第2196話:ガータンは重要な場所
フイィィーンシュパパパッ。
「はい、夏です」
「夏だぬよ?」
「日中はなー。暑いし光り輝いてるからなー」
「ハゲ頭が眩しいぬ!」
「それな?」
昼食後塔の村にやって来た。
ヴィルのダイレクトなもの言いに反論の術を見出せない今日この頃。
直射日光と反射日光を浴びると倍暑い気がする。
多分気のせいじゃないと思うぞ?
「ユーラシア!」
「おおう」
デス爺のとこ行く前にリリーに捕まった。
やる気満々だね。
ヘルムート君に会いたいんだろニヤニヤ。
「ガータンに行こうぞ!」
「メッチャ意気込みが伝わるね。ヘルムート君ラブの気持ちは十分わかったから、ちょっと待ってろ。あたしはデス爺にも用があるんだ」
「ラブではないのだ!」
「親愛でも友愛でも恋愛でもどう言い換えたっていいんだけどさ。リリーがヘルムート君に魅かれてることは間違いないのだ」
自分の気持ちを受け止め切れてないのか単に認められないのか、赤くなりながら難しそうな顔をするリリー。
ヘルムート君は元々やるやつだと思ったけど、ガータンの領主になって一皮向けた気がするよ。
少なくともリリーの旦那さん候補だった三人の内では、紛れもなくナンバーワンだわ。
ユー嫁に行っちゃいなよニヤニヤ。
黒服も賛成みたいじゃんニヤニヤ。
からかい過ぎるのもよろしくないから話題を違う方向へ。
「話してなかったことがあるな。上皇妃様とヴィクトリアさんさ。今ゼムリヤへ避暑に行ってるんだよ」
「母様と姉様が?」
「本当ですか?」
黒服の方が意外そうだね。
「本当。一ヶ月くらいのんびりしようかってことみたいだよ。ゼムリヤ夏はいいところだもんねえ」
「ケンカでもしやしないかと心配なのだが」
「あの二人は相性いいから大丈夫だと思うぞ?」
「相性がいい?」
「うん。過去には互いの立場とか行き違いがあったから、仲悪いように見えたかもしれんけどさ。元々同じ私塾の先輩後輩らしいじゃん」
「あの二人は喋りもしない期間が長かった。我は自分を納得させるために様子を見に行きたいぞ」
「……そー言われると心配になってきたわ。あたしも様子見に行きたいな。とゆーか魚横丁が気になってしょうがない。でも予定詰まってるからな……」
リリーが変なフラグを立てるから、あたしも上皇妃様とヴィクトリアさんが気になってきたぞ?
もちろん魚横丁のフラグも絶対に回収するけれども。
「……来月の頭だな。五日後はリリー眠いだろうから、六日後はどう?」
「五日後に眠いとはどういうことだ?」
「ごめん、言い忘れてたね。四日後に新『アトラスの冒険者』立ち上げの集会があるんだ。リリーも新メンバーとして参加してもらいたいから、ギルドまで来てよ」
「午前中なのだな?」
「うん。詳しい時間は知らんけど」
ギルドって八時からやってるんだったか?
じゃあ八時かな?
「努力する」
「してください。集会についてはエルとレイカにも言っといてね」
「わかったぞ」
「リリーに言っとくべきことはこれで全部だな。ガータンへ……そーだ、デス爺にも用があるんだった。おーい、じっちゃーん!」
デス爺のところへダーッシュ。
「何じゃ、騒々しい」
デス爺はやかましいの騒々しいの言いながら目は優しい。
美少女に甘いから。
「転移石碑のチェックお願いしまーす。これ、昨日渡し忘れたフェルペダのお酒。フェルペダは栄えてる国だから、きっとお酒もおいしいと思う」
「そうか、うむうむ」
すげえ嬉しそう。
昨日わざと渡さなかったじゃろとか言われなくてよかった。
単に戦術なのだ。
「チェックできたらアレクに預けといてくれる? あたしは今からリリーとお出かけなんだ」
「わかった。が、どこへ行くのじゃ?」
「ガータンだよ」
「ヒョウタン酒の地じゃな?」
「合ってるけれども、よくそんなこと覚えてるなあ。もっと大事なこと覚えてる?」
「リリー皇女殿下のいい人が領主をしているとのことじゃったな」
「そうそう、愛の聖地ガータン」
「ユーラシア!」
アハハ、こういう話題に弱いリリーは可愛いな。
「ユーラシアはガータンに用があるのか?」
「そりゃあるよ。だって黒妖石を回収に行かなきゃいけないじゃん」
「黒妖石?」
あっ、ガータンで黒妖石を入手してるってこと、デス爺に言ってなかったか。
ドーラにとってはヒョウタン酒よりもリリーラブよりも大事なことだった。
「ドーラって、大きい黒妖石がまとまって出るところが知られてないじゃん?」
「いかにも。お主がどこで黒妖石を手に入れておるのか不思議に思っていたのじゃが」
「帝国本土の真ん中辺りの山の中では、大して珍しい石じゃないんだ。むしろ硬くて邪魔な、農具を傷める厄介な石くらいに思われてるの。あたしがガータン開発に出資して、黒妖石を掘り出しててさ。ガータンは耕地が広がる、あたしは黒妖石をもらえるって関係」
「ほう、そうじゃったか。たまには有意義なことをしておるではないか」
「何だたまにはって。あたしがやってることは全て有意義だわ」
「大体だぬ!」
アハハ。
まあ時にはエンタメを優先する時もある。
時にはでもないか。
しょっちゅうか。
「ガータン行きの転移石碑は必要かと思ってるんだ。何てったって新『アトラスの冒険者』に欠かせない黒妖石の入手先だし」
「皇女殿下が喜ぶからじゃな?」
「そゆこと」
リリーが何も言わなくなっちゃった。
デス爺がからかうからだ。
あたしもからかってるだろうって?
だからどーした。
「ガータンの住民は、黒妖石が有用な鉱石であることを知らぬのか?」
「もちろん魔力親和性が高いことを知ってる人は知ってるんだけど、加工技術がないじゃん。ドーラと違ってドワーフがいないんだから」
「ふむ、黒妖石は大層硬い石じゃからの」
「あたしだって五〇万ゴールドも出資してるんだぞ? 出資金とは別に、転移石碑作れるくらいでっかい黒妖石は有料で買い取ってるし」
「それ以外の、転移の玉やビーコンくらいの小さな石はタダなのじゃな?」
「まあそう」
胡散臭そうな目で見るな。
あたしがいなきゃタダでもいらんものがおゼゼになってると思えばいいことだわ。
ガータンにとって将来の展望がメッチャ開ける投資をしてるとゆーのに。
ウィンウィンだとゆーのに。
「まーいーや。ヴィル、ガータンに飛んでくれる?」
「わかったぬ!」
さて、リリーはヘルムート君に会ってどういう反応を示すだろーか?
領主になったヘルムート君は逞しくなったぞニヤニヤ。




