第2043話:おっぱいピンクブロンドとドジっ娘騎士
「いやー、商売っ気のある子だったね」
「そうだな」
「イシュトバーンさんの孫娘って言われたら、おーそーかって思っちゃうくらいの子だわ」
『ミヤネヤ商店』の看板娘ヤヨイちゃんの絵を描かせてもらった帰り道だ。
ヤヨイちゃんの目はイシュトバーンさんとよく似た、くりっとした目なんだよなー。
「ヤヨイちゃんとは気が合いそうだから、また遊びに来たいな。でも仕事の邪魔しちゃ悪いよね?」
「彼女は仕事命じゃねえか?」
「だよねえ。残念だなあ」
商売関係で話をする機会はあるかもな。
『ミヤネヤ商店』と『ケーニッヒバウム』の関係ってどうなんだろ?
関係良好なら『ケーニッヒバウム』に間に入ってもらって、セレシアさんファッションとのコラボを狙うのが吉だ。
セレシアさんとこと『ケーニッヒバウム』の契約がどうなってるか、詳しいことは知らんけれども、ネタがあればヤヨイちゃん巻き込んで遊びに行けることもあるだろ。
新聞記者が聞いてくる。
「ユーラシアさんはこれからどうされるんです?」
「買い物して帰るよ。ちょこれえととお酒」
「オレも酒買ってくかな」
「今日はもう、絵の関係の展開はないのですか?」
「予定はなかったね」
「オレの右手には余裕があるぜ」
「何だその右手の余裕って。いや、まだ前作の画集が売れてるから、帝国美女版はあんまりに急いではいないんだよね。ただアポの取りづらい人は、早めに押さえときたい気持ちはあるけど」
「アポが取りづらいと言えば……」
「アンケートランキングの八位九位なんだよなあ」
八位おっぱいピンクブロンドと九位の女騎士か。
「おっぱいピンクブロンドは情報を集めたいなあ。いや、会えばわかるか」
「おっぱいピンクブロンド……ペルレ男爵家マイケ嬢ですね」
「うん、マイケさん」
A太父グスタフさんが認めてたくらいの子だ。
あたしも興味ある。
「おい、おっぱいピンクブロンドを早めに予約してくれ」
「ちょっと待っててよ。おっぱいピンクブロンドはなかなかやるやつなんじゃないかっていう憶測が、あたしの中で生まれてるんだ。よく知り合ってから頼みたいの」
「ほう? おっぱいがデカいだけじゃなくてか?」
「年齢の割に色気ムンムンだぞ?」
あれ、イシュトバーンさんが意外そうだね?
「あんたが評価するほどなのか?」
「色気を? おっぱいを?」
「そうじゃなくてよ」
「そうじゃないぬ!」
アハハ。
わかっていてやってしまう掛け合い。
これぞ心の潤い。
「グスタフさんの評価が高いんだよね」
「誰だ?」
「えーと、ビアンカちゃんからおっぱいピンクブロンドに乗り換えた令息A太の父ちゃん。帝国本土最東端を領地にしてる伯爵様。メッチャフットワーク軽い人」
「グスタフ様は一〇代の頃から俊英として知られていた方ですよ」
「大物貴族を誑かすほどの美貌だから要注意ってことなのか?」
「とゆーわけではなくってさ」
さっき色気押ししたもんだから、話の流れが思ってる方向へ行かないわ。
ちょっと反省。
「グスタフさんの話によるとだよ? おっぱいピンクブロンドは、ビアンカちゃんの婚約者だって知っててA太に近付いたんだそーな。A太が暴走して婚約破棄の真実の愛の言い出したのは計算外だったみたいだけど」
「浮気な悪役令嬢の振舞いじゃないですか。ユーラシアさんが何に注目しているのかわかりませんよ」
「ところがグスタフさんはおっぱいピンクブロンドを、貴族の気品と侍女の気遣いを併せ持つ令嬢だって言うんだよね。あの美貌だから色々心ないことを言われることもあるんだろうがって。どう思う?」
「……おっぱいピンクブロンドは、何の目的があってA太に近付いたんだ?」
「詳しくは知らない。ただおっぱいピンクブロンドの実家の男爵家の領地がA太伯爵家の領地の隣なんだ。伯爵家領には大きな港があるから、その辺が理由かと思ってる」
グスタフさんは、おっぱいピンクブロンドの父ちゃんと連絡を取って意気投合したってことだった。
領の経営を立て直したいグスタフさんが大喜びで話をしたんなら、産業について何らかの合意があったんじゃないかな。
さほど間違った解釈じゃないと思う。
「つまりおっぱいピンクブロンドは希代の悪女か、それとも相当キレる女かってことなんだな?」
「どっちにしても大したもんでしょ?」
「楽しみだぜ」
悪女イメージがあるから、アンケート順位も抑えられちゃったんじゃないかな。
かなりの美人ではあるし、本来もっと上でもいいかもしれない。
「女騎士はどんな子なん?」
「メリッサ嬢ですね。一八歳で、今年正隊員になった方です」
「父親も騎士なんですよ。父親の仕事っぷりに憧れて騎士を志したというケースかと思います」
「女騎士ってカッコいい人多そうだけど、ランキング上位は一人だけだよね。有名で目立つ子なんだ?」
顔を見合わせる記者トリオ。
何なん?
「長身で目立つお奇麗な方であることは間違いないです。が……」
「が?」
「準隊員時代に子爵ヨーナス様のカツラを飛ばしてしまったという事件がありまして、うちの新聞の購読者には有名と言いますか」
「ははあ。当時は記者さん達もあんまりネタを拾うことができなかったから、しつこく記事にしたんだね?」
「「「そういうことです」」」
イシュトバーンさん笑っとるやんけ。
特筆すべき子じゃないのかな?
いや、トラブルに居合わせるのはそれはそれで才能なのかも。
ヨーナスってどっかで名前聞いたことある気がするけど、誰だったっけかな?
「メリッサ嬢は見た目と性格にギャップのある方ですよ。身長は高いですけど可愛らしいです」
「ドジっ娘ですよ」
「ドジっ娘かー」
今までドジっ娘キャラのモデルはいなかったから、面白いかもしれないな。
ペペさん?
ペペさんは天才ドジ神だろ。
「おい、アポ取りにくいのはその二人だけなのか?」
「あと皇妃パウリーネさんだなー。プリンス陛下が許可くれないの」
「パスでいいぜ」
「何で? 一生懸命清楚系の綺麗な人だよ?」
「陛下の嫁じゃねえか。完全に他人のもんだとつまらねえんだ」
イシュトバーンさんらしい、なるほどの理由だった。
でも皇妃様がモデルとしているといないとでは、売り上げに関わりそうだしな?
「さて、そろそろだな。記者さん達ありがとう。またね」
「バイバイぬ!」
婚約してる人はよくて、結婚してる人はダメらしい。
イシュトバーンさんの謎基準。