第205話:楽しいぬ!
赤プレートに話しかける。
「ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ! 感度良好だぬ!』
「今からあたしギルドへ行くから落ち合おう」
『わかったぬ!』
これでいい。
最近ヴィルが一人でギルドにいる機会もちょくちょく作っている。
大分慣れてもらったんじゃないかな。
最終的にヴィルがギルドのマスコットみたいな存在になることを目指そう。
「じゃ、クララ頼むね。アトムとダンテはフォローだよ」
「「「了解!」」」
「行ってくる!」
コブタマンの解体・精肉処理を任せ、あたしは土砂降りの中、東区画の転送魔法陣まで走りドリフターズギルドへ。
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーラシアさん、おめでとう! レッドドラゴンを倒したそうじゃないか」
ギルド総合受付のポロックさんだ。
今日は『チャーミング』って言ってくれないのか。
あたしにとってはドラゴンスレイヤーより重要なことなんだけど。
残念だなあ。
「ありがとう。でも褒められるようなことじゃなくて、成り行きだったんだよ」
「レアアイテムを回収しようとしてたところを邪魔されたからぶっ倒したんだって? ユーラシアさんに相応しいエピソードじゃないか」
「褒められてるのかそうでないのかわからないんだけど」
「大物ってことだよ」
チャーミングな大物ってことだな。
気を良くしてギルド内部へ。
おっぱいさんと目が合う。
「こんにちはー」
「ユーラシアさん、『ドラゴンスレイヤー』の称号を得られたそうで、おめでとうございます」
「ありがとう。皆におめでとうって言われるんだけど、どーも実感できないとゆーか。何か得なことがあるのかなあ?」
おっぱいさんの眼鏡がキラリと光った気がする。
何かあるらしい。
「ドラゴンスレイヤー指定の依頼が来ることがありますよ。当然のことながら依頼料も高額になります」
「マジですか!」
「マジです。ギルドの仲介料も高額なので、私どももウハウハです」
いいじゃないかドラゴンスレイヤー。
もっともドラゴンスレイヤー指定の依頼なんてたくさんあるわけないし、それなりに危険でもあるだろう。
嬉しいかどうかはわからんな。
いつか飛び込んでくるかもしれないイベント、くらいの気持ちでいるべきか。
「わかった、楽しみにしてるよ」
お店ゾーンへ。
「買い取りお願いしまーす」
正直なところ今はヤバいくらい手持ちのおゼゼがないのだ。
高く買ってもらえますように。
買い取り屋さんの目が見開かれる。
「黄金皇珠じゃないですか」
「うん。デカダンスがレアドロップで落としてったんだ」
「いやあ、ありがたい。欲しがる人は多いのですけれども、出物は稀なんですよね」
やたっ! 何と黄金皇珠は二万ゴールドで売れた!
全部で五万ゴールド近い収入になった。
祝・お金持ちだ!
ふんふーん、さて、ヴィルはどこだ?
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子! あ、ダンとピンクマンが見ててくれたんだ?」
「おう、いい子だから問題ないぜ」
「いい子ぬよ?」
「……」
ピンクマンよ。
あんた幼女成分が高くなると、途端に喋れなくなるのな。
そうだ、ピンクマンなら知ってるかも。
聞いておくか。
「『パワーナイン』って知ってる? ドーラの実力者の総称で、灰の民の族長だったデス爺とペペさん、パラキアスさん、聖火教大祭司のミスティさんなんかが含まれるって聞いたんだけど」
「パワーナイン? 聞いたことねえな」
ダンは知らないようだが、やはりピンクマンは知っている。
頼りになるなあ。
「レイノスの知識人層や商人の間で使われる言葉だな。ドーラの実力者九人の総称だ。先の四人に加え、レイノス副市長オルムス、船団長オリオン、『西域の王』バルバロス、最強の冒険者シバ、『強欲魔女』マルーが含まれる」
「シバさんは『アトラスの冒険者』だぜ。あんまり見ねえけど」
「シバさんか。『アトラスの冒険者』ならいずれ会う機会もあるよね。ところで最後の何? 『強欲魔女』って」
「困りごとは金で解決してやるぞ、というスタンスの人と聞くな」
「へー、尊敬できる人だねえ」
「クソババアだぞ?」
ダンは面識があるらしい。
ピンクマンは笑ってるけど、実力がなきゃおゼゼで解決してやるなんてできないぞ?
「ありがと、じゃあ帰るよ」
「ん? 今日雨じゃねえか。なのに用があるのか?」
「いい女はスケジュールに追われるものなんだよ」
「しょってやがるぜ」
「ヴィル、行こうか」
「はいだぬ!」
肩車したろ。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
ちょっと小降りになってきたな。
うちの子達と話をする。
「ヴィルはギルド楽しい?」
「楽しいぬ! 皆優しいぬ!」
「そーか。またなるべく呼ぶからね。最近何か変わった情報ある?」
ヴィルが首を捻る。
「多分、明後日パラキアスがカラーズへ行くぬ。昨日、レイノスの偉い人とそんな話をしてたぬ」
重要な情報来たぞ。
ヴィル偉い。
「よし、明後日灰の民の村行こう。パラキアスさんにヴィルを紹介しておかないとね」
「わかったぬ!」
「じゃあ偵察任務に戻っててくれる?」
「了解だぬ!」
ヴィルの姿が掻き消える。
パラキアスさんとヴィルを会わせておけば、今後かなりヴィルの行動の自由は確保されるはず。
「ギルドはどうでやした?」
「全部で五万ゴールドくらいになったよ。これでしばらくおゼゼは大丈夫そうだね。あとジンの言ってた『パワーナイン』が誰だかわかった。うちのデス爺、ペペさん、パラキアスさん、ミスティさん、レイノス副市長オルムス、船団長オリオン、『西域の王』バルバロス、最強の冒険者シバ、『強欲魔女』マルーだって」
ダンテが聞いてくる。
「ボス、この九人はインポータントね?」
「わかんないけど、あたし達もある意味重要人物になってきたと思わない? ドラゴンスレイヤーには結構な依頼が来ることあるみたいだよ。向こうから話を振られるかもしれないし。パワーナインの人となりは知っておきたいね」
どんな力を持ってるかわからない。
ヴィルに探らせるのは危険だけどな。
「いずれ実力者の皆さんには会うことになると思いますよ」
「クララもそう思う?」
「ええ」
部屋の隅に重ねてある『地図の石板』に目をやる。
思えばこの二ヶ月で、あたし達の進む道もメッチャ愉快な方向に捻じ曲げられてきたもんだ。
「さて、軍資金はできた。海の王国行こうか」
「「「了解!」」」
『強欲魔女』(笑)。
他人事じゃないわ。
黄金皇珠が惜しかったからドラゴン倒した話が広まったら、『強欲ドラゴンスレイヤー』って言われそうだわ。




