第2110話:コントロールできる
「で、本題の方だけど」
「メインイベントの方だね?」
「深刻な問題の方だぬ!」
あれ? ヴィルどうした。
それは冗談になってないんだけど。
ビバちゃんがマルーさんに言う。
「わ、私の『アイドル』の話ね? ぶるぶる」
「王女様の固有能力『アイドル』は、発現の程度が強い。おまけに歪だねい」
「歪?」
「本来低レベル者の『アイドル』の効果なんて、ちょっと他人に好かれるくらいのものさ。王女様の『アイドル』は、魅了度合いが強いのに全然制御できていない」
『アイドル』は無差別魅了の能力って聞いてたけど、やっぱ低レベル者なら大したことない効果なんじゃないか。
発現の程度が普通だったら愛される王女だったろうに。
まったく因果なものだ。
「ビバちゃん一八歳なんだけどさ。先生も魅了でポワーンとなっちゃうじゃん? 今まで教育方面を躾けることができなくて、放っておかれちゃってるんだよ。どー考えてもろくなことにならんから、相談しに来たの」
「これって当人の感情の起伏によって手がつけられなくなるだろう?」
「なる。この前なんか結構広い会議室で、一部の人除いてほぼ目がとろーんとしてたな。レベル三〇のルーネが必死になって、ようやくレジストできるくらい」
「よくないねい」
ただビバちゃんは元々我が儘な性格で不機嫌なことが多かったから、アンタッチャブルになっちゃったって面はあるんだろうな。
半分は自業自得。
ビバちゃんを見つめるマルーさん。
「不審死コース一直線だよ」
「だよねえ。実によくわかるわ。放っといたらほぼ確実に首ちょんぱ」
「ひえっ!」
悲鳴を上げて変な踊りを披露するビバちゃん。
見てて不安になるなあ。
マルーさんが声をかける。
「王女様はツイてるよ」
「私が……ツイてる?」
「ああ。周りに害を及ぼす固有能力持ちなんて、普通は忌み子として赤ん坊の内に葬られちまうものなんだ。今まで命があるのは王族に生まれたからだよ」
「……」
声も出ないビバちゃん。
メッチャシビアだけどマルーさんの言うことが本当なんだろうな。
「そしてこの子、精霊使いユーラシアと知り合ったことだ。王女様は最高の運を掴んだ」
「そ、そうなの?」
「ああ」
「じゃ、ビバちゃんの『アイドル』はどうにかなる?」
「なるねい。効力を周りに及ぼすタイプの固有能力は、レベルさえ上がれば自分の意思で抑えることができるようになるからねい」
「コントロールできるようになるのか。下手にレベル上げると効果だけ強くなって、ますます手のつけようがなくなることもあるかと躊躇してたんだよ」
「レベル一〇もあれば十分用は足りるねい」
「ばっちゃん、ありがとう! 相談しに来てよかった。これお礼ね」
透輝玉を二個渡す。
ビバちゃんがおずおずと発言する。
「あの、レベルが上がればいいというのがわかっても仕方がないのでは? レベルを上げるのは、かなりの年月厳しい訓練を受けなければいけないのでしょう?」
「そこがアンタのツイてるところだねい。この子は世界一のレベル上げの名人なんだよ」
「得意技だから任せろ。ついでにネポスちゃんのレベルも上げよう。土魔法の一つや二つは使えるようになるからね」
「やったぞ!」
「で、でもどうやって? 厳しい訓練なんて私にはムリよ?」
「ビバちゃんが厳しい訓練に耐えられるなんて考えるほど、あたしは愚かじゃないとゆーのに。魔物退治だよ」
「ひえっ!」
愉快な生き物だなあ。
ルーネが説明する。
「ユーラシアさんの魔物退治についていくだけでいいんですよ。同行者にも経験値が入ってレベルが上がるんです。私も同じようにしてレベルを上げてもらいました」
「ほ、本当に?」
「本当だとゆーのに。向こうに攻撃ターン回んないから大丈夫だぞ? 大人しくついてきてくれりゃいい」
「ぼくも戦う!」
「え? ルーネ、ちょっとネポスちゃんの相手してやってくれる?」
「はい、わかりました」
「ネポスちゃん、いいかな? ルーネがネポスちゃんを持ち上げる前にネポスちゃんがルーネに触れたら勝ちっていう勝負だよ。はい、スタート!」
何べんやってもネポスちゃんはすぐ持ち上げられちゃうわけだが。
マルーさんとネポスちゃんの従者が楽しそうな顔をしている。
ビバちゃんはビックリしてるな。
「はあはあ……」
「はい、おしまーい。ネポスちゃんどうだった?」
「る、ルーネお姉ちゃんはすごい……」
「でしょ? ルーネは並みの騎士では敵わないくらいの実力はあるよ。でも今から戦いにいく魔物は、そんなルーネでも勝てないくらい強いんだ。ネポスちゃんが戦おうと思ってはいけません。わかったかな?」
「わ、わかった」
「これ守れないと死ぬから注意ね」
ビバちゃんが恐れをなしているよーだ。
「あ、あなたは首ちょんぱとか死ぬとか簡単に言うけど……」
「単なる事実だぞ? あたしは冗談は嫌いだ」
「大好きぬよ?」
アハハ、わかっていてもこのやり取りをしてしまう。
「取得経験値が多い魔物は結構強いんだよね」
「強い魔物と戦うのは危ないのではなくて?」
「危なくはないんだ。よく知ってるフィールドでよく知ってる魔物と戦うのは、全然どうってことないな。弱い魔物のエリアでも知らないところだと、却って安全を保証できない」
「そ、そういうものなのね?」
そーゆーものです。
強い魔物は経験値高いから、戦闘回数自体を少なくできるしな。
「さて、行こうか……あれ? 効力を周りに及ぼすタイプの固有能力を自分の意思でコントロールできるってことは、あたしの『精霊使い』や『魔魅』も?」
「もちろんできるねい」
「知らんかった」
マルーさんが『魔魅』? って顔してるけど、『強奪』と入れ替わってることに気付いたろ。
「支配系の固有能力を抑える必要性はあまりないから、気付かなかっただけじゃないかい?」
「そーかも。ちょっとやってみよ」
『魔魅』の出力を絞るイメージで……本当だ。
簡単だな。
「……変だぬ。御主人が薄くなるぬ。悲しいぬ!」
「ごめんよ、ヴィル。ぎゅっとしてやろうね」
よしよし、いい子だね。
うん、私はコントロールする必要ないな。
周りの皆があたしの虜になってりゃいいのだ。
「ばっちゃんありがと。またねー」
「バイバイぬ!」
新しい転移の玉を起動して、一旦帰宅する。
さて、魔境へ。
いつものやつだ。
『御主人が薄くなるぬ。悲しいぬ!』というヴィルのセリフ。
髪の毛の話だったりすると別の面白さがあるなあと思いました(笑)。