第208話:自由開拓民集落バボ
フイィィーンシュパパパッ。
遭難皇女:至急のクエストの転送先にやって来た。
何せ時間が時間だ。
そうモタモタもしていられないのだが……。
「えーと、ここは?」
……村?
遭難だっていうから森とかダンジョンを予想してたら、全然予想外のところへ出た。
「こりゃ珍しい、亜人かね?」
一人の村人が話しかけてくる。
「いや、亜人じゃなくて、うちの子達は精霊だよ」
「てことはあんたひょっとして、精霊使いユーラシア?」
「有名な美少女精霊使いユーラシアとはあたしのことだよ」
あたしを知ってるってことはドーラか。
皇女ってことはカル帝国の皇女の誰かなんだろう。
でも何でドーラ内で皇女が遭難するんだ?
わけがわからんな?
「女の子が遭難したって聞いたんだけど、何か知ってる? とゆーか、ここどこ?」
村人にあれこれ質問し、必要な情報を得る。
ここはカトマスから強歩一日くらい西にある、バボという自由開拓民集落とのことだった。
カトマスから強歩一日なら、塔の村とも同じくらいの距離か?
まだ塔の村の知名度は高くないから、話に出ないのは仕方ないが。
ワイドレンジで雨って言ってたけど、ここは降ってなかったみたい。
で、何だって?
二人連れの旅人の内の一人、女の子が地下の遺跡に転がり落ちた?
「それっていつのこと?」
「昨日の午前中ですぞ」
「丸一日以上か。大変じゃん! 場所は?」
「こっちです」
現場へ急ぐ。
しかし旅人というだけで、皇女という話は出てこないな?
『アトラスの冒険者』だから知り得た情報であって、村人は知らない可能性が高いと見た。
井戸みたいな穴の周りに四、五人の人が集まっていた。
雰囲気が物々しいというか殺気に満ちた感じがする。
……おかしいな、もっと心配・混乱・焦燥みたいな感じになってるかと思ったが。
「状況聞かせて」
村人らしき男が不審げに問うてくる。
「何だあんたは?」
「アルハーン掃討戦の大立者、精霊使いユーラシアだよ。……女の子が遭難したと聞いて派遣されてきた」
ハッキリとした根拠があるわけじゃないが、何かが変だ。
さっきみたいなギャグの名乗りじゃなく、意識して設定を盛ってみる。
「聞いたことがある。精霊使いの少女があの大作戦を牽引したと」
「うん、あたしのこと」
「本物かよ?」
「世の中に美少女精霊使いは何人も転がっちゃいないんだぞ? とっとと話してよ」
要約するとこんなところだ。
この集落の地下には古い遺跡があるそーな。
魔物が住み着いているという話をしたら少女が興味を持ち、覗き込んでいて手を滑らし落ちたと。
ふーん?
一人明らかに服装の立派な男がいる。
歳は三〇絡みか、黒の帝国風略装で口ヒゲを貯えている。
ステッキを持っているが、おそらくは仕込み杖だろう。
かなりの腕の持ち主と見た。
彼が旅人の片割れ、皇女の従者に違いない。
「要するに魔物がいるから救出に行けないということだね? よし、あたし達が行く。連れの人の話を聞いとくから、村の人は下まで届くロープ用意して」
村人達が散ったところで連れの男にそっと聞く。
「あたし達は村人と違って敵じゃないから正直に話して。村人達は落ちたのが皇女だってこと知らないの?」
「!」
男はとっさに距離を取ろうとしたが、ステッキを持ってる方の手を捕まえる。
いきなりこう言われりゃ怪しいってことはわかってるけど、信用してちょうだい。
夕御飯の時間が遅くなるとあたしだってツラいのだ。
「落ち着いてってば。あんたの腕なら、あたし達がどれくらいのレベルか見当つくでしょ? 知ってることを簡単に話して」
男は信じるより仕方ないと覚悟を決めたようだ。
ステッキを地に落とす。
「ここは盗賊村だ。おそらく皇女殿下は突き落とされたのだと思う。殿下はタフだし携帯食料も持ってるから命に問題はなかろうが、脱出する術がない。頼む、助けてくれ」
やはり。
アンセリの言ってた、追い剥ぎで生計を立ててる自由開拓民集落だな?
でもこの黒服みたいな強い人、村人じゃ倒せないと思うぞ?
「オーケー、こっちは任せて。あんたの方が危ないと思うけど、隙を見せず何も知らないふりしててね。飲食物は毒混ぜられることあり得るから注意して。癇癪起こして村人殺したりしないように」
「わかった」
村人達がロープを持ってきた。
話はここまでだ。
どーしてこんなドーラの西域に来たんだとか色々聞きたいことはあるけど、皇女を救助してからだな。
「じゃ、行ってくるね。吉報を待て!」
ロープを伝い、あたし、クララ、ダンテ、アトムの順で降りる。
クララの飛行魔法『フライ』で行けばロープなんか必要なかっただろうって?
あたしにだって都合があるんだわ。
飛行魔法をここで村人イコール盗賊に見せるのは得策ではないから。
「ふわあ、広い……」
遺跡という話だったが、元々は洞窟で亜人が住み着いたものなんじゃないかな。
「ヒカリゴケですね。強い光を発する品種を選んで、わざわざ植えてあるんでしょう。目が慣れると暗さはさほど感じないと思います」
ならば日暮れまでという時間制限はないと考えていいか。
「落ちたんだか落とされたんだか知らねえが、動かず待っててくれりゃいいものを」
「マジ同感。出口が他にあると思ったのかなあ?」
歩けるなら大したケガもしてないのか。
四ヒロくらいの高さはあったけど。
「おかしなフォースフィールドを感じるね」
ダンテは嫌なこと言うなあ。
少し歩くと魔物が出た。
「インプとオオゴミムシです」
まあ何が出ようとドラゴンスレイヤー様の敵ではないわけだが。
レッツファイッ!
ダンテの実りある経験! あたしの薙ぎ払い! スカ。えっ? もう一度薙ぎ払い! またスカ。どうなってるの? アトムの通常攻撃! スカ。クララの乙女の祈り! しかしヒットポイントは満タンだ。インプの攻撃! スカ。オオゴミムシの攻撃! スカ。
「魔法に切り替えて!」
ダンテのフレイム! インプとオオゴミムシを倒した! が……?
「物理ダメージが無効化される力場ってこと?」
「そのようですねえ」
うあー面倒だな。
なるほど、おそらく魔法なんか使えない村人が救出に行けない理由もわかる。
……救出に行かない言い訳と捉えた方がいいか?
「皇女を見つけるまで、なるべく戦闘は避けよう。あたしが『鹿威し』で散らすよ」
「「「了解!」」」
意外と面倒だった。
しかし魔物は強くない。
皇女が生きているならば問題はあるまい。