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第211話:割とある

 フイィィーンシュパパパッ。

 自由開拓民集落バボと名前は変わっても、転送先は昨日と全く同じところだ。

 村人が気付く。


「あっ、昨日の……」

「おっはよー。有名な精霊使いユーラシアだよ」


 ビビんなくていいよ。

 あたしは無分別じゃないから。

 ……何となくクララの視線を感じるが気のせいだ。

 無分別じゃないったら無分別じゃないのだ。


「よお、ユーラシア!」

「待たせちゃった? ごめんね」


 既にリリーと黒服が井戸口の前でスタンバイしていた。

 何故か村人達も大勢集まっているが?

 村長らしき人が口を開く。


「……昨日は本当にすまんことで」

「この二人が気にしてないならいいって。この村にも事情があることはわかるから」


 明らかにホッとする村人一同。

 どうやらあたしが掃討戦で活躍した美少女精霊使いだってことが、村人全員に伝わっているらしいな。

 従順で何より。

 ネームバリューって大事だ。


「今日の遺跡探索で何かいいものが見つかったら、この村の財産になるよ。応援しててね」

「はい」

「じゃ、行ってくる!」


 クララの『フライ』で井戸口から中へ。

 やはり昨日の物理攻撃を無効にするおかしな力場は消えているようだ。

 これなら問題はない。

 雑魚を片付けつつ、トロルの広間に向かえばいい。


「昨日も思ったが、実に見事な飛行魔法だな」

「あたしも思ったな。最近クララはよく練習してるんだよね」


 一人で飛ぶのはともかく、集団で飛んで一人ずつ穴から脱出させるなんて相当コントロールが難しいんじゃないの?

 アワアワしてるクララが可愛い。


「ごめんね。精霊はあんまり喋んないんだ」

「うむ、知っておる。気にするな」


 リリーは結構精霊についての知識があるようだ。

 皇族って精霊のことまで勉強するもんなのかな?


「リリー、何であんた地下へ落とされたの?」

「いや、村人が魔物がおるから注意せよと言うものだから、興味があってな。覗き込んでいたらバランスを崩した」

「自分で落ちたんかい!」


 衝撃の新事実発覚だ。

 いや、結局は落ちたか落とされたかの違いにしかならなかったかもしれないけど。


「……ユーラシア様、よろしかったのですか? 村人を連れてこなくて」


 黒服が問うてくる。

 人質がいないと入り口を塞がれるかもしれない、という意味だろう。

 まだ村人を信用していないようだ。


「いいんだよ。あんた達と踏み込んだ話をしたかったし。出口は多分、他にもあるよ」

「うむ、空気が淀んでおらんからな」


 あ、気付いてたか。

 だから中を歩き回ってたんだろうな。

 魔物は出るけれどもザコだ。

 『薙ぎ払い』を撃ちながら進む。


「で、リリーは何しにドーラへ来たの?」

「武者修行だぞ! ドーラは魔物が多いと聞いたのでな」

「多いけれども、武者修行って。何で皇女の身分がそんなに軽いの?」


 黒服が説明する。


「カル帝国での皇位継承順位は、全ての男子のあとに女子の順となります。今上陛下の御息女ではありますが、リリアルカシアロクサーヌ皇女殿下の皇位継承権は二七番目と、ほぼ話題になることはありません。しかし殿下はその気さくな人柄で庶民からは絶大な人気を誇っており、面白く思わない皇族も多いのです」

「で、新技術の試験を兼ねて、小舟で変なところから上陸したんだ?」


 リリーと黒服が驚く。


「どうして知っているのだ!」

「いや、海の一族に知られないで上陸する技術が帝国で発明されたってのは聞いてたの。で、皇女が供一人でこんなところに突然現れればピンとくるよ」

「「……」」


 レイノスから上陸したなら騒ぎになったに違いない。

 仮に武者修行が許されるにしたって、ドーラ総督なりオルムス副市長なりが何人も護衛をつけたはずだ。

 二人で突然西域に現れたのは、お忍びでこっそり入国したからだと推測した。

 当たってたみたいだな。


「警戒しないでいいよ。あたしは敵じゃないからどんどんぶっちゃけるよ。だからリリーもぶっちゃけて」


 といってもムリか。

 しょーがないなー。


「今、帝国とドーラの関係が悪化してて、貿易がすごく細ってる。戦争になるのは規定路線だよね。まあ艦隊がレイノスに攻め寄せるんだろうけど、砲撃だけじゃドーラは落とせっこない。だから何か秘密兵器があるんだろうなーって話にはなってるんだ。でもそれが何だかわかんないんだよね。教えてくれない?」

「たとえ知ってても教えるわけないだろうが!」


 海の一族の監視を抜ける小舟を使ったようだから、一応聞いてみただけだ。

 皇位継承順位の低い皇女やそのお供が、あの小舟以上の軍事上の機密であろう兵器を知ってるなんて思えないが。


「海の一族に知られない舟の技術を、軍艦みたいな大型船に適用できないのも知ってる。だから結局レイノスに艦隊派遣するしかないのもわかってるけど、昨日の魔法見たでしょ? あれ一発で艦隊は全滅なんだ。たとえ直撃しなくても津波が起きるから。でも津波でレイノスも大被害受けるし、あれ撃ち込むと今度は海の王国と揉めちゃいそうなんで、なるべく使いたくないんだよねえ」


 二の句を継げないリリー。

 黒服は黙って聞く気になったようだ。


「仮に何かの秘密兵器でレイノスを落とせたとしてもそれまでだよ。ドーラ全土なんて絶対に支配できやしない。そもそもドーラの完全支配が可能なら、レイノスに総督だけ派遣して御の字なんて統治体制にしないだろうに。戦乱が長引けばこっちも困るし、帝国だって内部の反乱因子や他の植民地が蠢動する余地を与えちゃうでしょ? メンツの問題で戦争はしなきゃいけないとしても、なるべく人死にを少なく短期間で終えたいんだよね」


 黒服が声を絞り出す。


「……ユーラシア様の御意見はおそらく正しい」

「セバスチャン!」


 黒服が晴れやかな表情になる。


「いや、恐れ入りました。私もぶっちゃけますと、お嬢様さえ無事ならそれでいい、帝国もドーラもどうでもいいのです」


 不承不承リリーも言う。


「……まあ、人死にが少ない方がいいというのは気に入った」


 どうやらリリーも黒服も、戦争については詳しい事情を知らなさそうだ。

 でなきゃさすがに皇女自ら戦場になりそーなとこ来るわけないしな。


「この話、ここまででいいかな? あたしシリアスな話すると、背中が痒くなっちゃうんだ」

「我も似たようなものだ。おお、同士よ」


 リリーとハグする。

 割とある。

どうやらリリーと黒服に裏はない。

しかし戦争の近いこの時期にドーラへ渡って来るなんてどん判だ?


いや、帝国での事情も切羽詰まっていて、混乱を見越して決行というのが正解か。

戦後だと皇族の渡海は不可能かもしれないから。

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― 新着の感想 ―
えっ 帝国的にいらない皇女ポイして戦争の言い掛かりつける理由にすふつもりだったのではなくて?
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