第2152話:トラブルは向こうからやって来る
「ふーん? ここが小の試練の洞窟か」
見渡しても今までと大して変わらんよーな。
ただほとんど人が訪れていないのは確からしい。
荒れていて歩きづらそうだし、素材も落ちている。
回収回収っと。
「クララ、こっちにもゲートがあるけど、これ双方向なのかな? 使うと転移の間に戻れる?」
「ええと、転送の術式であることは間違いないですね。行先はちょっとわかりませんけど、仕様からして戻る可能性が高いと思います」
「上に立ってみたらアナウンスがあるんじゃないでやすか?」
「そーかも」
ゲートに立ってみる。
同じように魔力が高まり……。
『転移の間へ転移するか? 否か応で応えよ』
「否」
うん、問題は解決した。
長老達が戻る際はこのゲートから転移の間へ、さらに脱出ゲートを使用したのに間違いなさそう。
「スッキリしたから帰りたくなってしまった」
「「「えっ?」」」
「まだ何もしてないぬよ?」
冗談だとゆーのに。
あんまり面白みのないダンジョンだから、エンタメ風味を追加しようと思っただけ。
「いつもの通り、素材を回収しながら進もうか。ほとんど人の入った形跡がないから、注意しながら行きまーす。何か気付くことあったら教えてね」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
てくてく。
やっぱり一本道だ。
あまり面白みがないなあ。
「ボス、ライオンね」
「またライオンか。今度のやつは白いね」
主様ほどではないが、単体で並みのプライベートライオンくらいの強さがある。
それが三体の群れをなしているので、ようやく転移の間に辿り着けたくらいのパーティーには脅威だろうな。
「ま、どうせ言うこと聞かないんだろ。ふつーに倒そうか」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
レッツファイッ!
ダンテの豊穣祈念! 白いライオン達の噛みつき攻撃×三! 全てアトムが受ける。あたしの雑魚は往ね!
「よーし、ウィーウィン! リフレッシュ! アトム大丈夫?」
「どうってことないでやすぜ」
「紅葉珠をドロップしましたよ」
「本当だ。儲かったな。いくらで売れるか知らんけど」
『全知全能』で調べたところによると、紅葉珠は洞窟ライオン諸種のレアドロップアイテムとのことだった。
ただこの辺にはライオンを狩って生計を立てている人はいないようだ。
だったら紅葉珠は案外高く売れるかもしれないな。
「もうちょっと先進んでみようか」
一時間くらい歩き回ったが、白いライオンしか出やしない。
つまらん。
ある程度素材は拾えたからいいとはいうものの、特に変わった素材はないしなあ。
「でも白いライオンが紅葉珠をドロップする確率は高いようですぜ」
「そうみたいだね」
今日は三つの紅葉珠を手に入れた。
以前手に入れたのと合わせると五つだ。
「飽きた。脱出しよう」
「もうですか?」
「景色も魔物も変わり映えしないからなー。あたしのような世にも稀なる美少女の貴重な時間を、モグラみたいな行動に費やしていいのかと疑問に思ったよ」
「スーパーアイテムをゲットできるかもしれないね」
「うん。ダンテの言う通りではあるんだけどさ。紅葉珠がどれくらいで売れるのかを知りたいんだよね。シンカン帝国のおゼゼを持ってないから」
頷くうちの子達。
「ヴィル、この場所覚えといてね。それから入口広場に飛んで、ビーコン置いてくれる?」
「わかったぬ!」
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ヴィルをぎゅっとしてやってたらウタマロ一味が駆けつけてきた。
「ユーラシア!」
「どうしたの? そんなに慌てて。さては愛しいあたしが来たから居ても立ってもいられなくなっちゃった? ごめんなさい」
「何のごめんなさいだ! そうでなくて!」
アハハ。
慌ててる人を見るとついからかいたくなる乙女心だよ。
ユー様趣味悪いですよって顔をクララがしてるが、こればっかりはやめられない。
メッチャ焦ってるウタマロが言う。
「縁談が押し寄せているんだ!」
「立派なライオンを持ってくれば将来有望、縁談ポコポコ。最初からわかってたことでしょ? 何で今頃騒いでるのよ?」
成人の儀で大きなプライベートライオン主様の全身を持ち帰ったウタマロは、将来この集落の最高実力者になるんだろう。
縁談押し寄せるなんて決まってる。
「縁談って嫁としてもらうか断るかの二択じゃないの? シンカン帝国では別の選択肢があるってこと?」
「というわけではないが」
「じゃあ困ることないじゃん」
「主様を持ち帰ったことがすげえ話題になってるんですぜ! 郡の長官から皇帝陛下にも通達が行ったとのことで」
「えっ?」
ライオンの体の一部を持ってくる成人の儀式って、ローカルな風習なんじゃないの?
何で皇帝陛下に通達が行くなんてことになるのよ?
ウタマロの家来が口々に言う。
「姐さんは外国人だから知らねえかもしれねえが、獅子は皇帝家のシンボルなんですぜ」
「シンカン帝国の『シンカン』というのは、獅子の雅な言い方なんだ」
「数々の洞窟ライオンが生息している獅子の洞窟は神聖視されていて、その番人たる俺達は『獅子の民』と呼ばれているんだぜ」
「ええ? 後付け設定がどんどん出てくるがな。混乱するから勘弁して欲しい」
「「「「「後付け設定じゃない!」」」」」
先付け設定だったか。
『獅子の民』の成人の儀はローカルな風習ではあるけど、他所の人達にも注目はされてるってことなんだな?
「ここがシンカン帝国で信仰上の重要な場所だってことは理解した。でもウタマロに縁談が押し寄せて困ってることとの関連がわかんないんだけど? それとも縁談ってのは単なる自慢で困ってないの?」
「困ってるんだ!」
「ウタマロさんには国の高貴な方が降嫁されるかもという噂なんで」
「ははあ?」
今後の展開を考えりゃ、可能な限り身分の高いところから嫁もらった方がよさそう。
とすると噂の信憑性はともかく、ウタマロの方からはちょっと動きにくいな。
しかし有望株であるウタマロを逃すまいと、強引に娘を押しつけてくるやつがいる?
それがこの前の成人の儀でウタマロに散々文句付けてきたボンボン父?
「変わり身の早さがすげえ」
「ユーラシアは拙の後見人のようなものだ。ユーラシアの居ないところでは決められないと突っぱねていたんだ」
「わかった。ボンボン父に会おうじゃないか」
トラブルは向こうからやって来るなあ。
トラブルは向こうからやって来る、ってのはあたしの名言かしらん?
既に誰かが言ってる?




