第2142話:いい音が出そーな子を優先
「御主人!」
「ユーラシアさん!」
「おおう?」
ヴィルとルーネが飛びついてきた。
いつもの光景だと思うだろうが、ちょっと違う。
アンヘルモーセンへのお返事の手紙をもらいに施政館の皇帝執務室に飛んだら、ルーネがいたのだ。
何故ルーネが施政館に?
用はないでしょ?
ルーネが得意げに言う。
「今日ユーラシアさんは返信を届けに行くだけでしょう? 皇宮には寄らず、直接施政館に転移すると予想したのです」
「やるなルーネ。完全に読まれてたよ」
「私も連れていってもらえますか?」
「もちろん構わないよ」
ルーネ喜んでるけど、今日は特に面白いことないと思うぞ?
プリンスルキウス陛下からヒジノ枢機卿宛ての手紙を渡される。
「よろしく頼む」
「任せて。ヴィル、ガリアの王宮行ってくれる?」
「了解だぬ!」
面倒だから、ガリアの王宮にも直接寄って手紙もらってこ。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子! あんた達も遠慮せず来なさい」
「そ、そう?」
ガリアでも手紙を受け取って、アンヘルモーセンへやって来た。
四人の天使とルーネも合わせてぎゅーする。
ハハッ、皆満足なようだな。
可愛いやつらめ。
「当然みたいにアズラエルもいるのな?」
「ユーラシアが来るからなのです」
「予知ってすげー便利だな。身近なことに使った方がいいんじゃないの?」
「私もそう思うのです」
「ま、いいや。行こうか」
てくてくぞろぞろ、聖務局へゴー。
飄々とした様子を装っているが、アズラエルのテンションが一番高いな。
外に出られるようになったから嬉しいんだろう。
「三〇日の通貨単位統一の会議に、帝国とガリアの外務大臣を連れてくるじゃん?」
「知ってるわよ」
「いや、知ってるか知らないかを問うたわけじゃないんだ。シャムハザイ港の再開発地は目立たなくていいんだけどさ。大臣さん達連れてくる時、聖務局まで歩かせるのはちょっとなー。転移場所としてもっといいところないかな?」
「聖務局に直接転移してくればよいのではなくて?」
「私も聖務局がいいと思うです」
「聖務局って天崇教関係ないの? ヴィルが転移でお邪魔していい?」
「今更でしょう?」
「肩車して入るのがよくて、転移がダメということこそ意味がわからないであります」
呆れられた。
あたしだって気を使ってるのに。
まあアズラエルの言う通りなんだろう。
あたしもダメだとは思ってなかったが、天使の言質が欲しかっただけ。
「聞きたかったんだけど、天使ってシャムハザイの町でもあんまり会うもんじゃないんだ?」
「私やバラキエルは比較的外出しますよ。けれどもシャムハザイといってもかなり広いですしね」
「会おうと思って会えるものではないであります」
「やっぱレアはレアなのか」
道行く人々にチラチラ見られてるけれども、メッチャレアってわけではないんだな。
目にしたらラッキーくらいのものかな?
段々天使に対する理解が深まる。
「ユーラシアの方が珍しがられていると思うですよ」
「世にも稀な美少女だから?」
「違うです。高位聖職者でもないのに、私達天使と喋りながら歩いているからです」
「そーだったかー」
あっ、酒屋さんがある。
お土産買っていこうかな。
「アンヘルモーセンっておいしいお酒ある?」
「アンヘルモーセンは酒処ではないわ。でもテテュス内海中から集まりますのよ」
「隣国のダイオネアとラージャは農業国なので、風味豊かな酒が入るです」
「なるほど、ダイオネアかラージャのお酒がよさそーだな。買っていこう。お父ちゃん閣下ってお酒飲む人?」
「好きですよ。量は飲まないですけれども」
「お土産に買ってってやろうか。あっ、しまった。ギルの手持ちがないんだった」
どーすべ?
ゴールドを両替するのも魔宝玉を放出するのも癪だな。
ならば……。
「ハリエルネリエルピュリエル、ちょっと手伝ってくれる?」
「何なの?」
「小遣い稼ぎだよ。助演女優役やって」
「何だかわからないけどいいわよ?」
よし、許可取った。
ルーネとアズラエルがワクワクしている。
「さあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 天下にその名を鳴り響かせる大道芸人ウルトラチャーミングスがやってきましたよ!」
何だ何だと集まる人々。
天使効果もあってかなりの人数だ。
「これなる天使ハリエルネリエルピュリエルが宙を舞います! それっ!」
ほいほいと三人を放り投げる。
ハハッ、人間お手玉ならぬ天使お手玉だ。
「ひやああああああ!」
「ええええええええ?」
「わわわあああああ!」
「普段聞けない天使の悲鳴。三人三色で粋だねえ」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
やんややんやの大喝采だ。
お手玉芸はどこでもウケるなあ。
三人を地に降ろす。
「お粗末でした」
「い、いきなり何をするのっ!」
「文句はあとだ。ここで格好いいポーズ!」
「何故なら私達は天使だから!」
決まった。
何なんだろうな、この天使のポーズは。
ヴィルが投げ銭を拾い集めてるけど、誰も何も言わない。
悪魔とわからないのか、天使が一緒だからか。
「おいおい、どーなってんだ? 思ったより大金になったぞ?」
「今のは何なのっ!」
「あたしの身分を証明する芸であり、パワーの発露であり、おゼゼを得る手段だよ。経済活動は重要なのだ」
「私も助演したかったであります」
「ごめんよ、四人はお手玉したことなくてさ。ついいい音が出そーな子を優先してしまった」
「いい音って……」
「狙い通り大反響でした」
ハハッ、怒るなとゆーのに。
今のは笑うところだ。
「ところで天使はものを食べたりするのかな?」
「……食べたいのですけれども」
「けれども何? ちょっとわからない逆接だぞ? 普段は何食べてるの?」
「私達は崇拝の感情を得てさえいれば、何も食べなくていいでしょう? だからいつもは実食する機会がないのです」
「マジかよ。可哀そーだな。屋台が一杯出てるじゃん。何か食べていこうよ」
「い、いいの?」
「今稼いだところじゃないか。助演女優が遠慮すんな」
こんなことで喜ぶ天使達。
美味いものを食べられないのは不幸だからな。
あれ、ルーネも喜んでるな?
まー投げ銭たくさんもらったのは半分天使達へのお布施だと思うし、還元しておかないといけない。
いい匂いのする方へと。
ルーネの洞察力は優れているなあ。
マジで大したもん。