第2020話:一〇〇%なのかー
――――――――――三一〇日目。
今日は凄草株分けの日。
いつものように畑番の精霊カカシ、大悪魔バアルとお喋りしながら作業している。
「全然問題ないぜ。丈夫だし、オイラの管理下になくても勝手に増えるぜ」
「ほうほう。ありがとう、カカシ。頼りになるう」
「照れるぜ」
昨日ヴォルヴァヘイムで手に入れた新たなハーブ候補のことだ。
どうやら生育に魔力濃度は関係のない植物のようなので、ぜひ増やしてみよう。
「ちょっと嗅いだことないような甘さを感じる匂いじゃん? スイーツに合わせられるんじゃないかと思うんだ」
「味がとんでもなかったらどうするんだよ?」
「味がアウトなら料理には使えないな。でも香料の材料としてエメリッヒさんが興味持つでしょ。使い道はあるね」
「ふむ、有望であるな」
「育つことが確認できたから、朝食で少しハーブティーにしてみるよ」
味もわかるだろ。
多年草で葉っぱが材料のやつは、いつでも使えるから有望なんだよ。
「今日は忙しいんだろ?」
「忙しいねえ。やることなすことが固まっちゃって。イベントは順番に来て欲しい」
「天使の国に鉄槌を下すのであろう?」
「バアルすげえ嬉しそうだね。アンヘルモーセンへは午前中に行く予定だよ」
「吾が主はハプニングに恵まれているからして、絶対天使どもにいちゃもんつけられるである。吾が主のことであるから心配はしておらぬであるが、懲らしめ方には注文があるである。二度と逆らわないように、こてんぱんにするである!」
「まー天使が逆らいやがると、話が進まなくてあたしも迷惑だからな。なるべくバアルの期待に沿うようにするよ」
「実に楽しみである!」
ハハッ、悪魔と天使は仲悪いなあ。
あたしから見ると共通点も多いんだけどな。
人間の感情を糧にするとか横柄なところがあるとか。
「午後はフェルペダ行き。どっかでドワーフの集落行って、注文してた転移石碑もらってこないといけない」
「転移石碑はいつでもいいじゃねえか」
「あたしとしてはね。でも取りに行くのが遅れると、ドワーフがむくれるんだもん。あたしがお肉持ってくの楽しみにしてるんだよ。お肉を心待ちにする気持ちはひっじょーによくわかるから」
ドワーフとはいい関係でいたいしな。
どっか空き時間で行ってこなくては。
ぴー子のエサもあったわ。
マジで今日忙しいな。
「問題なのはアンヘルモーセンの天使どもである!」
「おお?」
「バアル気合い入ってるね」
「当たり前である! アンヘルモーセンは天使の牙城であった。これまでアンヘルモーセンに一矢報いることは誰にもできなかったことなのである!」
「そうなのかよ?」
「うむ。吾が主はサラセニア大公死後のクーデターで、アンヘルモーセンの思い通りにさせなかったであろう?」
「サラセニアがアンヘルモーセンの手に落ちたら、あたしが迷惑するだろーが。何で天使やアンヘルモーセンの都合であたしが引かなきゃならんのだ。許せないわ」
「実に悪魔的な理屈である。惚れ惚れするである」
「いやん、バアルったら」
アハハと笑い合う。
「これまでアンヘルモーセンは、些細な躓きさえなかったってことなのかい?」
「建国以来なかったである」
「マジか」
メッチャすごい。
おそらくは未来予知できる天使がいるからだろう。
天使への信仰が篤くなる理由もわかるな。
敵に回したくはないが?
「サラセニアでアンヘルモーセンの手の者を退却させた! これは輝かしき歴史的勝利である! 吾は主の僕として誇らしいである!」
「こんなに大悪魔が喜ぶのも珍しくねえか?」
「珍しいねえ」
バアルはスケールの大きい悪魔だから、意に染まないアンヘルモーセンをいつかどうにかしてやろうって考えてたんだろうな。
まあでも予知の天使がいて対策を取れる国だからな?
仮にバアルが帝国の主席執政官閣下を動かせたとしても難しかったと思う。
「アンヘルモーセンへは帝国とガリアの親書を届けるだけなんだ。何事もなければ一時間もかからないお使いなんだけど」
「何事か起こる予定なのかい?」
「ヴィルを連れてうろつけって。そうすりゃ天使が絡んでくるから、やっつけて天使の影響力を減少させろって、ガリアの王様が言うんだ」
「素晴らしいである! ピエルマルコは見どころがあると思っていたである!」
「バアルのテンションが高いなあ」
どんだけ天使を嫌ってるんだろ?
ヴィルも天使嫌いみたいだけど、これほどの反応は見せなかったしなあ。
「バアルの考えだとどう? アンヘルモーセンの天使はつっかかってくるかな?」
「天使どもの高位魔族嫌いは異常である。ヴィルを連れているならば、一〇〇%主の前に現れるである」
「一〇〇%なのかー」
えらい優秀な悪魔探知センサーだな。
つまらんところじゃなくて、もっと能力を有益なことに使えばいいのに。
「アンヘルモーセンに常駐する天使はおそらく二〇人前後、その内首都シャムハザイには一〇人強いると思うである」
「参考になる情報じゃねえか?」
「とゆーことは、一〇人強の天使が因縁つけてくるのか。めんどくさ」
「面倒って言う割には、ユーちゃん嬉しそうじゃねえか」
「わかる? 今日の首尾次第で、通貨単位統一計画が順調に進むかが決まるんだ。つまりあたしが世界の王になれるかなれないかってことだね」
「主が世界の王となるのは僕として鼻が高いである! おまけに天使を駆逐するならば、こんなに痛快なことはないである!」
「どうどう。少し落ち着きなさい」
ドーラ独立戦争の時もバアルのテンションは高かったのかなあ?
あの時はあたしやドーラの利益と反していたからバアルは敵だったけど、今のバアルはうちの子(仮)だ。
出過ぎたマネをする天使を叩いておくことは、あたしや世界の利益にもなる。
バアルを喜ばせてやることにしよう。
「午後のフェルペダも面倒な仕事なのかい?」
「いや、そっちはエンターテインメントなんだ。ただ今日は挨拶だけだよ。偉い人との会談は明日の予定」
「今日天使をぐうの音も出ぬほど痛めつけるのもエンターテインメントであろう?」
「バアルのエンターテインメントは幅が広いな。暴力反対派のあたしにはわからんよ」
「ユーちゃん、顔がニヤついてるぜ?」
アハハと笑い合う。
「さて、株分け作業終わり! 朝御飯だ!」
一〇〇%絡まれるらしい。
じゃああたし達が天使国へ行くことも、一〇〇%予知しているってことかな?