第2213話:ツノオカ騎士団領という国
「ふーん。アズラエルが問題あるって言うくらいか。どんな国?」
ツノオカ騎士団領だもん。
名前からして普通の王国じゃないしな?
「天崇教を全然信じないの! いけ好かないの!」
「自給自足傾向が強いであります」
「それだけなら全然問題なさそーな?」
質実剛健な国っぽい。
天崇教を信じる信じないは関係ないだろ。
「アンヘルモーセンと一番仲が悪い国ですのよ。カル帝国やガリアよりも」
「えっ?」
帝国やガリアって、テテュス内海ではアンヘルモーセンを仮想敵国扱いしてるからな?
それよりも仲悪いって言い切る関係は相当だぞ?
「カル帝国やガリアとは、今日の会談みたいに話ができますわ。でもツノオカとの対話は、今のままでは不可能なのですわ」
「あ、だから貿易に頼れなくて自給自足なのか」
「ツノオカ騎士団領は、魔物のいた地方を切り拓いてできた国です。豊かな国ではないですが、それなりの軍事力がありますので扱いが難しいであります」
「ふーん、武力に訴えてくるかもしれないと思うと、気持ち悪いねえ」
ビンボーなクセにプライド高かったりすると面倒だな。
でも魔物といい開拓といい、ドーラとは共感できそうな点はある。
自給自足傾向の強い国とすると、ツノオカにしかない面白いものがあるかもしれない。
興味はあるんで行ってみたいな。
「戦争でも吹っかけられて内海が荒れると困るです」
「……あれ? アズラエルが言うほどツノオカ騎士団領が原因の戦争って、可能性のあることなんだ?」
「サラセニアを支配下に置きたかったのは、対ツノオカの意味もあるです」
「マジか」
そーゆーことは早く言え。
物量に勝るカル帝国にとっては大した国じゃなかったかもしれんけど、アンヘルモーセンにとっては脅威になり得る国らしい。
地理的に近いし、陸路で攻められることもあり得るからだな?
「ちなみにアズラエルが見るところ、今後二〇年でツノオカ騎士団領が起こす戦争にアンヘルモーセンが巻き込まれる可能性ってどれくらい?」
「五%ですね」
「無視できない確率だなあ。アンヘルモーセンの政府首脳は、ツノオカの危険性は知ってるのかな?」
「知っているです」
「わかった」
アズラエルの予知があるのだ。
たとえ戦争になったところで、アンヘルモーセンが負けちゃうなんてことはまあない。
でも人死にが出たり施設が破壊されたり貿易が滞ったりなんて、あたしが嫌だしな?
帝国やガリアはざまあみろって思うかもしれんけど。
「ユーラシアはツノオカに行くことになるです。ツノオカが妙な気を起こさないように、頭を押さえといて欲しいです」
「わかった。任せろ」
今日の通貨単位統一についての会合で決まったことは、関係各国に連絡されるはず。
おそらくその際にツノオカへ行くんだろう。
ちょっと楽しみではある。
「もう直に会食も終わるです」
「あんた達最後に要求ある? 今度来る時にお肉を持ってとゆーこと以外に」
「ぎゅーして欲しいです」
「何なんだもー、甘えんぼめ。並びなさい」
あたしの頭に必死でしがみついてるヴィルはそのままに、天使達を順番にぎゅっとしてやる。
最近ハグの機会がマジで多いな?
可愛いやつらめ。
「ユーラシア君」
「閣下、終わった?」
「ああ。ほぼ事前の予想の通りだ。まだ仮だが名称は『通貨単位統一委員会』、ユーラシア君が委員長で予が副委員長になる。本部事務局はドーラに置かれる」
「ふむふむ」
「ギルの名を残し、一新ギル=三旧ギル=現在の一帝国ゴールドのレートになる。新ギルの正式名称は『ユーラシアギル』」
「えっ? まーいーか。ギルもあたしの名を戴いて光栄だろ」
アハハと笑い合う。
新ギル旧ギルじゃ間違えやすいから、正式名称を定めたんだろ。
「初期理事国がカル帝国、ガリア、アンヘルモーセンにフェルペダを加えた四ヶ国でいいのではないかという結論なのだが」
「じゃあフェルペダには早めに了解もらっとかなきゃいけないね。あっ、ちょうど明日フェルペダ行く用事があるわ。閣下とニコラウスさんも一緒に行く?」
「予だけで十分だ」
つまり外務大臣が出向くほどではないとゆーことか。
フェルペダはあたしの方がウケがいいだろうしな。
「初期参加国はガリアとその衛星国、テテュス内海諸国、カル帝国、フェルペダと東方諸国を予定している。外洋諸国はゆるゆる参加を求める形になるが、貿易にゴールドを使用している国々はすぐに前向きになってくれると思う」
コージモさんがニコニコだ。
「我が国ガリアに近い国の連絡は承ります」
「カル帝国はフェルペダとツノオカ、外洋諸国に話を通す」
「その他テテュス内海諸国はアンヘルモーセンが行います」
「ツノオカは帝国の担当なんだ?」
ヒジノ枢機卿が苦笑する。
「ツノオカ騎士団領と我が国が相性が悪うございましてな」
「ユーラシア君がいた方が話が早かろうという、一致した意見なのだ」
「つまり聖女を尊重してくれる国ってことだね?」
「その通りだ」
ヒジノさんとニコラウスさんがえっ? てな顔してるのは丁重にスルーする。
つまりどうやら勇士を尊重してくれる国らしい。
魔物がいるところを開拓した国だと、強さこそが正義って考え方になりやすいのかもな。
「天使達が、ツノオカは戦争起こすかもしれないって言うんだよ。ヤバい国なん?」
閣下ニコラウスさんヒジノさんコージモさんが顔を見合わせる。
「我が国とは国交がないんだ。ニコラウスも行ったことはないだろう?」
「ありませんな」
「私もありません」
コージモさんもか。
つまりガリアとツノオカも縁が薄い。
孤立した国ってのはよろしくないなあ。
ヒジノさんが言う。
「ワシは若い頃、宣教師として内海諸国で布教活動を行っていたことがあります。ツノオカにも一度訪れたことがありますが……まあ弱き者には過ごしにくい国ですぞ」
「やっぱそーゆー国かー」
レベル高い方が偉いみたいな価値観の国なんだな?
魔物が今もいるのかは知らんけど、強き者が率先して国を開拓してきた歴史があるから、強い者ほど優遇されるんだろう。
おそらく世界一高レベルのあたしが行けば、全てオーケーとゆーことだ。
「ま、ウダウダ言っててもしょうがないか。まずコージモさん達送ってくよ。ヴィル、ガリアの議会政堂行ってくれる?」
「了解だぬ!」
仲間外れを作っちゃよろしくない。
もっともソロモコみたいにそこだけで完結してて幸せで、他所に影響を及ぼさない国はいいと思うけど。