第2078話:『世界最大のダンジョン』にやって来た
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが世界最大のダンジョンかー」
「……思ったよりパッとしないでやすぜ」
「それな?」
『世界最大のダンジョン』にやって来た。
どーも期待度満点の転送先名称に踊らされちゃった気はする。
来てみたらふつーの洞窟だった。
魔力濃度がやや高いようで、ところどころ『光る石』らしきものが光っているので、さほど暗くないのは助かるな。
手持ちの明かりは必要なさそう。
「でもおっぱいさんが取っておきって言ってたくらいだから、絶対に何かあるはず」
「今のところその何かが感じられないでやすぜ」
「困ったことに、あたしも感じられないんだよな」
こーゆー時こそあたしのカンの出番なのだが、もう一つピンと来ない。
いや、それなりにギミックのありそうなダンジョンではあるよ?
でもおっぱいさんとっておきの『世界最大のダンジョン』と言われると、納得しかねるとゆーか。
「世界最大といっても、ダンジョン内はこんなものなのでは?」
「パーツパーツがゴージャスとは限らないね」
「どっかに見るべきものがあるってことなんだろうな」
「歩きやすいのはいいですね」
「うーん、この洞窟って、明らかに人の手が入ってるよね?」
歩きやすくしてある気がする。
未踏破のダンジョンではないらしい?
いや、深いところは誰も行ったことがないのかもしれないな。
でも狭苦しいとこ歩くのは嫌だなあ。
魔物に襲われた時対応しづらいし。
「姐御、どういう方針にしやす?」
「安産祈願だね」
「「「は?」」」
「間違えた。安全第一だった」
呆れた目で見るな。
ちょっとしたジョークだとゆーのに。
心の余裕を思い出せ。
「これ多分『アトラスの冒険者』で最後の転送先になるんだ。魔境みたいに長く楽しめるようだからのんびり行こうよ。珍しいものは要チェックね」
「クリアがパーパスではないね?」
「もちろんクリアできたらできたで全然構わないけどさ。素材やアイテムの回収、お得な魔物を倒すのを優先で」
「一本道ですね。前後どちらへ行きましょうか?」
「セオリー通り、空気の流れてくる方だな。気配を探りやすい。ダンジョン外に出られたら、もう少しわかることが増えるかもしれない」
アトムが挙手する。
どーした?
「姐御、今日は逆へ行きやしょうぜ」
「逆? とゆーと奥と思われる方向へってこと? どうして?」
「今日は午後半日だけの試し調査になるでやしょう? このダンジョンが大きくて探索が長期にわたるとすると、逆側はしばらく行かねえ公算が高いでやす」
「一理あるね。もしダンジョンの外に出ちゃったら、絶対に予想外の何かに巻き込まれそうだもんな」
「もし逆側にいい狩場や素材の穴場があった場合、知る機会が長いことないでやすぜ。時間の損になりやす」
「なるほど、ごもっとも」
「もちろん必ずしも空気の流れてくる方に、広い出口があるとも限らねえってこともありやすが」
「よし、採用。アトム偉い!」
照れるアトム。
普段あんまり頭使ってると思えないアトムが考えてくれるのは嬉しいな。
なるべく意見を採用してやろう。
「じゃ、行くぞー」
「「「了解!」」」「了解ぬ!」
「『光る石』は回収していきますか?」
「やめとこう。暗くて歩きづらくなっちゃう。このダンジョンを利用してる人がわざと配置してるのかもしれないしね」
かなりの横幅のある通路を進む。
ところどころ小さな穴が開いていて、動物か魔物かがいそうな雰囲気はあるけどザコだ。
襲ってくる気配がないので無視している。
「あ、魔物が出た。見た目明るい茶色でネコに似た、多分大型の肉食獣だな」
「そうですね。ライオンの一種のようです。名前まではわかりませんが」
「クララの知らん子か。ほいっと」
手首のスナップのみの動きでライオンの首を刎ねる。
あたしのごまんとある長所の一つ。
「御飯食べたばっかりだから、肉食魔獣でも許してやるけれども」
「クビチョンパはユルスと言わないね」
「見解の違いは置いとくとして、どうにも不満があるね」
「草食魔獣が出ないことでやすかい?」
「お肉がいないのも不満だけれども」
たまたまかもしれないしな。
見極めるにはピースが足りない。
もうちょっと先へ。
ポカッと開いた空間に出る。
「ここはまたかなりの広さだね。こんな場所もあるのか」
「ライオンの群れがいますよ。先ほどのとは違う種類のようですね」
「所詮肉食魔獣だ。赤くて群れてるからっておいしいわけじゃないからなー。バカだから向かってくるし。アトムクララ、残っちゃったら頼むね」
「「了解!」」
レッツファイッ!
ダンテの豊穣祈念! あたしの薙ぎ払い! よーし、やっつけた!
「残んなかったな。あれ、魔宝玉のドロップか。見たことないやつだな?」
「私も知らない魔宝玉です」
「ふーん? 一応調べとくか。全知全能!」
未知の赤い魔宝玉に出力を絞った『全知全能』をかける。
頭に言葉が浮かぶ文字の羅列。
『名称:『紅葉珠』。ムラのない一様な黒味を帯びた赤さが特徴的な魔宝玉の一種。洞窟ライオン諸種のレアドロップアイテム』
……名前のある魔宝玉なのか。
なのにクララが知らない?
「どうしやした?」
「どー考えても変だ」
「草食魔獣は諦めた方がいいですよ。草が生えてませんから、少なくとも大型の食いでのある草食魔獣はいないと思います」
「冷静な分析ありがとう。しおしおのガッカリ。じゃなくてさ!」
「しおしおだぬ!」
アハハと笑い合う。
「クララの知らない魔物がいてクララの知らないアイテム落とすっておかしいよ。アイテムはともかく、ライオンはどう見てもレアな魔物と思えない」
「ダンジョン自体も人が入った跡がありやすぜ。知名度があるダンジョンだと思いやす」
「魔宝玉だって『紅葉珠』って名前がついてるんだぞ? なのに図鑑に載ってないってことだぞ? 何でだ? おっかしーだろ」
「ミステリーね?」
「御主人。またライオンが来たぬよ?」
「考え事してる時にウザいなー。あんた達よく聞きなさい。あたし達はグルメなので肉食魔獣は食べません。その辺に転がってる亡骸はあげるから、あたし達に構うな。もし邪魔したらあんた達も亡骸にするぞ? わかったね?」
「「「「がう」」」」
おお、ちゃんとわかってくれたわ。
エサがある時限定かもしれんけど、一応勘弁してやろう。
何なんだ、ここは?
本筋じゃなさそーな謎があるわ。




