第2093話:転移の間?
「ぺいっ!」
これで今日仕留めた孤独獅子は四頭だな。
あげることを約束していた首が全員に行き渡る。
ノルマ終了っと。
「何度見ても姐さんの技はすげえ!」
「もっと盛大に褒めてくれてもいいんだよ。できれば技じゃなくてプリティなフェイスの方を」
アハハと笑い合う。
実に和やかなことになったなー。
ウタマロの部下になることが決まった四人も、いつの間にかあたしのことを姐さん呼びしている。
さっきまでお嬢さん言ってたのに。
「確認するぞー。ウタマロを含めた全員がライオンの首を手に入れ、成人の要件を満たしました、でいい?」
「いい」
「あんた達四人は今後ウタマロの家来であることを誓いなさい」
「「「「誓う!」」」」
「えーと、忘れ物はないかな? あとで抜けがあったなんてことだと面倒だから、まだ何か条件があるんだったら言ってね」
「特にないな」
「じゃあ入り口の方へ戻ろうか」
「「「「「おう」」」」」「おうぬ!」
ミッションコンプリート。
いや、油断してはいけないな。
入口に到着するまでがエンターテインメントだと、さりげなくフラグを立ててみる。
ウタマロが言う。
「ユーラシアは転移の間から来たんだろう?」
「えっ、転移の間?」
「違うのか?」
「知らんワードが突然出てきたな。何それ?」
今いる世界最大のダンジョンこと獅子の洞窟の一番奥には転移の間という大きな空間があって、別のどこかに繋がっている?
「……というわけだ」
「マジか。奥の方はあんまり人が入った形跡がなかったけど、転移の間とゆーものはがあるのは確かな話なん?」
「もちろんだ。年寄りの中には実際に転移の間より先に進んだ者もいる」
つまり転移の間より先も含めて『世界最大のダンジョン』のようだ。
ダンジョンの方にも楽しみが残ってるなあ。
「ユーラシアは外国人だから、てっきり転移の間を経由して来たものかと思っていた」
「そーだったのか。転移でこっちに来たことには違いないんだけど、転移の間は関係ないんだ。『アトラスの冒険者』って言って……」
クエストと転送魔法陣と転移の玉がどうのこうの。
この説明も慣れたものだ。
「……ってことなんだ。だからウタマロを助けろってクエストなのかなと思ってた」
「だから拙に協力してくれたのか」
「まあ」
べつにそれだけの理由ではない。
ウタマロはできるやつだしな。
その後に会った四人と比べてみりゃ明らかだ。
シンカン帝国に人脈を広げる取っかかりとして、有力者になってくれると嬉しいから。
「レベルが上がったこともありがたい」
「うーん、でもまだレベル四、五ってとこでしょ? まともに戦ったんじゃ、まだ全然あのライオンを倒せる域にないから無茶しないでね」
「姐さんのレベルはいくつなんで?」
「あたしは一五〇だよ」
「「「「「一五〇?」」」」」
驚くだろうけど。
「カンストレベルって九九なのだろう?」
「あたしはレベルの上限が一五〇になる固有能力が発現しているんだ。多分世界一レベル高いと思う」
「『精霊使い』の恵沢持ちって言ってたじゃないか」
「べつに持ち固有能力って一つと決まってるわけじゃないぞ? あたしは七つ持ちだし」
「七つって……」
「御主人はすごいぬよ?」
固有能力のことはどうでもいいのだ。
言われ慣れてるし、掘り下げられてもあたしの知りたいことが出てこない。
「転移の間のこと教えてよ。あたし達ウタマロと会った場所から半日くらいは奥に行ってみたんだけど、そんなもんなかったぞ?」
「半日歩いたならもう少しだったと思う」
「姐さん、転移の間まで行ったことのあるやつはほとんどいねえんだ」
「用もないしな。知られてることは少ねえ」
「ふむふむ。近い内に行ってみよ」
どんどん歩く。
「洞窟の出入り口の向こう側が集落になってるんだね?」
「ああ」
「洞窟に入ってすぐのところが大きな明るい空間になってるんですぜ。成人の儀式はそこで行われてるんで」
「へー。儀式専用の場所なの?」
「そんなことはないんで。雨に濡れない場所ですんで、市もしょっちゅう開かれてやす」
「なるほどー」
都合のいい公共の広場として使ってるんだな?
「まだ遠いの?」
「いや、もう二〇分もかかりやせんぜ」
「ここまでくると魔物も出ないよね?」
「おそらくは。入り口の間近くに獅子が現れたなんてことは滅多にないな」
「ほぼ安全とゆーことだね。大体わかってきたぞ」
この辺まで来ると小型の動物だか魔物だかの気配もない。
エサがないからライオンも来ないんだろう。
「ユーラシアには骨を折ってもらった。礼をせねばならんな」
「え、いいんだぞ? 大したことしてないし、転移の間のこと教えてもらったし」
「全く謝礼なしというわけにもいかんだろう」
「じゃあ仲良くしてよ」
「拙の嫁にせいということか? ごめんなさい」
「何であんたが断るんだよ。おっかしいだろーが!」
アハハ。
さっきごめんなさいした仕返しかな?
「姐さん。プライベートライオンの頭なんてものを持って来たなんて日にゃあ、有力者がこぞって娘を差し出しますぜ」
「おおう、モテモテだね」
「オレ達だって首持ちで大威張りだ。モテモテなんですぜ」
「よかったねえ」
成人の儀式の結果で一生が決まっちゃうレベルだぞ?
ウタマロがしみじみ言う。
「成人の儀式では何人かで洞窟に入って、何とか一頭の獅子を仕留めて分け合うのがセオリーなんだ」
「だろうねえ。ウタマロはどうしてソロだったのよ?」
「岩に擬態しながら奥まで潜って、上位種の骨でも拾えないかと考えていたんだ。今年は調査のみで、来年再挑戦でもいいと思っていた」
「そーゆー目論見だったのか」
「ウタマロさん、そりゃムリだぜ。骨なんか落ちてたら、他の獅子にしゃぶり尽くされちまうからな」
もっともな意見だが、実際にプライベートライオンの頭蓋骨落ちてたからな。
ウタマロがあたしに会わなかった場合でも、絶対失敗してたとは言い切れない。
『ぐう』
「お腹減っちゃった。あっ、お礼くれるって言うならお昼御飯食べさせてよ」
「ハハッ、構わんぞ」
「「「「オレ達も奢りやすぜ」」」」
「やたっ! シンカン帝国の料理楽しみだなー」
おっと声が聞こえるな。
入り口広場が近そうだ。
残念ながらエンタメイベントは何も起きなかったけど、腹減ってるからいーや。
まだ一騒動あると見た、とゆーフラグ(笑)。