第2039話:リモネスさんの示唆
――――――――――三一二日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君、絵師殿。いらっしゃい」
イシュトバーンさんを連れて皇宮にやって来た。
新聞記者トリオに誰かモデルさんのところに案内してもらう予定だ。
アポ取ってないから、ランキング上位者でも平民の誰かになるかな。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵をチェック、と。
「んー? 記者トリオとルーネ以外に誰か詰め所に来てる?」
「わかるのかい?」
「何となく。何故ならサボリ君の顔は情報を垂れ流しているから」
「情報漏洩で減給だぬ!」
「マジでやめてくれ!」
アハハと笑い合う。
「リモネス様が来ているんだ」
「リモネスのおっちゃんが? 会うの久しぶりだな」
リモネスさんは相手の考えてることがわかるという『サトリ』の固有能力持ちだ。
先帝陛下の相談役だったが、プリンスルキウス陛下即位後はどういうポジションなのかなあ?
その辺の相談だろうか?
いや、マーシャの占いでも大吉って言ってたわ。
何の問題もないはずだが?
「精霊使い君に用があると言っていたぞ?」
「用がなくたって会いに来ればいいのに。遠慮深いんだから」
「リモネスさんは役職に就いているのかい?」
イシュトバーンさんもあたしと似たような疑問を抱いたようだ。
「精霊使い君と同じですよ。非常勤の施政館参与です」
「ふーん? リモネスのおっちゃんって、最近目立った活動してる?」
「いや、特には」
イシュトバーンさんと顔を見合わせる。
今まで通りってことだな?
プリンスルキウス陛下がリモネスさんを粗末に扱うはずがない。
となればリモネスさん自身に関係したことではなさそう。
あるいは聖火教関連かな?
「どうだい? 見当はつくかい?」
「いや、ちょっと読めないな」
「会ってのお楽しみってやつだぜ」
「あたしの人生、お楽しみが多いなー」
「天下泰平だぬ!」
アハハ、何だそれ?
ヴィルのツッコミはイケてるなあ。
「アンヘルモーセン、フェルペダときて、次はどこかへ行く予定はあるのかい?」
「特にはないなあ。あたしはお父ちゃん閣下と、先んじてメッセンジャーとして動く役割じゃん? ある程度話が進めば外務大臣のお仕事だからなー」
「君の活躍はワクワクするんだよ」
「あれ? こんなところにあたしのファンが。最初のコンタクトの面倒なところがあたしに回されてるだけだぞ?」
通貨単位統一については帝国ガリアアンヘルモーセンで草案を作り、それを基に各国で賛同を募るというやり方になるんじゃないか。
ならばどこそこで話し合いしましょうっていうお使いで、アンヘルモーセンに行く機会はありそう。
フェルペダへは時々遊びに行くこと間違いない。
何故ならビバちゃんはかなり弄り甲斐のある子だから。
他の外国はどうだろうな?
通貨単位統一の話が進むまでは、行く用事がなさそうだが。
「『アトラスの冒険者』のクエストで指定されなきゃ、新たな外国には行かないんじゃないかな」
「あんた今何のクエスト受けてるんだ?」
「モイワチャッカって国でガルーダの雛育てるやつと、ヴォルヴァヘイムの探索だね」
「おお、ヴォルヴァヘイムの探索かあ。まだ中央部まで辿り着いた者はいないんだ」
「多分あと一回で、真ん中の一番魔力濃度高いところまで到達できると思う。明日行く予定なんだ」
「新聞楽しみにしてるよ」
どーだろ?
記事になるかな?
探索で明らかになったこととブローン君ミラ君に調べたもらったことは、施政館と魔道研究所には報告するけど。
さて、近衛兵詰め所に到着だ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「「「ユーラシアさん!」」」
「精霊使い殿」
ふむ、新聞記者トリオはいつものノリだが、リモネスさんは重要めの用件のようだ。
何だろ?
当たり障りのない話題から……。
「いい天気だね」
「不自然過ぎるぬ」
「ヴィルに突っ込まれてんじゃねえか」
アハハと笑い合う。
……ふむ、リモネスさんの様子を見る限り、メッチャ重大事ってわけでもない。
そしてリモネスさん個人に関わることではない。
ランクとしては心配事があるってくらいか。
「今日ねえ、新聞記者さん達に案内してもらって、画集帝国版の新しいモデル候補のところへ連れてってもらうんだ」
「さようでしたか」
「全力で右腕が唸るぜ」
「ところでリモネスさんは何か用だった?」
ヒントカモン!
人が多いところだと言いにくいのかもしれんけど、ノーヒントじゃさすがにわからん。
何かとっかかりをくれれば、あたしの固有能力『閃き』が全力で唸るぜ!
「……皇帝選以来、ドミティウス殿下の御様子がやや冴えなく思えます」
慎重に言葉を選ぶリモネスさん。
ははあ、お父ちゃん閣下についてか。
あたしが閣下を連れてく時はイベント絡みで心が浮き立ってるせいか、おかしいようには感じたことはない。
しかしリモネスさんは、おそらく『サトリ』の固有能力によって何か感じることがあったに違いない。
何げない『皇帝選以来』という言葉が、やけに印象に残った。
聞き流してはいけないとあたしのカンが囁く。
皇帝選の敗戦は、確かにお父ちゃん閣下の精神に大きなダメージを与えたに違いない。
実際にヘタれた様子を見てるしな。
いや、待てよ?
「……今日ルーネってどうしてるのかな?」
「御母堂のダニエラ様が買い物好きなのです。付き合わされております」
「たまにはお母ちゃん孝行もするといいわ。閣下は施政館の皇帝執務室だよね?」
「そうですな。しかし現在、一昨日のアンヘルモーセン、昨日のフェルペダの報告を基にした閣僚級会議が行われているはずです。ドミティウス殿下は一人で執務していると思われますぞ」
リモネスさんが真っ直ぐこっちを見てくる。
明らかに何かのメッセージ。
あたしにはどうにかできると見ているようだ。
しかもわざわざ閣下が一人になるタイミングを待ってたのか。
今しかないってことだな?
「ヴィル、施政館のお父ちゃん閣下のところ飛んでくれる?」
「わかったぬ!」
掻き消えるヴィル。
「記者さん達ごめん。ちょっと閣下に用ができちゃった。三〇分以内に戻ってくるから、ここで待っててよ」
「「「わかりました!」」」
ものわかりがいいなあ。
あとで聞くつもりかな?
でもごめんよ。
これ多分言えないやつだわ。
リモネスさんも帝国をいい方向に持っていきたい人だ。
そしてあたしに期待してくれている。