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第2173話:副評議長マリボイラさん

 フイィィーンシュパパパッ。


「あら、ユーちゃんいらっしゃい」

「華麗なるあたし、お肉とともに参上!」

「お肉とともに参上だぬ!」


 ヴィルとともにチュートリアルルームにやって来た。

 バエちゃんがピクッとしたが、踊り出すのを堪えている。

 今日はゲストがいるからだ。

 その中年の女性が言う。


「あなたがユーラシア・ライムさん?」

「そうそう。美少女精霊使いユーラシアだよ。よろしくね」

「ヴィルだぬ。よろしくお願いしますぬ!」

「初めまして。アガルタ立法評議会副評議長マリボイラですわ」


 握手。

 ふむ、性格は勝気。

 それなりに品を重んじる。

 自分の実力に関して自信があるようだ。


 ……扱いやすいタイプだな。


「ところで『アガルタ』とゆーのは初耳だな。そっちの世界の名前なの?」


 ん? バエちゃんが僅かに逡巡したような反応を見せた。

 『アトラスの冒険者』ではこっちの世界の住人に言っちゃいけないことを厳密に決められ、チュートリアルルームの係員であるバエちゃんはそれを知っているはず。

 もっともバエちゃんはゆるゆるだけど。

 『アガルタ』という名称を話すことも禁止事項に当たるんじゃないかな?


 ……副評議長マリボイラさんは情報源として狙い目だ。


「はい。世界の名前、国の名前ですね」

「へー。こっちは自分の住む世界に統一的な名前をつけてないんじゃないかな? 国はたくさんあるけど。そっちからこっちの世界は何て呼ばれてるんだろ?」

「実は……『ユーラシア』と」

「えっ?」


 意外も意外だった。

 バエちゃん今まで一言もそんなこと言わなかったじゃないか。

 あ、でも地母神だっていう、汎神教の女神ユーラシアからの連想かな?


 副評議長が言う。


「ところで肉とは何ですか?」

「えーと、ミートのことだよ。どーぶつの骨を包む筋組織。食べるとおいしいんだ」

「言葉の意味ではなくてですね」


 何だったろ?

 バエちゃんが言う。


「ユーちゃんは時々お肉を持ってきてくれるんですよ」

「イシンバエワさん。『アトラスの冒険者』職員は現地人との接触は最小限にするのがルールですよ」

「……すみません」

「ごめんよ。あたしはそんなルールがあるとは知らなかった」

「ユーラシアさんは御存じでないでしょうけれども」

「新人冒険者にとってスーパーなテクノロジーで運営母体も不明な『アトラスの冒険者』は、かなり胡散臭い組織と思われがちなんだよ。あたしもわけわかんないから、『アトラスの冒険者』になりたての頃は毎日みたいにチュートリアルルームに押しかけてた」

「コミュニケーションも重要ということですか?」

「何するんであっても、話してわかり合うことは重要じゃない? あたし達とコミュニケーション取ってるバエちゃんの、職員としての成績はいいんでしょ?」

「そういえば……」

「御飯を一緒に食べてる内に仲良くなったんだよ」


 副評議長が軽く頷く。

 バエちゃんの成績がいいのはあたしが肩入れしてるからだ。

 でも『アトラスの冒険者』の職員でもない副評議長は、細かい事情なんか知るまい。

 理詰めのタイプはいくらでも思考を誘導できる。

 実にやりやすいな。


「せっかくだからマリボイラさんもお肉食べてく?」

「よろしいのですか? 何の肉です?」

「コブタマンっていう魔物の肉だよ」

「えっ、魔物?」


 恐れおののく副評議長。

 魔物肉食べたことのない人はこういう反応になることが多いなあ。

 バエちゃんは最初から無警戒だったけど。

 バエちゃんのフォローが入る。


「とってもおいしいんですよ」

「で、でも……」

「お肉が美味いか不味いかに、魔物であるなしは関係ないんだ。邪気があろうがなかろうが、美味い肉はうまーい!」


 ハハッ、まだ警戒しとるわ。


「マリボイラさんは何のお肉食べたことある? 魚介類以外で」

「そ、そうですね。ウシ、ブタ、ニワトリに……ヒツジ、カモくらいでしょうか」

「でしょ? あたしはその何倍もの種類のお肉食べてるな。その中でもコブタ肉は最高においしい部類だぞ?」

「最高……最高ですか?」

「試しに食べてみましょうよ」


 レッツクッキング!


「おいしい……素晴らしい……」

「に~くが~すべ~てさ~いま~こそ~ちか~うよ~あ~いを~こ~めて~つ~よび~つ~よび~」

「バエちゃん絶好調だね」


 コブタ肉を焼いてタレでいただく。

 これはこれで美味い。


「脂のインパクトが強いのに上品な甘味がありますね」

「これ今のところ一番評価の高い食べ方は、炙り焼きして特製の塩かけるってやつなんだ。でもマリボイラさんの言う通り脂の質がいいから、タレでもおいしいよね。こっちの世界もタレの研究を進めなければならん」

「ユーちゃんは熱心ねえ」


 まーあたしも朝御飯食べてきたところだから、いかにお肉は別腹という格言があってもちょこっとだけだ。

 ちょこっとってげんこつ五つ分くらいのことだが。

 ハハッ、何だかんだでたくさん食べちゃったわ。


 今日はお肉より大事なことがある。

 あれっ? お肉より大事な用件ってメッチャ重要ってことじゃないか。

 身が引き締まってしまうわ。

 ミッション開始。


「で、マリボイラさんはあたしに何の用だったかな?」

「まずは『アトラスの冒険者』としてのユーラシアさんの輝かしい活動に対して、アガルタの民を代表して感謝を申し上げます」

「うん、ありがとう」

「同時に『アトラスの冒険者』廃止で多大な迷惑をおかけすることをお詫びいたします」

「問題はそこな?」


 突っ込んだ話ができるようになるためには、若干のストレスも必要だ。

 少々斬り込んでおくべし。


「一〇〇年以上も続いてる組織だから、こっちの世界に結構根付いてるじゃん? そっちの世界の都合でいきなりなくなると、どえらい迷惑なんだよ。具体的に言うと治安の維持にすごく影響しちゃう」


 驚く副評議長とバエちゃん。


「は、廃止については前もって……」

「一ヶ月前発表で許されると思った?」


 ここでキメ顔。

 ガクブルの副評議長。

 ま、こんなところでいいだろ。

 副評議長は『アトラスの冒険者』と直接関係ないんだから。


「とはいえ『アトラスの冒険者』の廃止が致し方ないことは、シスター・エンジェルからも聞いてる。延長しろの続けろのってゆームダなことは言わないから、一つ補償をしてもらいたい」

「何でしょう?」


 大したことじゃないよ。

『アトラスの冒険者』を廃止するしないは向こう次第だから向こうが有利?

違うわ、こういう交渉はあたしの得意分野だわ。

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