第2067話:濁音率が高い
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「おう、友ユーラシアではないか」
うちの子達とマーク青年を連れて魔王島にやって来た。
てか、魔道研究所から帰宅した時にクエスト終了のアナウンスがあったぞ?
報告までが『ヴォルヴァヘイム』のクエストってことだったか。
何故か今日は、漂着民の集落に悪魔が全員集合だな?
「彼は悪魔の研究家マーク君だよ。こちらは魔王バビロン。で、今日は何やってるの?」
「うおおおおおお! 抗えぬ!」
悪魔が全員くっつきに来た。
ヴィルはヴィルで必死にあたしの頭抱えてるし。
何なんだ一体、可愛いやつらめ。
『魔魅』の効果すごい。
マーク青年が研究者っぽいフラットな視点で言う。
「なるほど、ユーラシアさんくらいのレベルだとこうなるんですか」
「マーク君は何を落ち着いてるんだ」
「と、友ユーラシアよ。そなたどうしたのだ? 天上の芳しさではないか!」
「天上ってセリフがどーも魔王にマッチしないことには目を瞑るけれども。あたし『魔魅』の固有能力持ちになったんだ。よろしくね」
「『魔魅』か。そうであったか」
「そろそろ離れろ。一人ずつぎゅーしてやるから」
こうしてみると悪魔は可愛いな。
皆をぎゅっとハグしてやる。
「で、今日は何やってるの? フクちゃんとウシ子以外、全員集合なんじゃない?」
「うむ、漂着民達が魔王らの名を覚えていないようなのでな。自己紹介だ」
「今頃かい」
といっても魔王島に流れ着いてまだ一ヶ月も経ってないのか。
最初は生活基盤整えることに精一杯で、悠長に自己紹介してる暇なんてなかっただろうしな。
漂着民頭ザップさんがほっぺたをポリポリかいてる。
「魔王様とよく見に来てくれるレダ様はわかるんだが、それ以外があやふやなんだ」
「そーいやあたしも魔王とレダ以外は絡みが薄いから、名前まではわからんな?」
「だろう?」
尊敬の感情を得るというシステム上、名前も知らんのでは都合が悪いのはわかる。
「お肉持ってきたから食べて。こちらはカル帝国の宮廷魔道士マーク君だよ。彼は漂着民のまとめ役のザップさんね」
「よろしく」
「こちらこそ」
握手、いいだろう。
「マーク君は悪魔の研究家でもあるから、顔を売っとくといい意味で有名になれるかもしれないぞ?」
ハハッ、悪魔から熱い視線を浴びるマーク君。
研究しやすくなるといいね。
「ふむ、では自己紹介せよ」
「ベリッツです」
「ジャイモでやんす」
「グリーでござる」
「エイヴァよ」
「ゼーレだぎち」
「ザザなり」
「デルデルにございます」
「……ビフロンス」
「ブネである」
「マルバスと申します」
「最後に私レダでございます」
覚えられるか。
濁音率が高いことと個性豊かなことは語尾からも伝わったよ。
マーク君が魔王に聞く。
「魔王配下の悪魔はこれで全員ですか?」
「残りはソロモコのゾラスと塔の村のザガムムだ」
「フクちゃんとウシ子は、既にマーク君と面識あるんだよ」
「そうであったか……友ユーラシアよ。もう一度ぎゅーさせてくれ」
「何なんだもー」
全員をもう一度ぎゅーしてやる。
ヴィルはヴィルでまたあたしの頭にしがみついてくるし。
うっとり加減が実に可愛いな。
「今日は植物のスペシャリストを連れてきたよ。食べられるやつを教えてあげるから、漂着民の皆さんはしっかり覚えてね」
◇
「……これは食べられるし、しかも種から油が取れるって。増やしてもいいかも。こっちのやつの球根は毒があるけど、潰して水に晒せば毒は抜けるそーな。飢饉とかでどうしても食べるものなかったら利用してね」
マーク君が魔王達と話している間に漂着民を連れて近場を散策、クララ先生の指摘に従って有用な植物をチェックしていく。
要はハイキングだ。
楽しいな。
ザップさんが言う。
「魔王島の生活も悪くねえな。悪くないどころか、居心地良くてよ」
「でしょ? あ、この辺までくると魔物がいるのか。見た目太ったシカっぽいから、草食魔獣だろうな」
「名前は知らねえが、悪魔がくれることがある魔物だな。美味いんだぜ」
「美味いと聞いちゃ放置できないわ。倒しとくね。よっと」
くるっと手首を返して首を刎ねるいつものやつ。
「……今何やった?」
「何って見てりゃわかるでしょ。魔物退治だよ」
「前兆もなく首が飛んだように見えたんだが」
「首落とすと血抜きが簡単だし、身体に傷つけないから皮を丸々使えるじゃん?」
「そういうこと聞いてるんじゃないんだか。いや、聞くだけムダなのか?」
とゆーか考えるだけムダ。
のんびりやってたらお肉が逃げちゃう。
とっとと倒さないと。
「魔物いるから散らばると危険だな。今日はこれくらいにして帰ろうか?」
「そうだな。おい、獲物は運べ」
男衆が担いでいく。
「まあ人手が足りねえんだな」
「漂着民は全部で一四人だったっけ? 子供まで含めて。確かに少ないなー」
「あんたに協力してもらって、聖グラントから人を呼び寄せることはできねえか?」
「できるよ。ただ転移はあたし含めて一度に八人までしか運べないけど」
「十分だ。こっちも急に大量に受け入れられるわけもねえ」
「だよねえ」
「魔王様は嫌がらないだろうか? その、人間が増えてよ」
「悪魔を崇めるルールさえ守っていれば嫌がるわけないじゃん。人口が増えるほどたくさん尊敬の感情を得られるんだから」
頷くザップさん。
「こっちの人手が足りねえこともそうだが、魔王島はいいところだろう? 聖グラントには税金に苦しめられている連中がたくさんいるんだ」
「救ってやりたい?」
「いや、不満はあっても故国がいいっていうやつらの方が、ずっと多いんだろうさ。でも魔王島みたいなところがあるんだってことは教えてやりてえ」
「わかる」
選択肢は多い方がいいもんな。
「こっちで故国の連中を受け入れるにしても、来年の春先になるだろう」
「うん、耕作のことを考えてもベストタイミングだね」
「欲しいものもあるからな。それまでに魔王島の存在を知らせて、準備万端でこっちに来てもらいたい」
「あたしも一度弧海州行ってみたいな。明後日行かない?」
「連れていってくれるか!」
「もちろんだよ」
ザップさん大喜び。
あたしもガイドがいるとメッチャありがたいしな。
「じゃ、明後日の朝迎えに来るよ。おーい、マーク君帰るぞー」
弧海州は地図では西の端っこだ。
どんなところかなー。




