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第2192話:あたしの敵ではないから味方だ

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「今月の移民は無事そっちに着いたかな? いや、トラブルを期待してるわけじゃないよ。念のために言っておくけれども」

『フラグを立てたところ申し訳ないが、滞りなく到着したよ』


 フラグではないとゆーのに。

 あたしは慈愛の心溢れる聖女だとゆーのに。


『ただドーラは帝国より暑いだろう?』

「あーくたびれちゃってる人が多いか」


 来月も八の月で暑さも本番だ。

 飲み水が足りなくなるかもしれないから、開拓地への出発前に水魔法の杖を貸し出した方がいいかもしれないな。


「明日お肉持って開拓地行ってくるね。歓迎のお肉乱れ撃ち」

『ああ、よろしく頼むよ。乱れ撃たなくてもいいけれども』

「お肉と言えば、今日ドワーフの日だったんだ」

『何かの記念日みたいだな』

「アニバーサリーミート」

『おーい、ドワーフどこへ行った?』


 アハハと笑い合う。

 ドワーフよりお肉の方が重要だからつい。


『転移石碑の納品だな?』

「うん。極めて順調だね。順調過ぎて何か起きるんじゃないかと心配になるけど、あたしが困るフラグは立たんでいいとゆー、この世の常識」

『何なんだ、一体』

「新しい転移石碑の注文もしてきた」

『で、肉も食べてきたんだな?』

「いや、今日はルーネとビバちゃんも連れてったから、すぐに帰ってきたんだ。もちろんお肉はお土産で持ってったけど」

『皇女と王女を? それは何故だ?』


 改めて聞かれるほどほど大した理由があるわけじゃないんだが。


『遊びたい以外で』

「あれ、最も重要な理由を消されてしまったな。ま、ルーネは新『アトラスの冒険者』の一員になるんだ。信用できるし、結構なレベルになってるしね」

『帝国人すらも働かせてしまうんだなあ』


 ムリヤリ働かせるわけではないわ。

 ルーネは冒険者志望だからだわ。


「ドワーフと交渉するのも今後あたしばかりじゃいけないから、他の人も連れていって紹介しとこうとは思ってたんだ。たまたまルーネが第一号だったってだけだな」

『王女の方は?』

「ビバちゃんはビバちゃんで、色んな経験させてる最中なんだよね。主に人に会うっていう面で」

『ユーラシアに構われると大変だなあ』

「ビバちゃんも喜んで行きたがるんだとゆーのに」


 ルーネもビバちゃんも幼少期にあまり他人に構ってもらえなかった子だ。

 今になってあちこち行くのは、楽しいことだと思ってるんだろうな。

 好奇心旺盛なところを見せている限り、あの二人はどんどん成長するだろ。

 あたしも構い甲斐がある。


『面識のない人を連れてって、ドワーフは嫌がらないのかい? 基本的に偏屈なんだろう?』

「ニヒルなフリしてるだけだよ。今日も他所者に甘い顔見せたりはしねえみたいなこと言ってたけど、お肉一杯持ってきた宣言したら、宴だ客人を歓待するぞって。宴は辞退したけど」

『単純なんだな』

「ドワーフはお肉とお酒に決して勝てないのだ。弱点の明らかなやつはあたしの敵ではない。だから味方だ」

『ユーラシアの言い分はどこかおかしい』

「そお?」


 まあドワーフみたいな優れた技術を持ってる人達は尊敬すべきだと思うよ。

 お肉で仲良くしてもらえるなら安いものだ。

 どんどんドワーフとも交流を深めねばな。


「お酒も酢や醤油と同じように発酵させて作るもんなんでしょ? 黒の民はお酒を造んないのかな?」

『どうだろう? 聞かないな。黒の民はストイックなところがあるからかもしれない』

「お酒は結構需要があるし腐らないじゃん? 商品として魅力的なんだよね」

『ユーラシアは酒を飲まないんだろう?』

「お酒はぬるめの燗がいい、じゃなかった、お酒は二〇歳になってからと決めているんだよ。母ちゃんがそうしなさいって言ってたから」

『ふうん? いや、君は本にしても酒にしても、自分とあまり関係なさそうなものに拘るだろう? 不思議だなと思ってさ』

「今あたしに関係があるかないかじゃないんだよなー。興味はあるんだよ。むしろお近付きになりたいものとゆーか」


 サイナスさんは勘違いしている。

 あたしは本が嫌いなわけでも苦手なわけでもない。

 眠くならない本は大歓迎なのだ。

 お酒を飲めるようになる日だって、今から本当に楽しみにしているのにな。


「今日のメインイベントは、ビバちゃんの絵をイシュトバーンさんに描いてもらうことだったんだよ?」

『ん? フェルペダ王女は画集帝国版に関係はないんだろう?』

「画集には関係ないな。フェルペダサイドからの依頼。とゆーかあたしが売り込んだんだけど」

『どういうことだい?』


 うむ、これは聖女の華麗なる説明が必要。


「イシュトバーンさんの絵を描きたい欲求を満たしてやる、とゆーのが第一の理由」

『ハハッ、氏も絵を描くのを楽しみにしてるんだな』

「モデル集めが大変で」


 イシュトバーンさんも右手が疼くの余ってるのうるさいからな。


『もう一つの理由は?』

「ビバちゃんはヤバい子だったから、人前にほとんど出てないんだよ。フェルペダ国民もビバちゃんの存在は知っていても、どういう子だかはわかってない。元使用人達の口から我が儘王女だっていう悪評だけが広がるとゆーか」

『ええ? 全然ダメじゃないか』

「今のビバちゃんはそれなりに努力してるんだけどさ。過去の悪評はなかなか消えないもんなのだ」

『ははあ、大体わかったぞ。イシュトバーン氏に描かせた絵を新聞に載せるかポスターとして配るかして、国民感情をいっぺんに変えようというんだな?』

「ピンポーン! サイナスさん大正解!」


 賞金商品はありませーん。


『君らしいやり方だが、うまくいくのか?』

「イシュトバーンさんの絵だぞ? 衆目を集めることに関しては間違いないけど、この手は一度しか使えないじゃん? 最高のインパクトが得られるのは最初だから」

『そうだな……何かのイベントに合わせる?』

「ビバちゃんの婚約発表に合わせると思う。あたしは最大限に協力したので、あとのことは知らん」

『無責任さがひどい』


 ひどくないわ。

 宣伝戦略よりも本人の実態が伴っていることが必要というだけだわ。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日はお肉とガータン。

敵ではないから味方だってゆー理論は大好き。

あたし語録にぜひ入れてもらいたい。

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― 新着の感想 ―
腐りゃしないが発酵しすぎたりはするな いやある意味腐ると同義か
>弱点の明らかなやつはあたしの敵ではない。だから味方だ なんだか深い話に聞こえるなぁと思ったらユーちゃんご本人からのプッシュが
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