第2087話:ニライちゃんの分析
応接間に通された。
ドジっ娘女騎士以外は留守か。
ふーん、富裕層のお宅ともなると、それなりに立派なんだな。
ドジっ娘女騎士が飲み物を持ってきてくれる。
「粗茶ですが。あっ!」
ドジっ娘女騎士が躓き、ポットとコップがうっかり元公爵の方へ飛ぶ!
これが予定調和か。
「ファストシールド! うわっ!」
「もももも申し訳ありません!」
「いや、問題ないよ」
ポットとコップ全ては、ライナー君とルーネに受け止められて被害なし。
うん、うっかり元公爵をしっかりガードしてるから、全く問題はない。
うっかり元公爵が椅子ごと後ろにひっくり返るのは読めなかったけど、うまいこと『ファストシールド』唱えてたから大丈夫だろ。
リキニウスちゃんオードリーニライちゃんが大喜びしてるわ。
ジスイズエンターテインメント。
「ユーラシアさんが言ってたんですよ。何かあった時巻き込まれるのはグレゴール様なので、ライナー様と私でガードしてくれと」
「そうだったのか。助かったよ。盛大な粗相をしてしまうところだった」
「盛大な粗相には違いないけどな」
ドジっ娘女騎士がライナー君をチラチラ見ている。
ルーネがこれって濃厚なラブ気配ですよねって視線を向けてくるが黙ってなさい。
ライナー君は聖女キャロとくっつく方がうまくいくのだ。
まーしかしドジっ娘女騎士がライナー君にアタックするなら、それはそれで面白いから止めはしないニヤニヤ。
「これ、タイムのハーブティーだね」
「ああ。湯冷ましにタイムを長時間浸したものだ」
「香りが素敵ですね」
「騎士のハーブであるタイムは、私の最も好むハーブなのだ」
タイムを語るドジっ娘女騎士メリッサは確かに美人だ。
うちには魔境で取ってきた香りの強いタイムがある。
育てるの簡単なはずなんだけど、このドジっ娘は期待に違わず枯らすような気がするんだよなあ。
あげるのちょっと保留。
背筋の伸びた姿勢といい親子二代にわたっての騎士爵持ちであることといい、生粋の貴族ではないにしろ令嬢といっても差し支えないだろう。
でも朴訥とした喋り方は令嬢というより確かに騎士寄りだ。
「メリッサはにいさまがすきなのか?」
「おお? ニライちゃんあえてぶっ込みにいくなあ」
今日は人数が多いから、あたしも全部の発言は止められないぞ?
ドジっ娘女騎士が盛大にハーブティーを吹いてうっかり元公爵にかかりそうになってるのを、ライナー君がガードした。
うっかり元公爵は騎士メリッサの吹いた茶ならむしろ浴びたいって顔してるけどな。
しかし突然ポンコツに豹変するなあ。
ガード役のライナー君とルーネが結構大変だと思う。
頑張れ、ポテンシャルに期待する。
「ななななな……」
「何でわかるかって? ニライちゃんに筒抜けなくらいバレバレやないけ」
「バレバレぬよ?」
「すすすすす……」
「好きと一言で言えないこの感情を秘めるにやぶさかでなかったのに、何故暴露してしまうのかって? 暴露したのはあたしじゃないわ」
「どうして一字一句その通りなんだ!」
何でだろ?
あたしのラブセンサーの感度はすごい。
ただニライちゃんの燃料投下のおかげで、大変面白い事態になったぞニヤニヤ。
「そうだったか……。メリッサの気持ちに気付かず、悪いことをしてしまったな」
「いや! ライナーが我が家を訪れてくれるのは嬉しいのだ」
「にいさまにはキャロラインねえさまがいいぞなもし!」
「ニライちゃん。そのセリフはもーちょっと甘い展開になってから挟むべきだね」
「そうですよ。糖分が足りないのです」
何でもいいけど、ライナー君はこういう展開になっても全然困った顔をしやしねえ。
ナチュラルモテ男は違うなあ。
「いや、ライナーは伯爵家の嫡男だ。私では身分が釣り合わないことは理解している」
「うーん、身分の高い者が選択肢が広くなるってのはわかるけど、実際は逆じゃん?」
「高い身分の者は高い身分の相手を求めがちということですか? ユーラシアさんはおかしいと考えているんですか?」
「本人の資質とライナー君との相性が大事なのであって、身分は割とどうでもいいんじゃないの? キャロだって平民だし」
「平民? あっ、キャロラインとはユーラシア教会の聖女?」
「そうそう」
うなだれるドジっ娘女騎士。
「資質でも……とても敵わない」
「そんなことないよ。キャロよりおっぱい大きいし。ライナー君との相性だと似たようなもんだぞ? メリッサがそう負けてるとは思わんけど」
「メリッサ様は呼び捨てなんですね?」
「あたしも騎士爵持ちだから。騎士同士は呼び捨てするもんなのかなーって」
ライナー君はあたしのこと君付けだし、あたしもライナー君って呼ぶけどな。
「おっぱいは重要なんですか?」
「あたしはおっぱい大きい人に注目したくなるけどなあ。ライナー君はどうなの?」
「おっぱいの大きい人かい? 魅力的だよね」
「ライナー君はこういう時さらっと流せる力量がムダにあるんだよなあ」
少しは照れりゃいいのに。
ナチュラルモテ男はこれだから困る。
「ところでライナー君とキャロって最近どうなの?」
「順調だよ」
「きょうかいのガードがやたらとかたいぞなもし。おもったよりにいさまとのかんけいがしんてんしないぞなもし」
「かもなー。今キャロがいなくなると、ユーラシア教会の収入は激減だろうし」
ニライちゃんの分析の方が当てになるってどーゆーことだ。
でもキャロ人気のピークは今だろ。
仕掛けようはあると思うがな。
うっかり元公爵が言う。
「ライナー殿は騎士メリッサをどう感じているのだ?」
「良き同僚です。それ以上考えたことはありませんでした」
「ライナー君は鈍感なんだよなー」
「にいさまはもうすこしまわりにきをくばって、かんがえたほうがいいぞなもし」
幼女の指摘に全員が頷いとるがな。
「ユーラシア君は聖女キャロラインと騎士メリッサ、どちらがライナー殿とお似合いだと見ているのだ?」
「何でじっちゃんが乗り気なのかな? キャロのが上だと思うけど微差だよ。ライナー君のおっぱいへの拘り次第で逆転するくらい」
「び、微差なのか」
「そーだ。頑張る価値はある」
具体的に言うと、ニライちゃんの聖女キャロへの信頼が厚いのだ。
ニライちゃんがドジっ娘女騎士支持になるなら、メリッサ嫁で何の問題もない。
ドジっ娘女騎士メリッサは細かくイベントを挟んでくるから気を抜けない。
実に面白い。