第2092話:成人の儀式
ウタマロが力を貸せとはどんな理由かな?
エンタメ関係だったらタダでいいぞ?
「成人の儀式というものがあってな」
「え? 嫁を連れて来ないと成人として認められない? ごめんなさい」
「違う! 誰がお前に求婚しているか!」
アハハ。
軽いジョークだとゆーのに。
初対面なのにちょっと飛ばしちゃったかな?
欲しがり過ぎたかもしれない。
「ライオンの魔物の身体の一部を持ち帰った男が成人として認められるのだ。拙が獅子の洞窟に来た目的でもある」
「ライオン狩るつもりだったのかよ。ウタマロ一人じゃ倒すのムリだぞ?」
「ああ。洞窟に入ってみてよくわかった。拙の実力が全く足りていない」
不意を突いて『火遁』攻撃モードを浴びせることができたとしても、一〇発以上命中させることが必要だろ。
つまりウタマロが一〇人は必要。
ムリだとわかったから岩に化けて隠れてたのかな。
「さっきのウタマロの言い方だと、ライオンを持って帰りさえすればいいんでしょ? 必ずしも自力で倒す必要はないってことなのかな?」
「正しい解釈だな。身体の一部を手に入れさえすればいいということだ」
「あたしが倒したライオンでよければあげるけど、それじゃダメなん?」
「もちろん構わない。が……」
ライオンの種類によってあとの扱いが違う?
つまりどんなライオンを手に入れて成人と認められるかによって、人生が変わってしまうとゆーことか。
ははあ、かなり面白い。
黒くて強いレアライオン、プライベートライオンだったか?
あれを手に入れれば、ウタマロは一躍有力者扱いされちゃうってことかな?
「つまりレアなライオンを持ち帰るほど?」
「重く扱われるな」
「ふむふむ。じゃあ魔物と戦い慣れてて強い人が有力者になれるってこと?」
「とは限らない。何故なら……」
「おい、ウタマロ」
下品な笑みを浮かべた四人の男が話しかけてくる。
いや、もちろん来るのはわかってたけど、ウタマロ以外からも情報が欲しいから。
「孤独獅子を仕留めたのかよ。てめえにしちゃやるじゃねえか。おかげで危険を冒す必要がなくなったぜ」
「なるほど。ライオンは自分で倒さなくても、誰かから奪えばいいのか。野蛮なシステムだな」
「奪うことも実力の内だからな。購入してもいい。入手方法は問われない」
となると金にものを言わせることのできる有力者の子弟は有利だな。
しかし自分の実力で成り上がることもできる、ある意味公平に近いやり方かもしれない。
ドロボーありって点はもにょるけど、盗まれるような間抜けが悪いと言われりゃそれまでだしな。
「確認するけど、あんた達も成人するためにライオンの亡骸を欲しがってるとゆーことでいいんだよね?」
「もちろんだ」
「じゃあこの獅子の亡骸はもらっていくぜ」
「待て!」
「バカかよ。自分の力のなさに泣くがいいさ」
「頭を誰がもらうかはクジだ。恨みっこなしだぜ」
「へー。頭に価値があるの?」
「そりゃそうだぜお嬢さん。……よく見りゃ可愛いじゃねえか」
「よく見なくたってあたしは可愛いだろ」
「ウタマロにゃもったいねえ。こっちへ来いよ」
「行かないとゆーのに。ヴィル」
「はいだぬ! どーん!」
ヴィルの体当たりで吹っ飛ばされた男四人を、バアルのお宝『束縛の綱』で縛り上げる。
「リフレッシュ! さて、あんた達聞きなさい」
「何してくれやがるんだ、このアマ!」
「えーと、この国では強い者が正義と理解したけど、違うのかな?」
「そんなわけあるか!」
「違ったか。ちょっとまだこの国のルールを把握してなかったわ。ごめんね。じゃああたしに対して無礼な態度を取ったならず者を捕縛した。これで行こう」
「これで行こうって」
ウタマロが呆れた目で見てくる。
クララが珍しくそれでこそユー様って顔してるな。
「もうちょっと教えてよ。ライオンの身体っていつまでに持って帰ればいいの?」
「今日の日没までだ」
「マジか。あんまりのんびりしてられないな。あたし達がこのダンジョンで見たライオンは単体で現れるこいつと群れで現れる赤いライオン、身体の大きい黒っぽいライオンの三種類だよ。他にもいるのかな?」
「その三種で間違いない」
「一番価値が高いのは黒いライオンであってる?」
「ああ、プライベートライオンだな」
「で、あんた達はこっちの黄色いライオンで満足なの?」
何を言われたかわからなそうな四人の男達。
「どういうことだ? 孤独獅子の亡骸をくれるってのか? ウタマロの獲物なんだろ?」
「ウタマロはもうちょっとランクの高いライオンを欲しがってるみたいだから、協力してやろうかと思ってるんだ。その黄色いライオンはあげる」
「マジかよ!」
大喜びする四人。
さて、ここから交渉のしどころだ。
「孤独獅子って一番普通にいる種類だと思うけど、レアじゃなくてもいいんだ?」
「成人が遅れて女とよろしくやれねえ方が問題だろ」
「お嬢さんは他所の人だな? 価値がわからねえんじゃねえか? 孤独獅子の頭なら立派なもんなんだぜ。村で一目置かれる、将来の顔役間違いなしだ」
「わかった。じゃあ皆に孤独獅子の頭を一個ずつプレゼントするよ」
「おいおい、本当かよ」
「条件があるよ。あんた達四人、ウタマロの忠実な家来になりなさい」
顔を見合わせる四人。
「……ウタマロは賢い。『忍術』の恵沢持ちであることも知ってる。ただ……」
「ツキがねえ野郎だ。今日中にランクの高い獅子を手に入れられるとは思えねえ」
「あたしが味方についててツキがないなんてことあるか。おまけにもう、ランクの高いライオンの頭はあるんだよ。じゃーん!」
ナップザックから一昨日拾ったドクロを取り出す。
ウタマロ含めた五人が驚愕する。
「……この大きさ、額の骨の厚さ。間違いねえ。プライベートライオンの頭蓋骨だ!」
「ウタマロがこれを持参すれば、結構な実力者と見られるようになるんでしょ? その家来ってことならいい目が見られるんじゃないの?」
「よし、乗ったぜお嬢さん!」
「これは契約だぞ? 裏切ったら許さん。今後ウタマロのことはさん付けで呼びなさい。いいね」
「「「「合点承知の助!」」」」
おおう、こんなんで声が揃うとは。
シンカン帝国特有のノリなんかな?
四人を『束縛の綱』から解放する。
「よーし、決まった。ライオンあと三匹狩りに行くよー」
年齢が行ってもいつまでも成人できない人って可哀そう。