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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第21話:苔むした洞窟

 ――――――――――九日目。


 今日はクララと二人で海に来ている。

 風が強いこんな日は、有用なものが打ち上げられることが多いからだ。


「しめた! たくさん海藻がある!」


 海藻はドーラ人にとって一般的な食材ではない。

 でもうちでは母ちゃんが生きてた時から割と食べていた。

 汁物の具にいいし、洗って干しておくとかなり保存が利く便利食材だ。


 岩場の巻貝、あたしはさっと塩で茹でたのが好きだけど、汁物にもいい。

 陸に上がるとツルナやオカヒジキなどの食べられる野草が豊富だ。

 海は食材の宝庫だね。


 大量ゲットだ、大満足だ、さあ帰ろうか。


「ユー様、『地図の石板』の回収をお忘れですよ」

「つい食べ物の方に頭が行ってたわ」


 浜に戻って流れ着いていた石板を手に取ると、やはり地響きが。

 新たな転送魔法陣が設置されたのだろう。


「スライム牧場行きの魔法陣の隣にできたのかなあ?」

「うしさん……」


 いやクララ、もうウシ飼うのは諦めようよ。

 心持ち急ぎ足で帰宅する。

 転送魔法陣は?


「よーし、予想通り」


 チュートリアルルーム、スライム牧場の延長上等間隔の場所に、新しい魔法陣の淡い輝きが見える。

 今後もこういう具合に並んでいくみたいだな。

 ゲレゲレさん家で見たゾロゾロ並ぶ魔法陣を思い出して、ついニヤニヤしてしまう。


「クララは貝を浅茹でしておいて。あたしは海藻洗って干しとく」

「はい」


 すませておかなければいけない仕事を終え、上着とナップザックを持って転送魔法陣に立った。

 次のクエストにレッツゴーだ。

 フイィィーン、やや甲高い音とともに淡い輝きが増す。


『苔むした洞窟に転送いたします。よろしいですか?』

「『苔むした洞窟』か。ダンジョンっぽいね。魔物強かったらムリしない程度に戦おう。倒せるかどうか確認できりゃいいやくらいの気持ちで。逃げ道確保を最優先、アイテム採取をメインでいくよ」

「わかりました」


 苦戦しようが、一体でも魔物を倒せるようならこっちのもんだ。

 転移の玉を利用して、ヒットアンドアウェイを繰り返せばいい。

 毎日少しずつでも経験値を得られれば、冒険者としてやっていける。


「ところで、転送魔法陣さんはお話できるのかな?」

『ムリです。融通の利かないやつと言われてます』


 おいこら、受け答えできるじゃないか。

 ツッコみたい気持ちがウズウズするわ。

 でも変に機嫌損ねられても嫌だしな?


「転送、お願い」


 シュパパパッ。

 重力がなくなる感覚はどうも慣れないな。

 大地をしっかり踏みしめられるとほっとする。

 いかに足元がグスグスであっても。


 今回は小さな沼だか湿地だかの縁に転送された。

 周りは高木に囲まれていて、太陽の光もあまり差しこまず薄暗い。

 最悪なのが足元だ。

 頼りない水苔の上で、立っているだけで水がジワーッと湧く。


「森の中の一番低いところに、水が溜まってる感じだね。で、ダンジョンはあれか」


 鬱蒼とした森には不釣合いなほど人工的な存在感を示した、石造りの出入り口がある。


「ユー様、誰かいます。精霊です」

「話聞きたいけど、逃げちゃわないかなあ」


 所在なさげなのか当惑気味なのか、ぼうっとしてるように見える一人の精霊がいる。

 精霊関係のクエストがあれば、あたしのところに優先的に割り振られるはず、というバエちゃんの言葉を思い出す。

 これがそうか?


「おーい、そこの精霊さん、ちょっといいかな?」


 物々しい装備に身を包まないのは、敵意がないことを示すにはちょうどいいな。

 パワーカードの利点に一つ気がついた。


 精霊であるクララと一緒であることがわかったのだろう。

 逃げる様子も慌てる様子もない。

 歩み寄って、なるべくフレンドリーな感じに話しかけた。


「あそこの洞窟について、何か知ってることない? 教えて欲しいんだけどなー」


 バエちゃんを見習って、上目使いにクネクネしながらだがどうか?

 こらクララ、あたしは見世物じゃないぞ。


 緑色で羽のある精霊は、あたしをまじまじと見て言った。


「あなたは人間、しかも『精霊の友』! これこそ天の助けだ!」


 理由はよくわからんが喜ぶその精霊。

 嫌がられてるんじゃなければいいけれども。


「あたしはユーラシア、こっちはクララだよ。で、どうしたの? 何事?」

「はい、仲間が洞窟の中で、罠に引っかかってしまったんです。僕だけではどうにもならないし、ここはほとんど知られていない洞窟だし、すごく困ってて……」

「落ち着いて話して。仲間っていうのも精霊だね? どんな罠なの?」

「一見変わったものは何もないのですが、身体が引き寄せられて、ある程度近づくと逃げられない、みたいな……」


 ははあ、さてはアレか。

 要するに精霊を助けろってクエストだな?

 クララと頷き合う。


「この洞窟について、知ってることある? どうしてあんたとお仲間はここに来たの?」

「ここは古くにドワーフが作り、研究所として用いたと言われる洞窟です。僕は前から知ってまして、心地よい場所なので時折来てたんです。アトムは……あ、これは仲間の精霊の名ですが、冒険者に憧れていまして、パワーカードと言われる精霊用装備品を求めていました。パワーカードはドワーフが考案したものですので、ひょっとしたらと思い、アトムにここを教えた次第です」


 やったぜ、今日はいい日だ!

 仲間候補とパワーカード、不安要素二つが解消するかも!

 冒険者になりたい精霊なんてのが本当にいるんだなあ。


「わかった、助けよう。案内して」


 緑色の精霊は大喜びで跳ね回る。


「ありがたい! 僕は水鏡の精霊ウツツと言います。要所要所で案内しますので、どうぞ洞窟の中へおいでください。では」


 ヒューンという音とともに、精霊ウツツが消えた。

 転移だ。


「たまにいるね、自力で転移できる精霊」


 灰の民の村では、ヒカリという精霊が転移できた。

 族長のデス爺が転移や召喚に興味を持ったのはヒカリがいたからで、その協力があって転移術を発展させたという。

 ヒカリは西への移住メンバーに入ってたんだったか。


「羽の生えてる精霊は大体転移で飛べますねえ」

「言われてみるとヒカリも羽持ちだったな」


 ダンジョンに移動する前にクララと打ち合わせをする。

 クララが引き気味に構えるフォーメーションは同じ。

 なるべく魔物との戦闘は避け、罠の現場に急行すること。


「よし、行こう!」

ちなみにこの世界では、精霊や悪魔や神様も単位は『人』で数えます。

べつに『柱』で数えると何となく鬼滅の刃っぽいからじゃないよ?

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