第2032話:ギロチンゲーム!
向こう側の扉近くに立っている高レベルの男。
おそらくはレベルがあるからビバちゃんの『アイドル』の影響から免れている、その壮年の男に聞く。
「あんたは騎士団長かな? 近衛兵長かな?」
あるいは軍の偉い人かもしれない。
いずれにせよかなりの人物だ。
「それがしは宰相を仰せつかっている」
「えっ?」
文官のトップかよ?
レベル五〇超えてるし、身にまとう雰囲気がいかにも歴戦の猛者なんだけど?
何で武官じゃないのよ?
つくづくおかしな国だなあ。
ウルリヒさんが言う。
「グラディウス殿だ。若い頃は各地を遍歴していたと言われている」
「見ただけですごいやつってわかるよ? でもフェルペダって結構な国なのに、正体不明の人を宰相にしちゃうんだ?」
「ユーラシア君だって正体不明だからな?」
「そーいえばそうだった」
アハハ。
グラディウスと呼ばれた強面の男が言う。
「ビヴァクリスタルアンダンチュロシア王女殿下が『アイドル』の固有能力持ちであることは間違いない。伏せられていた事実であるがな」
「ふーん、まあ伏せたくなる気持ちもわかる」
ウルリヒさんがおそらくは『アイドル』だって言った時も、何のことかわかっていそうな人は少数だったもんな。
おそらく対処できないから、今まで放っておかれてるんじゃないか。
「これまで王女殿下は多くの人の前に出る機会を制限されていたんだ。しかし王女殿下も既に一八歳。次期女王としてずっとこのままというわけにもいかぬ」
「だろうねえ」
「かといってこのままでは王女を人前に晒せぬ。それがしは再三何らかの措置を取られるよう、国王陛下に申し上げていたのだ。」
「ことごとく当然だねえ」
「顔のメイクについて」
「顔のメイクかい」
道化みたいなメイクはこの際どうでもいいわ。
このおっちゃん、いかつい顔して冗談挟んでくるがな。
急に真面目な顔になるグラディウスさん。
「フェルペダが豊かな国であるが故に、行く末に危機感を感じている者は少数かと思っていたのだ。しかし先ほどのお主の発言で、ほぼ全員が王女とともにある未来に不安を持っているのだと知った」
「いや、まあ誰がどう見たって、ビバちゃんが女王になるんじゃヤバいと思うんじゃないかな」
「であるのに、これまで何の対策もしていない。衝撃だ」
「こっちがビックリだわ。どーして何もしてないの?」
「……王女殿下を教育できる者がいない、という現実がある」
「やっぱそーか」
『アイドル』の影響を受けない国王夫妻やグラディウスさんは激職だもんな。
ビバちゃんにばかり構ってもいられまい。
かといって影響受けちゃう人に、まともな先生役は期待できないということか。
考えてみると厳しい状況だな。
「王よ。王女殿下の影響を受けない者が四人もまいりました。これは神の思し召しです。王女殿下が変わり得る機会、フェルペダに安寧をもたらす最後のチャンスです」
「うむ、その通りだ。どうかビヴァを変えてくれんか」
閣下ウルリヒさんルーネと顔を見合わせる。
ビバちゃんの影響を受けないったって、ルーネは一杯一杯だったぞ?
閣下が言う。
「ユーラシア君、どうにかなるか?」
「ならんでもないよ。でもあたし達にメリットある?」
「フェルペダに貸しを作れば交渉は断然優位に進められる」
「フェルペダが混乱すると東方貿易は大幅に縮小するだろうな。正直俺は困る」
「むーん?」
ウルリヒさんが困るのは困るな。
ウルリヒさんが新たな不満抱えて帝国政府に警戒されちゃ、今までと何にも変わらない。
東方領開発が頓挫しかねない。
……あたしの固有能力『強奪』で『アイドル』を抜き取ればいいだろうって?
『アイドル』という強みにもなり得る固有能力を失った我が儘王女が生まれるだけだわ。
つまりビバちゃんの性根を叩き直さないと、ミッション成功にならない。
「かなーり荒療治になるけど構わない?」
「おお、ユーラシア嬢! 頼まれてくれるか!」
「任されたよ。じゃ、ビバちゃんこっちおいで。ゲームやるよ」
「ゲーム? 何なのよっ!」
不平を言いながらこっちに来るビバちゃん。
足取りが軽やかじゃないか。
不快でもないんだろうな。
ヴィルがちょっと喜んでるわ。
「ギロチンゲーム!」
「「「「「「「「ギロチンゲーム?」」」」」」」」
「今からあたしが質問しまーす! それに答えてください。間違った答えの場合、ギロチンを疑似体験してもらいます。いいかな?」
「面白そうねっ!」
あれ、ノリノリだぞ?
ビバちゃんは他人に遊んでもらった経験がほとんどないのかもしれないな。
不憫な要素もあるなあ。
「第一問! 平民がビバちゃんに言いました。今日食べるパンすらないのです。どうにかしていただけませんか? さて、何と答える?」
「パンがなければお肉を食べればいいじゃない」
後ろ見てみろ。
途轍もなく非常識な回答に、居並ぶ群臣が呆れた顔で首振ってるからな?
国王夫妻なんか頭抱えてるやんけ。
「ブブー、不正解。ギロチンアターック!」
ビバちゃんの首の後ろを軽くトンと叩いて昏倒させる。
「ぺしぺし。おいこら起きろ」
「はっ! 私は何を?」
「答えを間違えたので処刑されました。一ギロチンです。今はゲームだからいいけど、本番で間違えて首が落ちると元に戻んないから気をつけようね」
「こ、怖い!」
処刑される怖さを実感していただけたようだ。
「正解は何なの?」
「いや、あたしでもお肉を食べればいいじゃんって言うだろうな」
「正解じゃないのっ!」
「あたしだったらその場でお肉用意するわ。二〇分でお肉用意して、腹ペコの移民一〇〇〇人に食べさせたこともある」
「えっ?」
「困ってる人に手を差し伸べる。食べられない人に食べさせるのはその第一歩だぞ? 炊き出しを用意するんでも貧民のための施設を作るんでも、やりようはあるだろーが。税金を有効に使え。ビバちゃんが将来なる女王ってポジションとはそーゆーもん」
「困ってる人に……手を差し伸べる?」
「どーしてキョトンとした顔をしているのだ。理解しようがしまいが、これができないと首ちょんぱだと言ってるだろーが。首とおさらばしたくなければ覚えなさい」
「わ、わかったわ」
おーフェルペダの皆さんが期待に満ちた目で見てくるよ。
閣下ウルリヒさんルーネは面白い見世物だって顔してるけど。
一ギロチン、二ギロチン……。
ギロチンを単位で使ったのはあたしが世界初かも。