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第2131話:予知の天使とぎゅー

 その子は穏やかな笑みを浮かべ、淡々というか飄々というか、何でもないように歩み寄ってきた。

 眠そうでおまけにいたずらっぽい目が個性的な、ウェービーな白髪を持つ天使だ。


「あ、あなたどうして……」

「あんたが予知の天使アズラエルかな?」

「そうであります」

「ようやく登場か。会いたかったぞ」

「私もであります」


 握手。

 白髪の天使はモブ感があって名前を覚えにくいのだけど、アズラエルは疑いようのない存在感のある子だ。

 こういう子が予知の天使でよかった。

 安心するわ。

 ん? どーした。

 何か不満?


「私もハグしてもらいたいであります」

「何なんだ、この甘えんぼめ」


 皆でぎゅー。

 うっとりするアズラエル。


「はあ。堪能いたしました」

「よかったね」

「アズラエル! あなた何しに来たの! 言うことがあるでしょう!」


 ハリエルは何を怒ってるんだろうな?

 首をかしげるアズラエル。


「……そういえば、私の髪はボリューミーなんでありますよ」

「見ればわかるけれども。湿気が多いと爆発しちゃうタイプ?」

「爆発しちゃうであります」

「あたしも似たような傾向あるな。クセっ毛持ちの悩みだねえ」

「そうじゃなくて!」


 天使もまた実体を持たないから、湿気が多いと髪の毛爆発しちゃうなんてことはないはず。

 ここはアハハと笑うところなのに。

 ハリエルったらお約束を破壊するのは困るなー。


「あなた出歩いてはいけないことになってるでしょう!」

「はい」

「何でなの?」


 想像はできるけど聞いておく。


「口はばったいことながら、このアンヘルモーセンという国は私の未来予知によって発展した経緯がありまして。私の身に何かあると国の将来に関わる。大変だってことなのでありますよ」

「ふーん、大事な子扱いされるのも大変だな。でも天使ってまあまあ強いじゃん?」

「悪魔に襲われることだってあり得ます!」

「悪魔は天使と違って、理由がない限りむやみとケンカ売ったりしないぞ?」

「しないぬよ?」

「『魔を統べる者』ユーラシアみたいなのもいます!」

「おいこら、あたしを聞く耳持たない暴漢みたいにゆーな。言っちゃなんだけど、あたしほど理性的で知性的な美少女はなかなかいないぞ? 『魔を統べる者』とゆー二つ名は格好いいから受け入れるけれども」

「天使キラーですのよ!」

「絡んでくるからだわ。でなきゃ得にならない争いごとはしないわ」


 ルーネが言う。


「未来を予知できるなら、自分の危険もわかるのではありませんか?」

「自分についてはわからないらしいのよ」

「なるほど。アズラエルの未来予知にはそーゆー制限があるのか。因果なもんだねえ」

「しかし私は、未来をどんどん改変していくユーラシアという存在に会ってみたいと思ったのであります」

「未来を……」

「改変する?」


 ルーネもビバちゃんもハリエル達もポカンとしとるわ。

 アズラエル以外はわかってないらしい。


「未来って決まってるもんじゃないんだよ。もし完全に決まってるんだったら、何したってビバちゃんは首ちょんぱから逃れようがないじゃん?」

「そ、そうね」


 だからビビんなくたっていいとゆーのに。

 アズラエルが悟ったように語る。


「本来カル帝国は、対魔王戦争に突入して没落する運命でありました。ところがユーラシアが運命の歯車を変えてしまった。もう当面カル帝国の勢力が下り坂になる未来がないのであります」

「三ヶ月ちょっと前に、帝国のソロモコ遠征ってのがあったでしょ? ソロモコは魔王バビロンが大事にしてる島なんだ。もしソロモコを帝国艦隊が占領してたら、魔王が怒っちゃって対魔王戦争に突入。帝国の領土は現在の帝国本土の三分の一くらいに縮小して、小国に転落してたらしいよ」

「ユーラシアはよく知ってるでありますね」


 苦笑するアズラエル。

 あたしは予知できるわけじゃないけど、フットワークで情報を集めるからね。

 おまけに運がいいし。


「帝国が零落れるなら、ガリアと衝突してでもサラセニアを影響下に置くべきだった。テテュス内海におけるアンヘルモーセンの地位を高めておくことがベストと考えたであります」

「ははあ。えらいもっともな見通しがあったんだな。だから大公の逝去に便乗してサラセニアに勢力を広げようとしてたのか」


 まともな戦略眼だ。

 アズラエルはただ予知できるだけじゃない。


「ところが帝国が磐石とあらば、二正面作戦は愚策です。正直ハリエルがサラセニアで引いてくれて助かりましたです」

「えっ? ええ、まあ。おほほほ!」


 ニコッと笑うアズラエル。


「ユーラシアの描く未来は、世界全体が明るくなるものと気付いたであります。だからこそ一度会ってみたかった」


 おそらくアズラエルは、昔の都市国家シャムハザイで未来予知を武器に住民に発展を約束し、代わりに天崇教を通して崇拝の感情を得るシステムを完成させた。

 ところがアンヘルモーセン首脳や他の天使達がそのシステムを失うことを恐れ、キーになる未来予知能力者アズラエルを厳重に保護・監視することにしたのだろう。

 アズラエルも自分の未来は読めないが故に、身動きが取れなくなることは予想できなかったに違いない。


「永遠に続くものなんかありゃしないのにねえ」

「まったくであります」


 アズラエルと二人して笑う。

 他の子達には通じてないみたいだけどいいのだ。


「さて、ヒジノさんとこ行くか。その前に、アズラエル。ビバちゃんのことどう思う? フェルペダの第一王女で、順当に行くと次の女王なんだけどさ」

「順当に行くと、悲惨な運命が待ち受けているでありますね」

「全然順当じゃないっ!」

「順当じゃないぬ!」


 皆で大笑い。


「大体どれくらいの確率で悲惨な運命なの? 今のままだと」

「八割といったところでありますね」

「は、八割首ちょんぱなのっ?」

「へー、大したもんだ。一〇日くらい前、初めてビバちゃんに会った時は一〇〇%アンハッピーエンドだったぞ? もう二〇%も盛り返したじゃないか」

「えっ?」

「あなたの未来は激動中でありますよ。何も定まっていないであります」

「やっぱ旦那さんが一番のポイントになる?」

「で、ありますねえ」


 アズラエルはほこら森の村のマーシャより、受動的なもの言いをするなあ。

 未来を客観視する能力なのかもしれない。


「じゃ、ヒジノさんとこ行こうか」

国の方針って厄介だな。

ソロモコが決着して運命が変わったからって、すぐにサラセニアでどうするかの方針を変えるわけにはいかなかったんだろう。

タイムラグが出るってのもアズラエルの予知の弱点かも知れない。

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― 新着の感想 ―
まだ外乱の無い限りチョンパ率が高いのか 初期から比較するとだいぶ改善したような気がするけど初期のチョンパ率が200%以上だったのかな チョンパされて来世もチョンパでも足りないとかそのレベル
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