第2156話:暇だから
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
結局午後はどこへ行こうか決めかねて皇宮に来てしまった。
サボリ土魔法使い近衛兵が聞いてくる。
「今日はどうしたんだい?」
「それがねえ。今ドーラ雨降ってるんだよね」
「ドーラにいても暇だから帝都に遊びに来たということか」
「うん。ちょっぴりおセンチな乙女心」
「どの辺がおセンチなのかさっぱりわからないけど、ワールドワイドな行動力だなあとは思う」
あたしを知るにつれ胡散臭げな目を向けてくるやつが多い中、サボリ君はいつまでもあたしに対して肯定的だよなあ。
ニライちゃんの攻撃に対する盾にしたりしてるのに。
崇拝者とはこういうものか。
サボリ君にはいつかサービスしてやりたい。
「今日ルーネは剣術道場だし、こっち来る予定なかったんだけど、何となく来ちゃった」
施政館に用がないこともなかったから。
「ライナー様とニライカナイ様が詰め所に来ているよ」
「え、何で?」
チラッとニライちゃんのことを考えたらこれだよ。
最近無造作に立てたフラグまで回収しちゃうわ。
「ちょっと要領を得ないんだが、要するに……」
「暇だから来た?」
「おそらくは」
「あたしと同じ理由じゃないか。いい若い者が何やってるんだ」
「君だっていい若い者じゃないか」
「それはそれとして」
「それとするぬ!」
アハハ、ヴィル面白い。
「三勤一休のパターンからして、今日がライナー君の休みの日ってことはわかる。午前中ニライちゃんが剣術道場だから、お供してたんだろうなーとも想像できる。わかんないのは午後だ。聖女キャロかドジっ娘女騎士メリッサとデートするとゆーのが筋じゃないかな」
「君は今日はどうしてたんだい?」
「午前中に放熱海より南のシンカン帝国で神聖視されてる洞窟であったトラブルを解決したでしょ? ヴォルヴァヘイム近くに植える予定の聖風樹の苗を作ったでしょ? モイワチャッカのガルーダの雛にエサをやりに行ったでしょ? 昼は海の王国の女王とこの世界を統括する女神様を伴って会食だよ。あれ、言葉にすると結構働いてる気がするな? さすがあたし」
感心してるサボリ君。
「シンカン帝国なんて名前でしか聞いたことないよ」
「『シンカン』ってのはライオンっていう肉食獣のことだそーな。ライオンがシンボルになってる国でさ。洞窟が神聖視されてるのも、ライオンの魔物が生息してるからっぽい」
「ほう?」
「あたしもまだライオンの洞窟と集落のことしか知らないんだよね。でも放熱海を越えた向こう側となると、航路どころか探検隊すらそうは行ったことない遠国じゃん? 色々アプローチの仕方がありそうで、先が長いなーって感じだよ」
サボリ君もルーネと似て、冒険者に憧れてる気配があるんだよな。
普通の専業冒険者は、あたしみたいにあちこち行ったりしないからね?
「マイケ嬢の絵は? ルーネ様は意外なことになったと言っていたが」
「おっぱいピンクブロンドったら地元では凛々しい令嬢っていう評価なんだよ」
「凛々しい?」
「帝都人にはちょっと出ない評価でしょ? パンツルックでウマ乗り回してんの。ハイヨー、シルバー!」
「……イメージできないな」
「まあねえ。でもあっちのおっぱいピンクブロンドが地だな。帝都での澄ました上乳プルンキャラは、ムリして作ってるんだと思う」
ムリでもないのかな?
ちょっとわからないが。
「絵はどうなったんだい?」
「乗馬服でウマとツーショットなんだよね。あたしも完全に予想外」
「ええ? 期待外れだろ!」
「乗馬服って聞いちゃうと、期待外れって言いたくなっちゃうのは理解できる。でもイシュトバーンさんの絵だぞ? えっちなのは間違いないんだ。この爽やかなセクシーギャルがおっぱいピンクブロンドなの? という、驚きを感じていただける仕上がりになっております。乞う御期待」
仕上がりはまだ見てないから知らんけど。
さて、近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア!」
ニライちゃんが飛びついてきました。
ついでにヴィルも。
この二人ちょうど背の高さ同じくらいだな。
よしよし、可愛いね。
「ユーラシアはかならずくるとしんじていたぞなもし!」
「今日来たのは偶然だぞ? 信じられても困っちゃうんだけど?」
「つまらないときはユーラシアにあそんでもらうほうそくぞなもし! ドーラにつれていってもらいたいぞなもし!」
「法則化するほどの信頼感。でもごめんよ。今日ドーラ雨なんだよ。だからあたしも向こうでやれることなくて帝都に来たの」
「そうだったのか……」
ニライちゃんガッカリしてるがな。
とゆーか行くとこなくて近衛兵詰め所来るってどんなだ。
ライナー君が任されたなら、ちゃんとニライちゃんを遊んでやらなきゃダメだろーが。
え? キャロのとこ行こうと思ったけど、最近ユーラシア教会に敬遠されてるから行きづらい?
ユーラシア繋がりであたしんとこ来た?
どんな理屈だ。
ライナー君が言う。
「ユーラシア君は、特に用があって帝都へ来たわけじゃないんだね?」
「用がないわけではないんだ。今から施政館行くつもりなの。つまんないくだらないどーでもいいいつでも構わない報告ではあるけど、時間余っちゃったから」
実は時間が余ってるわけではない。
ライオンの洞窟の探索を続けてもよかった。
でも変化がないので飽きちゃったのだ。
一日二回も行くところじゃない。
手に入る魔宝玉紅葉珠を売らない方がいいみたいという事情も、探索欲を減退させる。
当面の問題はニライちゃんだな。
せっかくあたしに期待して来てくれたとゆーのに、楽しい思いをさせられないまま帰しちゃ可哀そうだ。
「ニライちゃん、施政館は行ったことあるんだっけ?」
「ないぞなもし」
「あたし今から行くんだ。ニライちゃんも一緒に行かない? 皇帝陛下に挨拶しとこうよ」
「行くぞなもし!」
慌てるライナー君。
「ニライカナイはデビューどころか、マナー教育もまだまだなんだ! 陛下に会わせるなんて……」
「プリンスルキウス陛下がマナーなんて気にするわけないだろ。でなきゃあたしと付き合ってるわけない」
「……ユーラシア君が大丈夫ならいいか」
納得の仕方に納得がいかないけれども。
とりあえずゴー。
ニライちゃんも構い甲斐のある子。
たくさん遊んでやりたいね。