第2070話:『世界最大のダンジョン』
「ゆーらしあさん、こんにちはでつ!」
「ポーラこんにちはぎゅー」
買い取り屋で不要なアイテムを処分していたら、ポロックさんの娘ポーラが来た。
ポーラとヴィルをまとめてぎゅっとしてやる。
いい子達だね。
「ポーラやヴィルは、ギルドで誰に遊んでもらってることが多いの?」
「だんさんがおおいでつ」
「ダンが多いぬよ?」
「やっぱダンか。一番暇そーだもんな」
案外面倒見がいいしな。
ダンは『アトラスの冒険者』終了前になるべくクエストをこなして、レベルを上げておくって考えがないみたいだ。
まあ普通に考えりゃ十分なレベル持ちだし、元々情報屋志向でもあるし。
パーティーメンバーとなり得る『オーランファーム』の従業員が忙しいということもあるんだろうけど。
「ペペさんに会いに来たんだ。寝てるよね?」
「いつものようにねているでつ」
「いつものようにとゆーのが、いかにもペペさんらしくてイカす。いつものように起こすよ。せーのっ!」
「「たのもう!」」「たのもうぬ!」
「ふあっ?」
飛び起きるペペさん。
倒れかかってきてペペさんの頭を直撃しそうだった大杖を受けとめる。
「あっ、ユーラシアちゃん。ありがとう」
「天井が落ちてきたくらいなら放っておくけど、この大杖は攻撃力高そうだから」
「あははっ!」
無邪気に笑うペペさん。
ペペさんも可愛いからぎゅっとしたくなるな。
最近母性本能が溢れてしまう。
これも聖女の宿命か。
「ペペさんがあたしに用があるようだとポロックさんに聞いた」
「あっ、そうそう。消火魔法の組み立てができたから、ケイオスワード文様を渡したかったの」
やっぱ消火魔法か。
相変わらず仕事が早いなあ
ペペさんが二枚の紙を取り出す。
「こっちがかなりの大火でも一発で消し止めることのできる規模の大きいやつよ」
「うんうん、魔道具に組み込んで使うといいやつね」
大きな町には備えつけておきたいな。
「こちらは個人で実用レベルの魔法よ。比較的小さな火にしか効かないけど、同じだけマジックポイントを使用する水魔法よりは、効果がうんと高いと思うわ」
「ありがとう! 早めにカラーズの皆にテストしてもらうよ」
ペペさんの作った魔法だ。
消火に関する効果を不安視してるわけじゃないけど、どえらい副作用があってもおかしくないからな。
「お礼はどうしたらいいかな?」
「両方とも一〇〇〇ゴールドでいいわよ?」
「安過ぎるわ」
ペペさんの値付けはどっかおかしい。
ポーラは……ヴィルと遊んでるね。
ナップザックから黄金皇珠一つと新『アトラスの冒険者』で使用予定の転移の玉とビーコンのセットを渡す。
「これを報酬代わりに。どーぞ、お納めください」
「転移の、玉?」
「そうそう。ギルドとビーコンのある場所の二ヶ所に飛べるから、ビーコンはホームに埋めとくといいよ」
「わかったわ。ありがとう」
「個人用消火魔法の方はスキルスクロール化して販売したい。けど、どれくらい需要あるかわかんないな。帝国の商人とも相談してくるね」
「ユーラシアちゃんにお任せするわ」
「やっぱり一本売れるたびに、ペペさんとこにはドーラでの標準小売価格の二割落ちるようにしとくから」
「お願いします」
帝国での販売価格決めてから逆算で値付けした方がいいかな?
いずれにしても天才ペペさんは儲けてくれないと困る。
「さて、帰ろうかな。ヴィルはどうする? もう少しポーラと遊んでいく?」
「遊んでいくぬ!」
「じゃねー」
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
「ただいまー。クララぎゅー」
「どうしたんですか?」
「時々クララもぎゅーしたいの。ダメかな?」
「ダメではないですけれども」
クララは感情を露わにする子じゃないけれども、喜んでいることはわかる。
もっと積極的にハグに巻き込むべきだろうか?
うちの最古参だし、大事にしたいのだ。
「アトムダンテは海岸かな?」
「はい。先ほど地鳴りがあって新しい転送魔法陣が出現して。転送先を確認してから出かけましたよ」
「そーだ、新しい『地図の石板』もらったんだった」
おっぱいさんがとっておきって言ってたくらいだ。
きっとすごいクエストに違いない。
「行き先はどこかな?」
「『世界最大のダンジョン』です」
「期待に違わぬすごいやつキター!」
「アトムが興奮してしまいまして。頭を冷やすために海へ行ったんですよ」
「うんうん、わかるわかる。あたしもワクテカしてる」
苦笑するクララ。
わかりにくいけど、クララだって楽しみにしているようだ。
何たって『世界最大のダンジョン』だもんな。
「『世界最大のダンジョン』って言われて、どこだか心当たりある?」
「さあ? ちょっとわからないですね」
「あれ? クララが知らないくらいじゃ、あんまり有名な場所じゃないのかな? おっぱいさんが外国だとは言ってたけど」
探索されていない自然の洞窟とかだろうか?
有用なアイテムや素材がたくさんゲットできそうでいいな。
「詳しいこと聞かない方が楽しめるかと思ったんだよね。明日行こうか」
「明日はユー様、貴族の御令嬢のお宅を訪問されるんではなかったでしたっけ?」
「うん。おっぱいピンクブロンドに会うんだけど、午後は暇だからさ」
通常うちのパーティーは、新しいクエストは朝からチャレンジすることにしているから、クララが疑問に思ったんだろう。
「これ多分『アトラスの冒険者』からもらう、最後の石板クエストになるんだよ。魔境みたいに長く楽しめるだろうって。様子見オンリーなら午後でいいよ」
「そうですねえ」
おっと、アトムとダンテが帰ってきたようだ。
「姐御! 『世界最大のダンジョン』でやすぜ! あっしは待ちきれやせん!」
「おいこら落ち着け。深呼吸しようか。吐いて~」
「もうそれはイイね!」
ハハッ、ダンテから拒否された。
息を吐き続けるのは苦しいらしい。
「明日の午後、試しに行ってみることにしたから用意しといてね」
「用意、ワッツ?」
「特別必要ないか。ダンジョンの中は暗いかもしれないから、『光る石』は必要かな?」
ま、何か足りないものがあれば出直せばいいのだ。
「おっぱいさんが今の今まで残してたクエストだよ。何があってもおかしくない。気を引き締めていきまっしょい!」
「「「了解!」」」
「よーし、夕御飯の準備しようか」
明日は楽しみだなあ。
クララでさえ知らない、世界最大のダンジョンだぞ?
しかもあたしのレベルありきで、おっぱいさんが満を持してくれたやつ。
どんなだ?




