを便宜的に『アトラスの冒険者』にして、転移の玉渡しとくよ。例えば通貨単位統一委員会関係で閣下がドーラに来なきゃいけないってことがあったら、ルーネに送ってもらうようにしてね」
「む……」
「親子は触れ合いがある方がいいと思うよ。あたしが言うのは何だけど」
「わかった、ありがとうユーラシア君」
よし、簡単に通った。
閣下は『アトラスの冒険者』が廃止されることはガルちゃんから聞いて知ってたろうけど、この先どうなるかも知りたかったろうからな。
ルーネから情報を聞ける機会を逃すまい。
ニコラウスさんが言う。
「陛下、通貨単位統一の連絡についてですが、ツノオカ騎士団領へは我が国から使者を出すことを依頼されました」
「ツノオカ? 我が国と特に親しくはないだろう?」
「とゆーか、アンヘルモーセンとあんま仲良くないからみたい」
「閉鎖傾向があって情報の極めて少ない国です。使者を送って損はないかと愚考いたします」
「なるほど。情報を得られる貴重な機会ということか」
「ぜひにもユーラシア殿を送ってくれとのことです」
首をかしげるプリンス陛下。
あ、ヴィルが同じポーズしてる。
可愛いな。
「その心は?」
「ツノオカって、どーもレベルの高い人が偉いみたいな国っぽいの。妙な気を起こさないように頭を抑えといてくれって、天使に言われた」
「アンヘルモーセンのヒジノ枢機卿も、同じニュアンスのことを話されておりました。弱き者には厳しい国だと」
「ふむ? ではこれも兄上とユーラシア君のコンビで行ってもらっていいかな?」
「了解しました」
「三日後は閣下の都合どうかな?」
「問題ないよ」
「じゃ、三日後の朝迎えに来るね。ルーネも連れてこ」
ルーネもレベル三〇超えだもんな。
きっとツノオカでも歓迎されるはず。
「以上だな? ではユーラシア君はドーラ政府に今日の件で連絡を頼む」
「了解でーす。えーと、あたしの方からもう一つ報告があるよ。昨日のデニスさんの息子キーファー君の関係で」
「何だろう?」
「キーファー君はルーネの旦那さんには向いてなかったわ」
「そんな報告はいらないんだよ!」
「いらないんだぬ!」
大笑い。
でも明らかにお父ちゃん閣下ホッとしてんのウケる。
「じゃ、帰るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。
やることは行政府に連絡とぴー子のエサ、イシュトバーンさんに連絡だな。
どーもオチをつけたくなってしまう、お茶目なあたし。