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第2174話:神を信じますか?

「現在ドリフターズギルドにあるフルステータスパネル。あれもらえないかな?」


 意表を突いたみたいだな。

 枝葉の話は出てなかったに違いない。

 『アトラスの冒険者』と直接の関係のないマリボイラ副評議長にどれくらいの権限があるか知らんが、こっちの世界がどういう要求を出してるかってことは伝わるだろ。

 補償の問題提起として十分だ。


「治安が乱れるのはひっじょーに困るので、こっちの世界の転移術を利用して疑似的な『アトラスの冒険者』を作ることにしたんだ。レベルや持ち固有能力がわかるフルステータスパネルがあると便利だから」

「でもユーちゃん。本部からの遠隔操作が切れると、魔力供給が行われなくなって動かなくなっちゃうのよ?」

「だろうね。でも逆に言うと、魔力供給さえ何とかなれば使えそうじゃん? チュートリアルルームのフルステータスパネルは、冒険者の初期転送魔法陣と連動する機能付きみたいだからムリかもしれんけど」


 この要求はどう捉えられるだろうか?

 べつに通らなくても『サーチャー』や『鑑定』の固有能力持ちに協力してもらえばいいので、致命的な問題じゃない。

 しかし副評議長はこっちの世界への補償として有効と考えるんじゃないか?

 とゆーか何らかの補償が必要だって考え方に誘導したったわ。


「こっちの『アトラスの冒険者』の現在の職員さん達は、あたしが新組織作ることに賛同してくれてるんだ。『アトラスの冒険者』から一応の補償があるってことで納得してくれると思うよ」

「いや、そんなことで補償になるのでしたら、構わないと思いますよ」

「『アトラスの冒険者』に関してはマリボイラさんに権限がないでしょ? 権限がある人と相談しといてよ」

「わかりました」


 権限がある人イコール無乳エンジェルだ。

 さらに仕事詰め込んだった。

 向こうの世界の神様も、フルステータスパネルをはじめとする向こうの世界の機器がこっちの世界にあることまでは、意識が向いてなかったんじゃなかろうか。

 何も言わなきゃ黙ってこっちの世界のものになっただろう。


 しかし一旦気がついたなら、便利グッズをこっちの世界に置いてくることに嫌悪感を示すに違いない。

 取り返せって指示が出るんじゃないかな。

 ハハッ、無乳エンジェルよ。

 補償問題との板挟みになって困ってろ。


「一つわかんないことがあるんだ」

「何でしょう?」

「シスター・エンジェルの娘さんの話」


 ビクッとする副評議長とバエちゃん。

 デリケートな問題だからね。


「えーと、こっちの世界で言う赤眼族がそっちの世界の昔の王様の一族で、大昔に暴虐な政治を行ったからこっちの世界に追放された。っていう理解で合ってる?」

「正しい認識です」

「『アトラスの冒険者』は旧王族の監視のために組織された」

「はい、よく御存じで」


 どうして情報が洩れてるんだって思ってるんだろうな。

 副評議長がバエちゃんを睨んでるけどスルー。


「シスター・エンジェルの娘通称エルは、そっちの世界の旧王族の血脈を継いでるんでしょ?」

「という調査結果が報告されていますね」

「何でエルをこっちの世界に押しつけとけってならないで、取り返せとゆー話になってるの? 赤眼族とエルの扱いが違うのはどうして?」


 途端に自信なさげな表情になる副評議長。

 ははあ、副評議長も自分で納得いってない部分なんだな?

 どう答えるか見ものだな。


「シスター・エンジェルが独断で娘を取り返そうとしてるんだ?」

「ではないのです。エンジェル所長の娘を『アガルタ』に連れ帰ることに関しては皆の総意でして……」

「わからんなー。今そっちの世界で、エルが旧王族の血を引くってことは広く知られてるんだよね?」

「はい」

「旧王族の子孫だって非難に晒されるのは目に見えてるじゃん」

「かもしれませんが……」

「エル自身が悪いことしたわけでもないんでしょ? 虐めようとするのは感心しないね」

「……」

「そこハッキリ説明してくれないと、人道的な立場からこれ以上協力できないぞ? とゆーかどっかにエルを隠しちゃって帰さないぞ?」


 追い詰めたった。

 どう返す?

 迷いを見せながら副評議長が言う。


「……ユーラシアさんは神を信じますか?」

「おおう」


 これはビックリ。

 ド直球で来たぞ?

 副評議長は正論でグイグイ押すタイプで、ウソや誤魔化しは嫌いな人なんだろうな。


「マリボイラさんの夢の中に神様が出てきて、エルを取り返せって言ってる。マリボイラさんは必ずしも納得いってるわけじゃないけど、従うしかないと思ってる、で合ってる?」

「どうしてそれを!」

「総意ってことは、多くの偉い人の夢の中に神様が出てきて、同じようにエルを取り返せって言ってるのかな?」

「そ、そうなのです」

「ユーちゃんすごーい!」


 当たりらしい。

 マジかよ。

 向こうの世界の神様のアクションが思ったより派手だぞ。

 夢の中なら何やってもいいと思ってない?


「マリボイラさんがシスター・エンジェルの政敵だってことは知ってる。ここからあたしの想像が多いけど」

「はい、どうぞ」

「エルはそっちの世界にとって爆弾みたいなもんだ。旧王族派が勢いづいて政権がひっくり返るおそれがあるんで、できればエルの存在を明らかにしたくはなかった。だから元々はシスター・エンジェルと取り引きして『アトラスの冒険者』を潰し、シスターの影響力を弱めようとしてた。けど神様の意向には逆らえないから、エルとシスター・エンジェルの関係を大々的に糾弾する作戦に切り替えた、だね?」

「か、完全に合ってます」

「ひどい……」

「バエちゃん、これはひどくないんだぞ? 法律に違反してるわけでもないだろうし。もっと言うと『アトラスの冒険者』は、マリボイラさんとシスター・エンジェルの政争がなくてもどっちみちなくなっちゃうものなんだ」

「そうなの? ユーちゃんはどうしてわかるの?」

「傍から見てる方がわかることはあるんだってば」


 あと情報とカンで。

 さて、ここからどうやって副評議長を取り込もう?


「……神様はどういう理由でエルを取り返せって言ってるのかな?」

「文明の進歩は一足飛びであるべきでないと。アガルタからの干渉は『ユーラシア』の正常な発展を阻害すると」


 こっちの世界のことだとわかっちゃいるが、あたしの名前が出てくるとむず痒いな。

異世界の神様は思ったより積極的。

だから成績もいいのかな?

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