第2183話:ダンテが盛り上げてくれる
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルと、ついでにクララをぎゅっとする。
クララ込みもパターン化してきたな。
昼食後に世界最大のダンジョンの小の試練の途中、前回到達したところまでやって来た。
アトムが言う。
「ここは広いことは広いでやすが、心躍らねえ洞窟でやすぜ」
「こらアトム、そんな寂しいことをゆーな」
「姐御はつまらねえと思わないんでやすかい?」
「思うに決まってるだろ。でも気力を奮い起こして歩みを進めようとしているのに、心躍らないつまらないと言われてみなさい。嫌になっちゃうだろーが」
「へえ」
「大体嫌だ嫌だつまらんってのはあたしの言うべきことだわ。あたしの我が儘を宥めてクエストを続けようって感じに持っていくのが、うちのパーティーのあるべき姿なんじゃないの?」
困惑、でもわかるって顔をうちの子達がしてるわ。
ちょっとした掛け合いで楽しもうとゆー意図が通じただろうか?
これもリーダーであるあたしの役割だ。
「ボスはセルフィッシュね」
「わかってる。あたしも事実を否定するほど愚かじゃないから」
「アトムが言うように単調なダンジョンなのも事実ですよ?」
「それなー。ライオンがいるだけで単調なんだよなー。せめてライオンがおいしそーだったら文句なんか言わないのに」
でもライオン肉が美味かったら絶滅しちゃう気がするな。
肉食獣って草食獣より繁殖力弱そうだし。
まあライオンが住んでるだけあって、狭くて通りづらい通路はない。
ないとゆーか、穴みたいのは一杯あるけど無視してる。
ライオンのエサさん達のナワバリみたいだから。
「一本道みたいだから、とりあえず先行くよー」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
◇
「打っ棄ってもいいわけじゃないですか」
「ん? クララどーした」
ずんずん先へ進んでいく。
クララとダンテが不満げのようだ。
「ダルでダルいダンジョンね」
「あっ、ダンテが何か言った!」
「クララやダンテの気持ちもわかりやすぜ。面白みのねえ洞窟でやす。あっしは探索が好きでやすが、それでも注意力が散漫になりそうでやす」
「またつまらんダンジョンとゆー議論に戻っちゃうのか。しかーしちょちょぎれる涙を飲んで、打っ棄るという意見は却下します」
「ユー様はこのダンジョンのどこにエンターテインメントを感じているのですか?」
「試練、かな」
「「「試練?」」」
「小の試練とか大の試練という、ダンジョンの名前のことですか?」
「うん。試練を越えた先には報酬ありの原則があるじゃん?」
「ワッツ?」
うちの子達にはわからない理由だったか。
「でも報酬があるとは限らないでやしょう?」
「限らないね。でもなかったらその時怒ればいいじゃないか。今放棄するのはまだ早いってことだよ」
「ユー様の理屈はわかりました」
「小の試練中の試練大の試練と並べば、小の試練が一番奥行きも浅いと思うんだ。まず小の試練を行けるとこまで行こう」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
◇
「一、二頭はぴー子のエサとしてキープしときたいけど」
「帰り際に考えればいいと思いますよ」
「そーだな。クララ先生の意見に従おう」
聞きわけのない白ライオンを倒しつつ、かなり奥まで来た。
洞窟の見た目に変化がないのは確かに退屈だ。
「メニーマテリアルね」
「素材は結構儲かったね。ホクホク」
誰もこんなとこまで来ないんだろうな。
素材集めと割り切って考えればよかったかも。
コモンの素材ばっかりではあるけど。
「姐御、光が漏れてやすぜ」
「本当だ。大きい空間かな? 一応注意ね」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
大勢の魔物が待ち構えてるケースもないではないだろうから。
でも特に危険な雰囲気は感じないな。
中を覗き見る。
「部屋だな」
「トレジャーボックスね!」
「やたっ! 退屈の試練に耐えたあたし達に御褒美だ!」
苦笑すんな。
あんた達も退屈なクエストだと心の中で思ってたろーが。
とゆーか口にも出してたわ。
「宝箱久しぶりだなあ。バアルのお宝以来か。さて、お宝のチェックタイムだね」
まず周りの状況を確認する。
広い部屋ではない。
特に真ん中に置いてある宝箱に淡い光が集まるようになっていて、神秘的な雰囲気を醸しだしている。
期待が高まるなあ。
「……マジックパワーは感じないね」
「木製の宝箱ですね」
「金属の部分も特には。銅の合金でやす」
「どう思う?」
見かけは地味な宝箱だ。
転移の間を作ったっていう古の大魔道士が置いたものじゃないか?
とすると凝った仕掛けがあってもおかしくないのだが。
「ユー様のカンで、何か罠があるように感じますか?」
「感じないなあ。ふつーの宝箱だと思う。ついでに言うと中身もふつーな気がする」
「姐御、中身の種明かしは勘弁して欲しいでやすぜ」
「あ、ごめん」
あたしとしたことが、エンターテインメント性も考えず、迂闊なことを口走ってしまった。
大いに反省だ。
「あたしが開けるよ。あんた達はオーソドックスに警戒しといてね」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
ダンテがボソっと言う。
「メニーメニー魔法の葉かもしれないね」
「おいこらダンテ! 何てことをゆーんだ!」
こんな何年放置されてるかわからない宝箱の中に目一杯の魔法の葉?
腐ってるにしてもパリパリに乾燥して苦さ不味さの固まりになってるにしても恐怖しかないわ。
「まったくダンテは盛り上げてくれるなー。開けるぞー」
あたしがドキドキするわ。
箱としては単純な造りで蓋が乗せてあるだけ。
カギもかかってない。
うむ、蓋も軽いな。
魔法の葉の幻想に打ち勝ち、とりゃっと蓋を外すと……。
「紅葉珠ですね」
「紅葉珠五つか。まあまあ儲かった」
今日は紅葉珠のドロップがなかったな。
最後で取り返したと思えばいいか。
「マジで普通のお宝でやしたぜ」
「無難っちゃ無難だね。でも普通のお宝だと、本当に転移の間を作った人が設置した宝箱かどうかわからんなあ」
中の試練と大の試練を探索する楽しみが残ったとも言える。
いや、探索自体はあんまり楽しそうでもないんだが、とりあえず最後まで行けば御褒美にありつけそうだということがわかったのは、今日の収穫だ。
「さて、帰ろうか」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
白ライオンの亡骸を持って、転移の玉を起動して帰宅する。
魔法の葉って乾燥させるとどうなるのかなあ?
新たなホラー要素が芽生えてしまったガクブル。
あたしを震えさせるなんて大したもんですよ。