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第2178話:事情は推し量りがたい

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「サイナスさんに関係がありそうでなさそうな発表がありまーす!」

『何だ何だ?』

「アレクに『スライムスキン』の紐、地中から魔力を吸い上げる用のやつ。一杯作ってもらわなきゃいけなくなりそう」

『もう予備を作ってるみたいだぞ?』

「えっ?」

『ケスとハヤテに手伝わせて』

「色々やるなあ」


 足りなくなるのを先読みして作ってくれてるのか。

 あれ作るの難しいのに、ケスやハヤテにまで教えて?

 アレク恐ろしい子。


『デスさんがアレクに伝えたそうだぞ? ビーコンとセットの転移石碑の設計図を君に渡したことを』

「だから気を回してくれたのか。助かるなあ」

『仮に今使わなかったとしても、『スライムスキン』の紐はムダにならないだろう? 大火事消火用の魔道具をはじめ、どうせ君は黒妖石利用の魔道具を推進するに決まっているから』

「完全にあたしのやりそーなことを読まれているなあ。面白くないんだけど?」

『何なんだ君は』


 行動を読まれるのは意表を突きたい乙女心に反するのだ。

 ただあたしの意を酌んで弟分が働いてくれたと思えば気分がいい。


『報酬の透輝珠も数が多かったろう? だからユーラシアにサービスしてやろうと思ったんじゃないかな』

「マジで助かるなあ。あたしもアレクにサービスしてやらないと」

『ハハッ、具体的には?』

「アレクの思い人を異世界に取り返されないようにしてやる」


 ピシリと空気が重くなる。

 塔の村の精霊使いエルを巡る争いについてだ。


『……『アトラスの冒険者』廃止に関して起こり得る、一連の予想事項の一つだな? 進展があったのかい?』

「精霊使いエルの母ちゃんの政敵って人に会えたんだ」

『ほう?』

「どーも向こうの世界の神様は仕事熱心みたいなんだよね」

『ん? 撹乱話法かい?』

「まあそう。向こうの世界の偉い人の夢の中に手当たり次第出てきて、エルを取り返せーって指示を出してるっぽい」


 こっちの世界の神様たわわ姫はそんな面倒なことしてないしな。

 さすがに向こうの世界の神様は成績がいいだけあると褒めるべきか。

 しつこいやつはモテないぞと、面と向かって言ってやりたい気もする。


『ちょっとよくわからないんだが?』

「担当の世界がどれだけ繁栄してるか、ってのがつまり世界を管轄してる神様の仕事の成績になるんだよね」

『うん、以前にそんなようなこと聞いたな』

「向こうの世界はすごく技術が進んでるじゃん? だから向こうの神様は、自分とこの世界の技術が他所に流出するのを嫌がってるっぽいの。進んだ技術が外に出ちゃうと、相対的に自分の世界の発展が目立たなくなると考えてそう」


 単純にたわわ姫を嫌ってるのかもしれないけど。


『技術の流出を嫌がるって、どうしてわかるんだ?』

「『アトラスの冒険者』の廃止とともに、亜空間超越移動をしなくなるんだそーな。あっちこっちの世界に行かなくなっちゃう」

『……違和感があるな。あちこち足を延ばした方が、発展に繋がる新しい知見を得られる可能性は高かろうに』

「サイナスさんもそう思うでしょ? 向こうの神様の都合だと思うんだ。自分の世界を発展させて成績を伸ばすことよりも、他所の世界を発展させないようにしていると考えると辻褄が合う」


 わからんではない考え方だ。

 そりゃ新しい技術を開発するより、他所から持ってきた方が効率いいもんな。

 あたしだって進んだ異世界の技術を導入したいわ。

 逆に他者に対する自分の成績のアドバンテージを維持しようと思ったら、技術を囲い込むという保守的な手法を取りたくなるんだろう。


『しかし『アトラスの冒険者』なんてものを寄越しといて、今更技術流出がどうのこうのなんておかしいじゃないか』

「『アトラスの冒険者』は向こうの神様にとってボーナス案件だったんだよね。仕事の成績を底上げするもの? だからこっちの世界の神様たわわ姫は、『アトラスの冒険者』をいらんものだと考えてるくらい」

『神様の事情は推し量りがたいな』

「付け入る隙があるってことじゃん?」

『ユーラシアの事情も推し量りがたいな。どういうことだい?』

「つまり神様の事情と実際の世界の住人では、何が得で何が損になるかが違うってことじゃん?」


 上の人と下の人では見ているものが異なるのだ。

 身分の高い低いに関わらず様々な人と付き合いのあるあたしは、双方の事情に気付きやすいのかも?


「異世界の神様も、こっちの世界の発展度合いが向上しつつあることに気がついてるはずなんだ。何故なら運命が人類の衰退へ向かうルートはほぼ消失したって、たわわ姫があたしの夢の中に出てきて喜んでたくらいだから。絶対他の神様にも自慢してるな」

『神様の言動があまりにも俗っぽくてひどい』

「俗っぽい方がわかりやすくて、あたしにとっては都合がいいの」

『何でもかんでも自分の都合を優先させるのはもっとひどい』


 自分の都合を優先させることはひどくないわ。

 

「向こうの世界の神様は、エルがこっちの世界に来たことで発展を促してるんじゃないかと疑惑を持ってるんじゃないかな? だからエルを取り戻すことに固執する」

『面白い。それで?』

「でも向こうの世界の住民の立場だと、エルが戻ることはプラスじゃないじゃん? 特に今政権取ってる人達にとっては、レベルの高い旧王族の美少女なんてものが突然現れるのは恐怖でしかない」

『ははあ、精霊使いエルの母の政敵というのも異世界の現支配者層の人だから、エルが連れ戻された時のデメリットを煽ってきたんだな?』

「うん」


 損得勘定が一致するから協力できるのだ。


「エルの母ちゃんの政敵の人も真面目な人なんだよ。だもんで操りやすいというかごにょごにょ」

『いいよ、君の説得力はわかってるから』

「で、情報を流してもらえることになった。でもエルの母ちゃんがどういう考えでいるのかがわからないんだよね」


 エルを確保できたってつまらん未来が待ってるだけだろうに。

 神様に唯々諾々と従ってるだけなのか。

 それとも別の思惑があるのか。


「面白くはなってきたよ。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はどうしよう?

無乳エンジェルもまた真面目な人だ。

変なこと考えてるとは思えんがなあ?

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>『何なんだ君は』 そうです私が変な聖女です ドーラ名物 変な聖女♪ 変な聖女♪
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