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第2098話:フィフィを連れて

 ――――――――――三一九日目。


 フイィィーンシュパパパッ。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「ごきげんよう」

「精霊使い君と……あっ、フィフィリア嬢?」


 今日は特に予定を入れてなかった。

 どうしようか考えた末、フィフィと執事を連れて皇帝宮殿にやって来た。

 ハハッ、サボリ君驚いてやがる。


「そろそろ一度、ドーラの山ザル色に染まったフィフィを帝都に連れてくる頃合いだと思って」

「山ザル色なんかに染まってないのですわっ!」

「またまた謙遜しちゃって」

「『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』、読ませていただきました。大変面白かったです」

「あら、読者様でしたの? ありがとう存じます」

「帝都ではメッチャ売れてるんだぞ? 『ケーニッヒバウム』のピット君が泡食ってたくらいには」


 今のフィフィは零落れて婚約破棄され、ドーラに流れてきた悪役令嬢じゃない。

 冒険者として地歩を固め、作家として大ヒットを飛ばして帝都に凱旋した、輝くべき個性なのだ。


「サボリ君の目からどう? フィフィ随分雰囲気変わったでしょ」

「……強者のオーラが出ている」

「ありがとう存じます」

「いや、真面目にダンジョン探索するのを日課にしてるの。結構大したもんだよ」


 今のレベルはサボリ君よりフィフィの方が上なのだ。


「そーいやフィフィ、いつの間にか扇を使わなくなったね?」

「ドーラではムダなものだと知りました。扇よりもパワーカードを持っていないと、裸でいるようで落ち着かないですわ」

「実にドーラの冒険者らしい言い分だな。よくわかる。あとで武器所持の許可もらってこようよ」

「通常は申請出してから数日かかるんだよ?」

「皇帝陛下の元婚約者様だぞ? 直接頼めばすぐ許可出るって」

「直接? ゴリ押しがひどい!」


 これはあんまりひどくないんじゃないかな?

 身分が怪しい人はよく調査せにゃならんのだろうけど。

 マーク青年やルーネだってすぐ許可出たぞ?


「ランプレヒトさんとこ行くんだ。剣術道場ある日だからいるよね?」

「アポは取ってないのかい?」

「取ってない。今日あたしたまたま時間空いちゃってさ。フィフィは毎日規則正しく冒険者してるから、連絡取りやすいの。それでさっき捕まえて、帝都行こーって」

「何もかもアバウト!」


 否定はしないけれども、反省もしない。

 アバウトで何が悪いのだ。


「詰め所に新聞記者が来てるんだ」

「ラッキー。てかメッチャ鼻が利くな?」

「メリッサ嬢の家に行った時、相当愉快だったらしいじゃないか。ルーネロッテ様に聞いたらしく、記者達が怒ってたぞ?」

「そんなこと言われても、たまたま騎士仲間のライナー君が詰め所にいたからなんだもん」


 ドジっ娘女騎士メリッサとうっかり元公爵のコラボで、勝手に愉快になったともいう。

 成り行きだったのだ。

 記者トリオをハブにしたわけじゃない。


「ねえねえ……」

「わかってる。次回作宣伝しておこう」

「次回作が出るんですか?」

「出ますわよ」

「冒険者のエピソード集になるって話だったっけ?」

「初級冒険者用の入門ハンドブックですわよ。エピソード大盛りの」

「あ、体裁は冒険者の入門書なのか」

「冒険者を目指す人、憧れる人を対象にしたいですの」


 なるほど、冒険者の心得的な本で、実用・娯楽両方の目的の客を掴むとゆーことか。

 いいんじゃないかな?

 さて、近衛兵詰め所に着いた。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「「「ユーラシアさん!」」」


 予想通り食いついてくる記者トリオ。


「ひどいじゃないですか! メリッサ嬢のアポ取りに行って面白いことがたくさん起こったと、ルーネロッテ様に聞きましたよ!」

「ごめんよ。行くつもりじゃなかったんだけど、たまたまライナー君がいてさ。ドジっ娘女騎士は休みの日に家にいるらしいって情報をもらったから、じゃあ押しかけてしまえってことになったの」

「グレゴール様もいらっしゃったんでしょう?」

「いたいた。ドジっ娘がポットとコップをうっかり元公爵にぶち撒けそうになったのを、ライナー君とルーネが華麗にキャッチしてうっかりさんを救った。と思いきや、うっかりさんは椅子ごと後ろにひっくり返ったとか」


 すげえメモ取ってんの。

 ルーネは細かいことまで喋ってないみたいだな?

 ライナー君とドジっ娘女騎士のラブ話に触れられるのを嫌ったのかも。


「明後日の午後、うっかりさん家でドジっ娘の絵を描くから、記者さん達もおいでよ」

「「「ありがとうございます!」」」

「ところでフィフィ来てるの気づいてた?」

「あっ、フィフィリア様? こ、これは失礼いたしました」

「フィフィ気配を消すの上手になったよね」

「魔物を相手にしていると自然にそうなるのですわ」

「あたしは必要性がないからちっとも上手にならない。強い魔物はどっちみち向かってきちゃうし、お肉は逃げようとしても狩るから」


 とゆーか気配を消そうなんて考え方はあたしに合っとらんな。

 存在感を見せつけるのがあたしのやり方だし。


「今からランプレヒトさん家行くんだ。生き別れた孫娘フィフィと涙の御対面イベント」

「ついて行ってもよろしいですか?」

「もちろんだよ。本の売れ行きにも関わるかもしれないから、しっかり記事にしてよ」

「ところで私の本は、帝都でどれくらい売れているのですの?」

「現在のところ、実売三万部近いと聞きましたよ」

「すげーな。帝都の識字人口って多分三〇万人もいないよね? 一〇人に一人以上買ってる計算か」


 予定通りメッチャ売れてる。

 空前の大ヒットだ。

 しかも実売価格の安さもあって、単なるブームじゃなくて定番本になる可能性が高い。

 今後もずっと売れ続け、フィフィの名を高めるはずだ。

 打倒『輝かしき勇者の冒険』が現実味を帯びてきたなあ。

 今となっては打倒しなくてもいいけど。


「さて、ランプレヒトさんに会いに行こうか。あれ? フィフィどうした?」

「今頃になって震えてきましたわ。だってお爺様怖いのですもの」

「わかる。ランプレヒトさんって圧迫感が強いとゆーか、暑苦しいとこあるよね」


 『恫喝』の固有能力持ちだもんな。

 固有能力が個性や性格と一体化して、ナチュラルに押しがデフォルトになってる人だ。


「でもあたしがいるから大丈夫だぞ」

「御主人がいれば大丈夫ぬよ?」

「行こー」


 エーレンベルク伯爵家邸へ。

ランプレヒトは単純な価値観の人だ。

フィフィのレベル見ただけで納得するわ。

ビビる必要ない。

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