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2016/2453

第2016話:暴露

 フイィィーンシュパパパッ。


「あっ、ユーちゃんいらっしゃい!」

「あーんどおにーく!」

「やったあ!」


 小躍りするバエちゃん。

 いつも思うけど腰のキレがいいなあ。

 お肉は問答無用の絶対正義だから、バエちゃんくらい掌の上で躍らせるんだろ。

 どこだお肉の掌は?


「御飯食べにくる?」

「来たいんだけど、明日と明後日外国に行かなきゃいけなくてさ。帰れる時間がわかんないんだよね。三日後どーだろ?」

「三日後ね。カレーにしましょう」

「お肉たっぷりカレーだ!」

「幸せの響きねえ。魂がスパイスに塗れる心地良さ」

「それは心地良いのかなあ? あたしの純真な魂は、スパイスに塗れることを望んでない気がする」


 アハハと笑い合う。


「この前シスター・テレサにもらった、えんしんぶんりきの模型だけどさ」

「ええ、どうかしら?」

「かなり面白いね。こっちの世界ですぐに応用ってわけにいかないけど、興味持ってる人もいるんだ。先々楽しみなことになりそう」

「よかったわねえ」

「シスターにお礼言っといてよ」


 困ったような顔をするバエちゃん。


「私もしばらくシスター・テレサに会う機会がないのよ。『アトラスの冒険者』廃止後じゃないと」

「あ、そーか」


 シスターは先月一杯で『アトラスの冒険者』を退職したんだったか。

 魔法のスキルスクロールを売る店と言っていた。

 異世界の需要は知らんけど、商売うまくいくといいなあ。


「バエちゃんとこの世界でも、転移転送の類は一般的じゃないんだ?」

「一般的ではないわねえ」

「でも『アトラスの冒険者』の転移転送ってすごいじゃん? 遠隔で転送魔法陣設置したりとか」

「研究が危険な上に実用化しても大規模輸送に使えないことが判明したから、用いられているのは要人の長距離の行き来くらいよ。個人レベルの転移の玉を持っているのは、本当に『アトラスの冒険者』の関係者だけ」

「マジか」

「初期の『アトラスの冒険者』は、転移転送の実験台という側面もあったと思う」

「何それ怖い」


 技術の進んでいる向こうの世界でも、転移転送の研究は危険なんだな。


「大規模輸送に使えないというのは、魔力を大量に消費するからだよね?」

「ええ。ある一定以上の範囲の魔力が急になくなると、災害が起きるって聞いたわ。詳しくは知らないけど」

「ある場所の魔力濃度が急に高くなると、どえらい魔物が出現しちゃったりするんだよ。逆もヤバいとゆーことは知らなかったわ。覚えとこ」


 向こうの世界の転送魔法陣や転移の玉は、リアルタイムで周辺の魔力を取り込んで使うからだろう。

 魔力炉で作ったりあらかじめ溜めといたりする魔力なら、急に周辺の魔力がなくなって危険という事態は起こりそうにない。

 でも大量に魔力を必要とすることは変わらんもんな。

 やっぱり大規模輸送には向いてないと考えるべき。


「ねえ、ユーちゃん?」

「何だろ?」

「シスター・エンジェルのことなのだけれども。ユーちゃん前に、シスター・エンジェルは逃げた精霊使いの密接な関係者だって言ってたじゃない?」

「言った覚えがあるな。それが?」

「シスターが逃げた精霊使いと親子なんじゃないかって、噂が流れてるの」


 無乳エンジェルも正念場だな。


「逃げた精霊使いは旧王族って言ってたじゃん。旧王族を赤眼族としてこっちの世界に追放して、監視組織として『アトラスの冒険者』を作るくらい、そっちの世界は旧王族を警戒してるんでしょ? 逃げた精霊使いがエンジェルさんの子ってのがほんとだったとしたら、トップシークレットなんじゃないの?」

「か、かもしれないけど」

「どこから出た噂なん? 信憑性はあるん?」


 せっかくだから情報収集したろ。


「会議の席上だって。シスター・エンジェルが逃げた精霊使いを発見した、捕らえる準備に入っていると発言したすぐあとで、シスターのライバルと目されている副評議長が暴露したって」

「ふーん?」


 おそらく無乳エンジェルは、向こうの世界の神様と完全な連絡が取れたのだ。

 遠征準備に入ってると見ていい。

 副評議長が暴露したっていう理由はわからんな?

 エルが旧王族というのは、現政権にダメージを与え得る諸刃の剣じゃなかったのか?

 単なる先走りか?

 いや、他の誰かも同じ情報を掴んで、秘密にしてる意味が薄くなったから暴露しちゃえってことだったかも。


「シスター・エンジェルは否定しなかったそうなのよ」

「バカバカしいからスルーしたんじゃないの?」

「そうねえ。でもユーちゃんが密接な関係者だって言ってたから、私は引っかかっちゃって」


 顎に手を当てて首をかしげるバエちゃん。

 噂の真偽がどうであれ、『アトラスの冒険者』事業の終了まで残り二ヶ月もない。

 となると副評議長の思惑は?


 ……わかった。

 真偽がうやむやのまま、無乳エンジェルが『アトラスの冒険者』の所長を勤めてる内に元王族エルを捕らえさせる。

 あとからスキャンダルの証拠をぶち上げて、無乳エンジェルをエルともども葬り去る作戦だな?

 そーはさせるか。


「バエちゃんに手柄をあげよう。以前こっちの世界にいるあたし以外の『精霊使い』の固有能力持ちの話したじゃん?」

「ええ。覚えているわ」

「その子はエンジェルさんの娘で、逃げ出した精霊使いなんだ。本人に直接聞いたから間違いない」

「えっ? で、でも、シスター・エンジェルはユーちゃんの話を聞いて、違うって判断してたみたいだけど」

「その子はエルって名乗ってるんだけれども、偽名なんだって。だからエンジェルさんも誤認したんだと思う。本名はあたしも知らない」


 この話が向こうの世界に伝われば、無乳エンジェルは外野からの攻撃の対応に追われる。

 ロクに準備もできないまま遠征する羽目になるか、あるいは解任されて遠征の話自体なくなるかもしれない。

 ……どっちにしても『アトラスの冒険者』の機能停止が早まるのは間違いなさそうだなあ。

 寂しいことだ。


「早めに教えてくれればよかったのに」

「まーそっちの世界のゴタゴタにこっちが巻き込まれるのは敵わんからな? 情報絞ることはあるわ」

「ユーちゃんは考えてるのねえ」

「バエちゃんに提供できる最後のボーナスネタになりそーだな」

「ユーちゃん、ありがとう」

「三日後楽しみにしてるよ」

「ええ、またね」


 転移の玉を起動して帰宅する。

チュートリアルルームとゆー隔絶した場所に押し込まれてるから仕方ないが、リアルタイムの異世界の情報はバエちゃんから得られん。

油断してるとエルを奪還されそーだ。

どうにかせねば。

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