第2030話:道化のような化粧の女
お父ちゃん閣下もルーネもウルリヒさんも楽しそうな顔をしてるなあ。
まあエンターテインメントだけれども。
「はーい、じゃあ質問に答えてね。あたし達の認識に間違ってるところがあると言い訳が通じなくなるおそれがあるから、正直に答えてくださーい」
頷く騎士一同。
「あたし達を襲えと命令したのは誰なん?」
ギョッとするな。
黒幕の名前くらい当然聞くに決まってるだろーが。
「これ聞かなきゃ庇いようがないぞ? それに聞いたからって、あたしがその命令者を根に持ったりするわけじゃないよ。行き違いがあるのかもしれないからね」
隊長さんだろうか?
一番レベルが高い騎士が言う。
「王女様だ」
「姫様が?」
「えーと、現在の陛下の娘のビバ何とかちゃんで合ってる?」
モイスさんと騎士全員が頷く。
「変だな? あたしはビバちゃんに会ったことないんだけど」
ウルリヒさんが口を挟む。
「ビヴァクリスタルアンダンチュロシア王女殿下に会ったことがあるのは、一行の中で俺だけだ。かつて何か粗相でもあったろうか?」
「どーして騎士にあたし達を襲わせようなんて考えたのかな? 理由聞いてる?」
「イケオジを二人も連れているのが気に入らんと……」
斜め上の理由キター!
だからあたし個人が標的になってたのか。
理屈は通じるな。
「モイスさん、ビバちゃんってそーゆーことしそうな人なん?」
「実に姫様らしい所業でありますが……」
ビバちゃんらしいやり口なんかい。
よく知ってる人からの評価がそれかい。
ビバちゃんって相当ヤバくない?
ウルリヒさんが意外そうだ。
「ビヴァクリスタルアンダンチュロシア王女殿下は、俺の中では内気で人見知りという印象なんだが」
騎士達がメッチャ首横に振ってるがな。
とゆーことは?
「多分ウルリヒさんのことが好みのタイプで、あがっちゃってたからだよ」
正解のようだ。
騎士達が首を縦にコクコクしてる。
「つまりビバちゃんはイケオジ好きで独占欲が強いってことだな?」
「はい」
「我が儘って噂が結構広まってるみたいだけど、どの程度まで本当なん?」
「我が儘です」
理不尽な命令を出す、無自覚な嫌がらせもしばしば、お前のものは私のもの?
どこのいじめっ子だ。
いや、あたしも自分のことを我が儘と思ってるけど、ビバちゃんは我が儘に不純物が混ざり過ぎてるだろ。
「ビバちゃんって将来のフェルペダの女王様なんでしょ?」
「王位継承権一位の王女であることは間違いないです」
「メチャクチャを許していいと思ってる?」
「よ、よくはないのですが」
「諫めなきゃダメだろーが。言うこと聞くか聞かんかはビバちゃんの器量だけど、言い聞かせる努力するところまでは家来の役割だぞ?」
「と、ところが姫様には逆らえませず……」
「ビバちゃんを叱ると王様から文句言われるってこと?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
しどろもどろのモイスさんと騎士達。
何だろうな?
要領を得ないぞ?
ま、どっちにしてもビバちゃんに会わなきゃ始まらんか。
「もう一つわかんないことがあるんだ。騎士さん達はビバちゃんの護衛騎士で合ってる?」
「はい」
「レベルがバラバラなのは何でなの?」
高い人はレベル二〇近くから、おそらく新入りだろっていう人までいる。
指揮官はともかく、他は大体レベルが合ってないと集団としての強さが発揮できないんじゃないの?
フェルペダには違う考え方があるんかな?
モイスさんが言う。
「姫様は自分の護衛騎士として、将来イケオジになりそうな者を選抜したと聞いております」
「おおう」
顔で選んだのか。
ビバちゃん自身が全員を?
信頼できる者を選ぶんだったらわかるけどなあ。
「ビバちゃんが相当クセの強い子だってのは承知したよ」
「楽しみですねえ」
「あれ、ルーネも楽しみなの? 多分悪い子だぞ?」
「ユーラシアさんを見習って、興味の対象を広げることにしたのです」
うん、いいことだと思うよ。
少なくとも好き嫌いを顔に出しちゃダメなのだ。
あたし? 顔に出すに決まってるだろ。
何であたしが我慢せにゃならんのだ。
「最後に。フェルペダは帝国と関係切りたいとかじゃないんだよね? 本音でよろしく」
「もちろん末長き友好を志向していますぞ。偽りなき本音でございます」
よーし、聞きたいことは聞いた。
騎士達をも引き連れ、王様達の待つ広間へ。
◇
「カル帝国のドミティウス殿下、ウルリヒ公爵、ルーネロッテ嬢、ユーラシア嬢をお連れいたしました!」
モイスさんの声が朗々と響く。
ビバちゃんの護衛騎士はここまでか。
ヴィルの紹介が省かれたけど、肩車してるからあたしとワンセットかな。
許可が出て広間に通される。
「ん?」
「……変な感じがするぬ」
「そうだねえ」
夏なのに締め切ってあるのも違和感あるが、暑苦しさを感じないのは何かの魔道具みたいだな。
『氷晶石』を利用してるのかもしれない。
しかし実際に嗅覚を刺激するわけでもないのに、雰囲気が病的に甘ったるく思える。
何だこれ?
初めての経験だわ。
「周りの人も変だぬ」
今までしゃんとしてたモイスさんも部屋の中の人達も、全員がとろんとした目をしている。
いや、全員ではないか。
国王夫妻と思われる人とその隣の道化みたいな化粧の女性、もう一つの出入り口のところにむっつりとした顔で立っているレベルの高い武官は正常だな。
「ユーラシアさん……」
「あっ、ルーネ。気をしっかり持ちなさい」
抵抗はしているようだが、ルーネでも完全に影響を排除できないようだ。
一方で閣下とウルリヒさんは特に異常を感じてないみたい。
レベルが高きゃ影響を受けないってものでもないらしいな。
何だろう?
毒じゃないし、何かの精神に影響する状態異常っぽい。
ウルリヒさんが挨拶する。
「フランクリン陛下、エヴァンジェリン王妃殿下、ビヴァクリスタルアンダンチュロシア王女殿下、お久しぶりでございます。カルテンブルンナー公爵家当主ウルリヒにございます」
「おお、ウルリヒ殿! そなたらは平気なのだな?」
「は?」
光明を見出したかのような王陛下の声。
ウルリヒさん自分は何ともないかもしれんけど気付け。
この部屋明らかにおかしいだろーが。
王陛下の隣に座る道化女が立ち上がって叫ぶ。
「騎士達を差し向けたはずでしょう? 何故あなたは何事もないような顔をしているの!」
あのアホメイクしてるのが問題のビバちゃん?
面白臭がプンプンするのは確かだけど……。