第2021話:都合で決める、条件は大事
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
お父ちゃん閣下とルーネを迎えに、皇宮にやって来た。
今日は天使国アンヘルモーセンへお手紙を届けるお仕事だ。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵がニコニコしている。
「グスタフ様が昨日詰め所においでになったんだ」
「グスタフさん、A太父だね。何か言ってた?」
「一昨日あれからすぐにペルレ男爵家ゴットリープ様と連絡を取って、意気投合したそうな。ウルリヒ様と君に感謝するってさ」
「メッチャフットワークの軽い伯爵様だなあ。そんで男爵様もまだ帝都にいたんだね?」
「商売上の何らかの繋がりを得るためだろうな」
おっぱいピンクブロンドの父ちゃん男爵も、グスタフさんが覇気のある男って言ってたくらいだ。
きっとなかなかやるやつなんだろう。
具体的には、おっぱいピンクブロンドがもう少しバルリング伯爵家に食い込むまで帝都にいるってことだったかも。
でもおそらく伯爵と男爵は何らかの提携を結ぶと思うから……。
「あれ? するとA太とおっぱいピンクブロンドの真実の愛の行方はどうなるんだろ?」
「重要なのかい?」
「これっぽっちも重要じゃないけど、ビアンカちゃんを蹴散らしてまでくっつく気配だったんだから、結末は気になるとゆーか」
「わかるなあ。ビアンカ嬢も気の毒なことだ」
「ビアンカちゃんは次の縁談あるみたいだから、心配いらんよ」
「ああ、よかった」
ヤニック君とハンネローレちゃんの話が進めば、自然とビアンカちゃんの話も表に出てくるだろ。
「ラブい話は好物なんだもん。心の潤いとゆーか」
「心の潤いなんだぬ!」
「君自身のラブい話で潤せばいいじゃないか」
「まあねえ。花も恥じらう一六歳なんで気にはしてる。でもあんま都合のいい人がいないんだよなー」
「都合で決めるのか?」
「うーん、条件は大事だと思うんだ」
どーも自分自身の恋愛に本気になれないのは、条件を最初に考えちゃうからなのかなあ?
賢過ぎる頭脳にも困ったもんだ。
「今日はアンヘルモーセンへ行くんだって?」
「楽しみではあるねえ。世界に通貨を統一して商売しやすくしようぜっていう試みに、プリンスルキウス陛下もガリアの王様も賛同してくれたんだ」
「プリンスルキウス陛下……」
「実に言いづらいね。何とかしてくれんもんか」
「『プリンス』はいらないじゃないか」
「あたしの中で『陛下』ってお爺さんのイメージなんだよ。『プリンス』をつけて相殺したい。ガリアの王様もプリンスより若いから『王様』って呼んでるし」
「まあいいけれども」
呆れるなよ。
わかってもらえないのかなあ?
「テテュス内海で存在感の大きいアンヘルモーセンには、早めに話を通しておこうってことなんだ」
「ドミティウス様とルーネロッテ様も行くんだろう?」
「二人はもう詰め所に来てるの?」
「ああ」
どーすべ?
「今日ちょっと危険なんだ」
「危険? 外交使節だろう? 何故?」
「アンヘルモーセンに行くためには、ヴィルにビーコン持っていってもらって転移するのがセオリーじゃん?」
「改めて思うとすごいセオリーだなあ。それで?」
「アンヘルモーセンは天使がのさばってる国だから、悪魔のヴィルを連れてると確率一〇〇%で絡まれるんだそーな」
「転移以外の時はヴィルちゃんに他所へ行っててもらえばいいじゃないか」
「寄ってきた天使を叩きのめせ。そーすりゃアンヘルモーセンは大人しくなるって、ガリアの王様が言うんだ。くれぐれも言っとくけど、あたしの考えた作戦じゃないぞ? 王様の責任」
「ええ? 手荒にもほどがあるだろ」
「手っ取り早いとは思うから、天使をやっつける作戦自体はいいんだ。けど流れ弾が飛んだりすると危ないしなー」
無謀にも閣下やルーネを狙ってくると困るんだよな。
近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシアさん!」
飛びついてくるルーネとヴィル。
これが日常の風景か。
お父ちゃん閣下に話しかける。
「どうする? 今日は間違いなく天使にケンカ売られるらしいんだけど」
「ハハッ、いいじゃないか。使者に狼藉を働くようなことがあるなら、制裁を加える口実になる」
「ええ? 好戦的だな。天使はドラゴンよりよっぽど危ないんだってば」
「ユーラシアさんばっかり面白いところを独占しようとして。ズルいです」
何言ってんだルーネは。
ただのエンターテインメントじゃないんだぞ?
「マジで二人とも行く気なんだね?」
「ああ」「はい」
「しょうがないなー。これ覚えて」
ナップザックからスキルスクロールを取り出す。
「これは?」
「ドーラで開発された盾の魔法『ファストシールド』のスクロールだよ。最近帝国にも輸出してるから、知ってる人もいるかも」
閣下とルーネがスキルスクロールの封を切って開いた。
魔力に包まれるとともに盾の魔法を習得する。
「閣下、『ファストシールド』って唱えてみて」
「ファストシールド!」
閣下を蹴り飛ばすと、正門の門柱に叩きつけられる。
青い顔してる近衛兵がいるけど、すぐ起き上がって怒る閣下。
「何をするんだ!」
「何ともないでしょ?」
「えっ? あっ……」
我が身に起こったことが信じられない様子の閣下。
首を回したり腕を回したりしている。
さもありなん。
「理論的に耐性のあり得ない衝波属性以外のダメージをゼロにする魔法だよ。効果時間内の数秒間は、世界最大の魔法を食らおうがドラゴンに齧られようが無傷。副次的に基本八状態異常や即死攻撃も無効化するよ。うっかり元公爵はラグランドの五〇段ある階段のてっぺんから転げ落ちたけど、うまく盾の魔法を使えたようで無傷だったんだって。『不死身の公爵』と呼ばれるようになったそーな」
「盾の魔法か。いや、効果は我が身をもって知った。すまないね」
「あたし達と天使の戦闘が始まったら、閣下とルーネはとにかく『ファストシールド』使って一ターンやり過ごしてね。その間に片付けるから」
戦闘初心者の魔法かけるタイミングに頼んなきゃいけないというのがどうにも気に入らないが、この際仕方ない。
自己責任でお願いします。
「ヴィル、ガリアの王宮の玄関前にビーコン置いてくれる?」
「わかったぬ!」
さて、ガリアの親書ももらってくるべえ。
さあ、トラブルの始まりだ(笑)!